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あなたの虜  作者: 七緒湖李
番外編
160/161

小鞠編2

ベンノが集合場所とした食堂には、シモンをはじめ魔法使いの三人を除く臣たちが集まった。

澄人とゲイリーもシモンの執務室にいたようで、彼らとともにやってきたが、ジゼルだけは魔法使い塔にいたようで使いとなったスサンとともに遅れて現れた。

魔法使いたちだが、まずトーケルが本日は仕事休みで城下に出てしまっていた。

そしてリクハルドとグンネルはマッティ魔法長官の出張に同行してるということだった。

食堂に現れたシモンは最初、ベンノの悪ふざけに小鞠が巻き込まれたと思っていたらしい。

しかし小鞠がうきうきと顔を輝かせていたために、それは誤解と気づいて、今度は針で刺した人差し指の怪我を心配された。

「何人かは来られなかったが集まりは上々。ではこれより「かくれ追いかけっこ」を始める」

焼きたての菓子やクレープをいくつも平らげ腹いっぱいになっていたベンノが、椅子を鳴らして立ち上がった。

かくれ鬼ごっこと小鞠は教えたはずが、日本語で聞こえるためかベンノは覚えられなかったようだ。

ベンノの造語に誰もがきょとんとしている。


「「かくれ追いかけっこ」とはなんだ?」

疑問顔で尋ねたシモンにベンノは「かくれ追いかけっこ」の遊び方を説明して、隠れるのも逃げるのも王族塔のシモンと小鞠が暮らす一角と、王族たちの共有スペースまでと範囲を告げた。

王族塔の一部とはいえ、それでも大きな屋敷くらいの広さはある。

ベンノ発案の「かくれ追いかけっこ」をいち早く理解したのは、小鞠と同じ日本人の澄人だった。

「それってかくれ鬼のことやんな?ん~?せやけどかくれ鬼って、でんしたら鬼が交代するんちゃうかったっけ?」

日本語を話している澄人から小鞠でもよくわからない言葉が聞こえてきた。

(「でん」?……タッチっとかって意味かな?)

澄人の方言は関西弁だからテレビなどでわりとポピュラーに聞いていたし、結構慣れ親しんでいるつもりだったが、やはりときおり理解できない言葉が混じる。

いまのように地元民しかわからないような言葉が聞こえてくる時があった。

言葉の壁をなくしてくれるはずの魔法石だが、同じ日本語だと通訳してくれないらしい。

それとも通訳機能は万能ではないのかもしれない。


例えばベンノの気に入った「鬼」という言葉。

鬼は地獄にいると言われているから、「悪魔」とか「魔物」と変換されてカッレラの人たちに聞こえてもよさそうなのに、日本語のまま聞こえている。

他にも「ユニコーン」ではなく「一角獣」と言ったら、こちらの世界の人に通じるということもあるし、その逆も然りでシモンが別の言葉に言い直してくれて、やっと日本語に聞こえてくることがあった。

前から思っていたが通訳魔法の法則がよくわからい。

小鞠がチラリと左手首を見たところで、澄人が体をほぐしながら一歩進みでた。

「やー、童心に帰れそうで燃えてきたわ。ほんなら、じゃんけんで鬼決めよか」

「ジャンケン?」

澄人の言葉に真っ先に興味を示したのはベンノだった。

こちらの世界の者は皆じゃんけんを知らないようだ。それに鬼もわからなかったようで、ベンノ以外が一様に首を傾げてしまう。


「鬼っちゅうんは隠れている人を探す役のことや。で、じゃんけんってのは手の形をこうやって変化させて、「石」「鋏」「紙」を表して勝敗を決める手段やねん。こっちやとコイントスとかするんやろうけど、じゃんけんは身一つでできるし、グループ分けにも便利やで」

ほぅ、とベンノが澄人に近づいたのをきっかけに、皆が周りに集まって詳しい説明を受ける。

その脇でジゼルが物言いたげな様子を見せた。

「ちょっと「井戸」がないじゃない」

「フランス流のじゃんけんはややこしいやん。グー・チョキ・パーの三すくみ構成がわかりやすいから我慢してぇな」

再び澄人がカッレラの者たちにじゃんけんのレクチャーを始めたところで、小鞠はジゼルに近づいた。

「ねぇジゼル、「井戸」ってなに?」

「「井戸」は「石」と「鋏」に勝てる手なの。こうやって手のひらを丸くして、輪を作るようにするのよ」

利き手で輪を作ったジゼルがフランス流のじゃんけんを教えてくれた。

「石」と「鋏」、つまりグーとチョキ は「井戸」に落ちるから負けとなるようだ。

「井戸」に勝てるのは井戸を塞げる「紙」でパーしかないらしい。

(ん?あれ?……ってことは「井戸」とパーは2/4の確率で勝てるんじゃないの?)

