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あなたの虜  作者: 七緒湖李
番外編
155/161

エーヴァ編1

近頃、主たるコマリは特に用がなければ、夜、早い時間にエーヴァたち侍女を解放する。

主の就寝までを世話するのが侍女の務めであるし、エーヴァは困ってシモンに相談したのだが、シモンにはコマリの望むようにと言われてしまった。

それどころか二人きりのほうがコマリとイチャイチャできると、エーヴァの話をまるで本気で聞いてくれない。

エーヴァを含む侍女の誰も、シモンとコマリの邪魔をしたことはない。雰囲気を察して部屋を辞すくらいできなければ、王族の侍女など務められようか。

わかっていたことだがシモンはコマリに甘い。

ならばとエーヴァは「シモン様がご公務で遅い時は、せめて交代で一人ずつ側につかせていただきます」と押し切った。

シモンは好きにすれば良いと言ってくれたがコマリは渋い顔だった。

以前から供を嫌がる方であったので、そんなに一人になりたいのかと思ったが、どうやらコマリはエーヴァたちを長い時間、拘束してしまうのが嫌だったらしい。仕事が早く終わればそのぶん、時間を自分のために使えるだろうと。 


これは我が主の友人となるジゼルが教えてくれた。コマリは仲の良い彼女には本音を打ち明けているようだ。

そうだったのかとコマリの気遣いに嬉しくなりながら、優しいがゆえに傷つくことも多いだろうと、エーヴァや他のコマリ付き侍女の三人は、今まで以上にコマリを守っていこうと決めた。

そうして新たなる決意をして数日。

今日の遅番は復帰してからこっち、仕事に張り切るサデが引き受けてくれた。ドリスとスサンがなにか悩みがあるようで、エーヴァを食事に誘ってきたためだ。

後輩に悩みがあるのなら力になろうと、エーヴァが気合を入れて城下に出向けば、なぜか王宮魔法使いのマーヤまでやってきた。

素面では話しにくいのか、三人とも食事中にしこたま酒を飲んでいた。

飲みっぷりからやけ酒のようにも見えてきて、そろそろやめなさいとエーヴァが止めた時には遅かった。

三人はすっかり出来上がってしまっていたのだ。










(これはいったいどうしたらいいのかしら)

店内の隅っこの丸いテーブルについて、エーヴァは目の前にいる後輩たちの様子に溜息をつきたくなった。

料理ののった皿はまだ少し残っているが、酒の入った杯やグラスは空っぽだ。

城下にある安価でうまいと評判の店にエーヴァたちはいた。

店内はすでに満員で酒に酔っぱらっている者が多いのか賑やかだ。負けじと店員が元気に声を張り上げ、旨そうな料理や酒を運んでいる。

肉の焼けたいい匂いをさせた皿を運ぶ店員を横目に見ていたエーヴァは、後輩たちがドンとテーブルを叩いたため正面に向き直った。

「聞いてください、エーヴァ侍女長。あいつ、思ったほど悪いやつじゃなかったんです」

「ショックですよ。まさかあんなに性に対してモラルの低い方だとは思いませんでした」

「わたし、まだなんにも言ってないのにいきなりいい後輩宣言されちゃって……意味わかんないです」

やっと本題に入ってくれたようだ。

三人が三人とも相手の名前を言っていないけれど、エーヴァにはそれぞれ誰をさしているのかすぐにわかった。

(ドリスはパウリ様を見直したってことよね。スサンはゲイリー様を理想化しすぎていたんだわ。マーヤは遠回しにトーケル様に振られてしまったのね)