フランス流じゃんけんは公平性に欠ける。

それに一見、グーと見分けがつきにくかったりしないだろうか?

なんて思って小鞠が尋ねたら案の定、どちらかわからないような手を出したり、こっそり変化させたりするらしく、「子ども同士だとそれでよくケンカするの」、ってジゼルが笑いながら教えてくれた。


澄人の説明を聞く人の輪に入っていないゲイリーはじゃんけんを知っていて、日本のじゃんけんと変わらないのだと言った。

「ゲイリーさんもかくれ鬼ごっこに参加するの?」

「もちろんだ。勝ちに行く」

くるくるしたくせ髪と同じ色の焦げ茶色をした瞳には珍しく闘志が浮かんでいる。

その様子に小鞠はピンと来た。 

「もしかして澄人さんとなにか勝負でもした?」

「察しがいいな。探す者から逃げ切った回数が多いほうが勝ちだ」

「ふーん。負けたほうが勝ったほうの言うことを何でも聞く、とか?」

「まぁそんなところだ」

ふ、と口元を笑ませたゲイリーだ。

何を賭けたのか言うつもりはないらしく、笑顔に誤魔化されてしまった。

庭園パーティで見せたゲイリーと澄人の二人の身体能力からして、捕まえられる人のほうが少ないだろう。それでなくともスカート姿の小鞠たち女性は不利だ。

ここはハンデをもらうべきだろうか。

と、そこへ。


「おいスミト、以前わたしが「オニ」とはなにかと尋ねたときは、知らないふりをして誤魔化していたくせに。要するに「ジャンケン」で負けるような者、つまりは「最弱な者」という意味だったのだな」

ふいに普段より低くなったテディの声が聞こえて小鞠は何事かと顔を向けた。

「えぇ!?ちゃうで鬼は日本人にとって、ものすごく強くて怖いもんっていう恐怖の象徴で――あっ!」

テディに凄まれていた澄人がまずいという顔で口を押えた。

しかしテディはばっちり聞いたらしい。ぐるん、と振り返ったテディの薄緑色の瞳と視線があって、小鞠は反射的に背筋を伸ばした。

「コマリ様」

「ひっ………はい」 

テディの背後で澄人が「ごめん」と手を合わせている。

(澄人さんのバカぁ~)

王妃修行でテディにしごかれ続けるストレスから、彼に向けて「鬼」と呟く回数が増えていた。

意味がわからないだろうという安心感が、口に上る頻度を高くしていたのだ。


「わたしを最強の者とおっしゃっていたのですね」

「へ?」

「誰もが恐れ戦く恐怖の使者というのが「オニ」なのでしょう?」

あれ?てっきり怒らせたかと思ったけど?

鬼の形相になってもおかしくないテディの面には、うっすら笑みまで浮かんでいる。

よし、ここは最強の者と思い込んでいるテディの誤解を利用しよう。

「そ、そうそうそう!そうなの、テディ。鬼ってね、冷酷非道で無慈悲な、それはもう恐ろしい存在で――」

「ほう、なるほど」

しかし調子に乗って小鞠が鬼の恐ろしさを強調したとたん、テディの声音が先ほど澄人に向けたものより一段と低くなった。

同時に表情が一変する。

「冷酷非道で無慈悲な、人から恐怖されるような存在ですか」

「………………」

「コマリ様は常日頃からわたしをそのようにお思いだったのですね。へぇ……そうですか」

「だ……」

騙したなぁ~~~!