ドリスがパウリを目の敵にするのをやめるなら良かった話だ。

コマリが時折二人を見て困った顔をしていたから安心するだろう。


問題は失恋したらしいスサンとマーヤだ。エーヴァは二人をどう慰めたものかと思案する。

他にいい相手がいるだなんて、そんなありきたりな台詞しか思い浮かばない。

「あなたたちを選ばないなんて見る目がないわね」

試しにこう言ってみたとたん。

「でもわたしも顔だけしか見てなかったし……そのせいで怒らせちゃったみたいなんです」

「あの筋肉を持っているだけでも素敵なのに、かっこよくて気さくで話しやすい人だったらそりゃあ女の子にモテモテですよ。相手にされるわけないってわかってました」

スサンもマーヤもさらに落ち込んでしまった。

「エーヴァ侍女長……わたしの話はどうでもいいんですね」

そしてドリスは拗ねてしまう。

エーヴァは顔に笑みを張り付けたまま、内心では焦りまくっていた。

(誰か助けてー!)

三人から一度に相談事をされて、全員に的確なアドバイスなんてできるわけがない。

特に恋愛の悩み相談の役に立てる気がしない。

エーヴァにも以前は彼氏がいたが、侍女として王宮に入り仕事を頑張るうち、いつしか会う機会が減って振られてしまったのだ。

ショックだったけれど涙がでなかったのは、そのときにはもう相手を思う気持ちが薄れていたのだろう。

それからは仕事一筋にきてしまった。

そんなエーヴァに一体何を語れというのだ。


「誰を優先しているというつもりもないのよ。ええと、そうね……――わたしからあなたたちに質問していいかしら?今後、相手の人とどうなりたいの?」

席の並びからドリス、スサン、マーヤの顔を順に見つめると、彼女らは一様に黙り込んだ。エーヴァはさらに突っ込んで尋ねる。

「ドリス、パウリ様と今後は仲良くしていくの?スサンはゲイリー様に幻滅したから気持ちは冷めたのね?マーヤは気持ちを伝えないままじゃ後悔すると思うのなら、トーケル様に告白をする?」

「あいつのことをパウリ様なんて呼べないです」

苦虫を噛み潰したような顔でドリスが言う横で、スサンが諦めきれない様子を見せた。

「性格は絶対合わないと思いますけど、やっぱりゲイリー様の顔が超好みなんですー」

「トーケル様に、こ、ここ告白……?できるものならとっくにしてます」

マーヤは顔の前で大きく手を振ってできないアピールをする。

エーヴァは、はあ、とこらえていたはずの溜息をついてしまった。

「あなたたち、もう答えが出ているじゃないの」

「「「え?」」」

三人の声が揃ったことでエーヴァは可笑しくなって笑っていた。


「ドリスは今まで通りパウリ様とは喧嘩仲間。スサンはゲイリー様の性的嗜好に共感できないのだしつきあえないでしょう?マーヤは苦しくても片想いを続ける」

すると、待ってくださいとドリスが理解しがたい顔をした。

「エーヴァ侍女長はいつもわたしに、あいつと歩み寄る努力をとおっしゃってますよね?」

「ええ。パウリ様を見直したということはずいぶんと歩み寄れたということでしょうね。それは最近のあなたを見ていてもわかるわ。パウリ様に対して以前のような刺々しさはなくなっているもの」

今度はスサンがハイと注意を引くように胸の前で手を挙げる。

「わたし、顔だけって言ってゲイリー様を怒らせたんですけど」

「謝ったの?」

「はい」

「そう。だったらもう気にするのはやめなさい。それからいくら見た目が好みでも、性格までは好みとは限らないの」

「……ゲイリー様ってコマリ様にはとてもお優しいし、普段はクールに見せているだけなんだって思ってたんです」

しょぼんとするスサンにエーヴァは苦笑を浮かべて首を振った。

「ゲイリー様が特別扱いする人間は限られているわ」

「だからそれがコマリ様……」

「そうね。でも他にもいるわよ?」

「シモン様とスミト様ですか?」

スサンの横でマーヤが付け足すよう言った。

「リクハルド様とトーケル様ともよくお話をなさってます。あとはマッティ魔法長官ともときどき……逆にグンネル様は異性だから気遣ってらっしゃるのか、そこまでではない感じがします」