怒ってないそぶりで油断させて、こっちの情報を引き出したんだっ。

そう言い返したかったけれど、室内の温度が一気に下がったように思うくらいの冷たい笑みを向けられて、実際は一歩後ろにたじろいでいた。


(やばい、マジ怒りっぽい)

だらだらと冷や汗が流れる思いで小鞠は小さくなるしかできない。

「そんなこと思ってないもん。でも勉強中のテディは容赦がなくて厳しいから、ときどき文句を言いたくなるんだもん。普段は頼りにしてるもん」

目を合わせないようにして本音を吐露する小鞠は、くす、という笑い声が聞こえて顔を上げた。

怒っていると思われたテディが呆れともつかない顔で笑った。

「冗談です。怒ってなどおりませんよ。「オニ」の意味もわたしが思っていたのとあまり違っていませんでしたし。少しからかい過ぎましたか?」

ほーっと小鞠が安堵の息を吐いたところで、パウリが首の後ろで両手を組みながら口を開いた。

「いつも思うけどテディのそれ、慇懃無礼と紙一重じゃ――ぐぁっ」

しかし、言い終わる前にテディに腹を蹴られ、前かがみになって呻く羽目になってしまった。

ドリスがいい気味だとばかりににやりと笑んで、腹をさするパウリが笑うなと文句を言った。

最近の二人は以前と違ってよき喧嘩仲間となっているのか、男女ながらに悪友と言った関係を築きつつあるように見えた。


「テディは親しみを持った相手を虐めるという悪癖がある」

シモンは歩んでくると、慰めるように小鞠の頭を撫でた。

そういえばシモンもときどきテディに笑顔で詰め寄られている。

あれと同じことをされるくらいに、テディに親しまれているということか。

嬉しくなった小鞠がテディを見ると、サッと顔を背けられてしまった。

あれ?

表情を曇らせる小鞠の頭を、シモンがぽんぽんと優しく叩いた。

「本当のことを言われて気まずいだけだ。パウリも気に入られているようだぞ。よかったな」

「シモン様、わたしはこいつに一片たりとも親しみを抱いておりません」

パウリのことはすぐに否定するテディだ。

「テディ、てめぇ。いつかまとめて返してやるからな、覚えとけ」

パウリが吠えてもふんとそっぽを向いてテディは意に介さない。

むかつく、と拳を握るパウリをオロフが肩を叩いて慰めた。

話を終わらせるようにベンノがポンと軽く手を打って皆の注目を集めた。


「ではそろそろ「かくれ追いかけっこ」をはじめようか。オニに見つかっても15秒は猶予があるからそのまま遠くに逃げるもよし、どこかに隠れるもよし。オニは全員を探しきれないと思ったらギブアップしてよいからな。大声で降参を宣言してくれ」

じゃんけんを始めようと皆が集まるなか、エーヴァをはじめ侍女たちは見守るように壁に寄る。

「何をしている。おまえたちも参加するのだぞ?」

ベンノが呼ぶと彼女らは首を振った。

「え?いえわたしたちはコマリ様のお側に――」

「そんなことしたらすぐに見つかっちゃう」

「本人もこう言っている。ほら、早く来い」

手招くベンノにエーヴァが困った様子でシモンを窺った。

「よい、こういった遊びは大人数のほうが楽しいものだ」

「シモンもコマリもいいって言ってるんだから参加しちゃいましょ」

見かねたジゼルがエーヴァの背後にまわってほらほらと背中を押した。

ドリスたちは困惑しつつも、侍女長のエーヴァがじゃんけんの輪に加わったことで同じように輪に入る。


「ほーい、じゃあいくで~。ジャーンケーン――」

ホイ、で遅れず手を出したのは小鞠と澄人だけだった。

ジゼルとゲイリーはわずかに遅れ、カッレラの者たちがばらばらと手を出す。

「ちょぉ~、後出しはあかんで。ジゼとゲイリーはじゃんけん知ってんやろ」

「日本の掛け声に慣れてないんだから仕方ないでしょ」

ジゼルがぶーと顔を顰め、ゲイリーは澄人の文句はスルーしている。

「掛け声にはあのような節がつくのか」

「一斉に出すのもけっこう難しいな」

「最初がジャンケンホイで勝負がつくまでアイコデショ?だっだよな?」

カッレラの者はそれぞれにじゃんけんの確認をしている。

(じゃんけんぽんじゃないんだ)

掛け声の違いを面白く思いながら、皆がグー・チョキ・パーの確認をするのを見ていた小鞠だが、思い出したことがあって声を上げた。


「そうだ!ベンノ、最初の鬼って――」

「ああ、そうであった。シモン、コマリがおまえと勝負したいらしい。故に「オニ」はおまえからだ」

「は?」

本当か、というようにシモンがこちらに向き直ったため、小鞠は力いっぱい首を縦に振った。

「シモンとの勝負で勝ってみたいの」

「そうか」

意気込んでの小鞠の返事にシモンは笑った。

むむ、勝てないと思っているな。

「ではシモンがオニだな。言っておくが愛魂でコマリの居場所を探るのはなしだぞ」

「そんなことはしない。開始場所はここでいいな。わたしに捕まった者はここへ集まるように。よし、いまから100数える」

目を瞑ったシモンが数を数え始めた途端、蜘蛛の子を散らすように人が駆け出した。

食堂を飛び出した小鞠はしかし、背後にエーヴァをはじめとする侍女たちがくっついてきていたことで足を止めた。


「もー、みんなもばらけて隠れていいんだってば」

「ですがコマリ様をお一人にするわけには」

「シモンもいいって言ったでしょ。はい、じゃあエーヴァはあっち、スサンはそっち、ドリスは向こう、サデは途中までわたしと一緒に来る」

それぞれの隠れる方向を指さしてから、小鞠はサデの手を取って廊下を駆け出した。

「ついて来たらこれからわたし、みんなのお仕事奪って自分で部屋の掃除するからね!」

振り返ってそう言った瞬間、エーヴァたちの足が止まる。

「隠れるの」と念押しすると、侍女たちはそれぞれ小鞠が示した方向へ駆けていった。

はぁ、やっと行った。

仕事熱心なのも困ったものだ。


「あ、あの、コマリ様。足がもつれそうです」

「あ、ごめん。強く引っ張りすぎた?」

走るのをやめて歩き出すとサデは手で胸を押さえた。

「コマリ様は足が速いと伺っておりましたけれど、まさかここまでとは思いませんでした」

「え?そんなこと誰に聞いたの?」

「庭園パーティでは見事な走りっぷりだったと参加された方たちが口々に」

「向こうの世界じゃ普通だったけどな。持久力もないし」

「わたしはコマリ様のおかげで風になれたようでした」

ふふと笑うサデの可愛らしさに小鞠はズキューンと悩殺される。

(ヴィゴが彼氏になってからサデの可愛さに磨きがかかってる)