んー、と思い出すように宙を見上げてマーヤが言う。


王宮魔法使い室でゲイリーと接する機会があるため、彼の魔法使い同士の交友関係を知っているようだ。

話を聞いたエーヴァはグンネルのことを思い返した。グンネルとは幼馴染みで仲がいい。

以前、城下で新婚生活を送る彼女の家に遊びに行ったとき、ゲイリーに距離を置かれていると打ち明けられた。

ゲイリーがこちらの世界に来た当初やりあったことがあるようで、おそらくそれが理由だろうとも聞いた。

マーヤの話から察するに、未だ彼の態度に変化はないようだ。

嫌われたとグンネルは気にしていて、エーヴァも二人が一緒にいるときは様子を見ていたが、避けるというほどでもなかった気がする。

気にしすぎだとグンネルを励ましたが、きっとゲイリーのあの態度は、マーヤの言うように異性であるグンネルを気遣ってのことだろう。

(あ、それにもしかしたらラーシュのことを聞いているのかしら)

グンネルの夫であるラーシュは、妻に近づく男全般に嫉妬するところがある。

だからゲイリーは関わらないほうが身のためだと思ったのではないだろうか。

彼は言葉数が少ないうえ表情もあまり変わらないので、何を考えているのかわからない。

しかし話かければちゃんと答えてくれるし、コマリを可愛がるあたり人並みの感情があると思う。

ただ時おり、ゲイリーは人間が嫌いなのではと感じることがエーヴァはあった。惑わしたり試すようなことを言って、相手の反応を見ている節がある。

今回スサンに性癖を明かしたのは、彼女がそのあとどう出るか見るためではないだろうか。


(そういえばジゼル様も以前はゲイリー様を苦手としていらしたような)

その頃ゲイリーはスミトとともあまり話をしなくて、雰囲気はかなりギスギスしていた。

そのためエーヴァは異世界人の彼らの関係性を把握できずに、ずいぶんと気を遣った覚えがある。

いまでは仕事中というくくりはあっても、ゲイリーはスミトとだいたいいつも一緒に行動をしているし、ジゼルも気軽に彼に話しかけている。

時間が関係を変えていったのなら、ここで嘆くスサンや嫌われたと思っているグンネルとの関係も、いずれ変化していくだろう。

エーヴァが内心そんなことを考えていたら、スサンの恨めしそうな声がした。

「わたしからすればエーヴァ侍女長もゲイリー様の特別枠に入ってます~」

「え?わたし?」

「ゲイリー様から話しかけるだけじゃなく、エーヴァ侍女長には笑顔も見せるじゃないですか。この前なんて労ってもらってましたよね!?」

この前とはいつの話だろう。

本気でわからなくてエーヴァは眉根を寄せると、スサンはしらばっくれないでくださいと口を尖らせた。

「一週間ぐらい前、廊下で呼び止められていましたもん。わたし、見ました」


「ああ……あれはグンネル様からの伝言を聞いていただけ。そのあとはわたしが、コマリ様が連日テディ様にご指導を受けていじけてらっしゃるのを、どうやったらうまく励ませるか尋ねていたの。ゲイリー様はわたしを労ったんじゃなくて、コマリ様が頑張っているとおっしゃっていたのよ」