どこか弱々しいイメージだったサデはヴィゴの大怪我をきっかけに、凛とした強さを秘めた女の子へと変貌した。

そのくせ小動物のような愛らしさは健在で、サデにときめく男が急増している、とはスサンの弁だ。


「ねぇサデ、ヴィゴのリハビリは順調?二日ほど前に医薬師塔から魔法使い塔に戻ったってシモンに聞いたけど」

小鞠の問いかけにサデは目を瞬いた。

実はサデを連れてきたのはヴィゴの話がしたかったからだ。

医薬師塔での療養が終わったのは完全復活となったからではない。

王宮医師によれば人は一週間寝たきりで筋力が20%低下し、元に戻すのに一ケ月かかるという。ヴィゴはその倍ほども意識がなかったのだ。

それに腹の傷はふさがったとはいえ、重いものを持ったりすれば痛むらしく、その痛みがあるうちは無茶をしてはいけないとも医師は言っていた。

将来体に不調をきたすのだと。

そんなわけヴィゴのリハビリは腹の具合を見ながらで長引くとされていた。


「はい。本当はもっと早くに戻れたそうなんですけれど、ヴィゴさん、一人だとずっとリハビリをしてしまうんです。だから医師様が戻る許可を出さなかったようです」

「焦って体に負担をかけたら、結局治りが遅くなるかもしれないものね」

怪我や病気のあとは無理は禁物だ。

サデも同意するように頷く。

「だから無茶はしないでくださいって、わたしからもお願いしていました。いまはもう随分筋力が戻ってきたみたいで、回復の速さに医師様も驚いていらっしゃいます」

嬉しそうな様子のサデにホッとしつつ、小鞠はもっとも気になっていたことを尋ねた。

「左目は?視力は落ちたりしていない?」

眼鏡のレンズに傷を受けたのは左の瞼だけれど、眼鏡が割れた衝撃が直接眼球にも及んでいたかもしれない。

それが将来視力を奪うきっかけになることもあるのだそうだ。


「なんともないみたいです」

サデの表情の変化を見逃すまいと小鞠は、じっと観察したがずっと嬉しそうなままで、嘘をついているようには見えなかった。

「そっか、よかったね。じゃあヴィゴがもっと元気になったら、今度は二人でデートしなきゃね」

「え?」

「お休みがほしいときはいつでも言って。何なら数日休んで旅行とか――」

「い、いいえ!お気遣いいただかなくとも大丈夫ですから」

頬を染めて首を振るサデに小鞠はにやにやと言った。

「えー、ヴィゴは嬉しいと思うけどなぁ。ラブラブ旅行」

「コマリ様、からかわないでください」

真っ赤になるサデが可愛くて小鞠はアハハと笑ってしまう。

普段、シモンを始めいろんな人からからかわれる小鞠だが、その気持ちがわかる気がした。

「恋バナしてるだけ」

「デートといえばコマリ様。確かシモン様と時節送りの日にお忍びデートをなさったのですよね」

にっこり微笑むサデにお忍びデートを強調されて、小鞠は肩を竦めた。

澄人とゲイリーとジゼルに協力してもらって、こっそり王宮を抜け出したと知っているらしい。

以前のサデなら笑顔でやり返して来たりしないはずだ。

ヴィゴのことがあってサデは強くなったと小鞠は感じていたが、どうやら気のせいではなかったようだ。


「エーヴァあたりからあの日のことを聞いた?だんだん簡単に逃げられなくなってくな~」

「逃げないでください」

「冗談よ」

これ以上は藪蛇になりそうで小鞠は話題を転じた。

「えーと……あ、その城下デートのときにね、わたしとシモンで、オロフとオロフのことが好きな女の子との仲を取り持ったのよ」

最初、オロフに片思いしているブリッドと知り合ったのは偶然だ。

二度目に彼女に会ったとき、オロフに片想い中とは知らず相談に乗って、二人で話し合うよう助言した。

あのあと二人はつきあいだしたのだし、キューピッド的役割をしたと話を盛ってもいいだろう。

「わ、時節送りの日にカップルになったんですか?素敵ですね。オロフ様の彼女はどんな方なんですか?」

「なんか一人でぐるぐる考えちゃうタイプみたいでね。わたしも似たところがあるから、オロフにはそういうところしっかりフォローしてあげなきゃダメって言ってあるの」

「え?コマリ様はいつも迷いがないように見えます」

それは見せないようにしているからです、とは言わないで小鞠は曖昧に笑ってごまかした。


「それでね、このあいだオロフに彼女と仲良くやってるのか尋ねたんだけど、どういうわけか無言になっちゃって――そのあと何か言いかけてすぐにやめちゃったの。積極的がどうとかって……どういう意味かな?」

「オロフ様が彼女に対して積極的に出たいけれど、できないのではないですか?」

「うーん、オロフってテディ曰くストイックみたいだし、だったら自分のことより相手に合わせるんじゃないかなぁって気も……」

「では彼女に言い寄る積極的なライバルが現れた、とかでしょうか?」

「なーる、それで気が気じゃないってことね。だからあのとき困ったような顔をしてたのか~」

「王宮ではオロフ様に彼女ができたことを、残念がる人がたくさんいそうです」

「マーヤみたいな筋肉好きな女の子?」

「マーヤさんのような趣味を持つ方もでしょうけれど、シモン様の近臣の中では、オロフ様は旦那様にしたい人一位なんです」

王宮で働く女の子たちはかっこいい男性をチェックしていると、小鞠は以前聞いたことがあった。

特に国王や次期国王となるシモンに仕える者たちは目立つらしい。


「テディが一番人気じゃないの?」

「総合的にはそうですけれど、いろんな部門があるみたいです。恋人にしたいとか友達にしたいとか上官にしたいとか」

どこの世界でもいい男ランキングをするものなのか。

いい女ランキングもありそうだなぁ。

「見た目からして頼りがいがありそうだし確かに一番家庭的かも」

「はい」

頷くサデも小鞠の意見に異論はない様だ。

仲良く廊下を歩く小鞠とサデは、いま何をしているのかということをすっかり忘れていた。

背後から走ってくる足音が聞こえてきたため、二人はのんびりと振り返る。

「お姫さん!?それにサデも」

パウリだった。







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