エーヴァは幼馴染のグンネルのことを、プライベートであっても様をつけて呼んでいた。

グンネルが嫌がるので本人の前では言わないけれど、身分を重んじる人間がいることも確かで、だからこそ普段から癖づけておくほうがいいと思っているのだ。

「え、なんだ。そうだったんですか」 

スサンの誤解が解けてエーヴァが安心したのも束の間、

「そういえばトーケル様もエーヴァ侍女長には親しげですよね。もしかしてトーケル様に言い寄られてたり……」

と、次はマーヤがまさかという顔になった。

「ないわよ。トーケル様はジゼル様のような華やかで、女性として魅力のある人が好きでしょう?」

「エーヴァ侍女長も装いを変えたら絶対トーケル様の好みのタイプです」

はぁ?と素で声が出ていた。

エーヴァは自分はどこまでも普通だと思っている。

平々凡々な自分が生きていくには努力しかないと、真面目にやってきた結果、王宮の侍女になれたのだ。

まさか時期王妃付きの侍女長にまでなれるなんて夢にも思っていなかった。

人間生きていれば何が起こるかわからないものだ。


コマリの侍女となってはじめはエーヴァも力不足であるとの思いが強かった。

しかし持ち前の努力を重ねていくうちだんだんと自信がつき、いまではコマリから頼りにされている自負もある。

だからというわけではないが、エーヴァは可愛らしい主のためにこれからも尽くしたいと思っていた。

もしゲイリーやトーケルが自分に親しんでくれているよう見えるなら、主を助け、ときに守る仲間として受け入れられたからだろう。

(恋は盲目とはよく言ったものだわ)

相手しか見えていなくて冷静な判断力を失わせるのだろうが、話をするだけで恋人候補にされるのは正直困ったものだ。

顔がよくて優しくて頼りがいがあって……などという、女の子が好みそうな異性は確かに素敵だとは思うけれど、エーヴァの好みは穏やかで真面目に生きている人だ。

容姿も頭脳も自分と同じ平凡な人がいい。

「わたしが装いを変えてもそう変わらないと思うけれど」

酔っ払い相手と辛抱強く返事をするエーヴァだ。

なのに。

「あいつもエーヴァ侍女長には一目置いているみたいだわ」

ドリスがボソと呟くのが聞こえて耳を疑った。

(ドリスまでどうしちゃったの?)

三人からジト目を向けられてエーヴァは笑顔を引きつらせた。


「あ、あなたたち目が座ってるわよ?」

「エーヴァ侍女長みたいになればあいつもわたしを馬鹿しないかしら」

「いまだってパウリ様はあなたを馬鹿になんてしていないでしょう?」

「エーヴァ侍女長、衆人環視のなかできる人ですか?」

「できるって何を?」

「トーケル様に誘われたらどうします?」

「だからそれはないから」

どうして相談を受けていたはずが、いまは彼女らにぶすくれた顔を向けられているのだ。

「わたしじゃ逆立ちしてもエーヴァ侍女長みたいになれないわ」

「ゲイリー様ってコマリ様のことでなにかあれば、一番にエーヴァ侍女長に話しかけてる気がする。やっぱりずるいー」

「真面目そうに見えて実はエーヴァ侍女長はノリがいいって、グンネル様に聞いていますよ。やっぱりトーケル様好み」

「あなたたち飲みすぎたのね。そろそろ帰りましょう」

これ以上絡まれてはたまらない。

エーヴァは話を切り上げようとしたけれど、聞く耳を持たない彼女たちだ。しかもマーヤがとんでもない発言をしてくれた。

「エーヴァ侍女長がトーケル様に興味ないのって彼氏がいるからですよね」

「え!?そうなの?」

「わたしたちにはいないって言ってたのに」

ドリスとスサンが「どんな人」と声をそろえてマーヤを見た。

目の前に本人がいるのにどうしてマーヤに聞くのだろう。

「ちょっと、わたしに彼氏なんていないわよ?」

「えー?最近できたって聞きましたけど」

「どこからそんなデマ――」

「えっと、「エーヴァは秘密主義だから隠してるみたい」ってグンネル様が。ここのところ食事や家に遊びに来るよう誘っても断られるからどうしてかと思ってたら、先日城下で男性と一緒に楽しそうにしていたのを見かけたそうです。彼氏ができたことを親友にまで隠すなんて、信用いていないのかと寂しそうにしてました」


マーヤの説明にドリスとスサンが興味津々とばかりに身を乗り出していたけれど、エーヴァは心当たりが全くない。

グンネルの誘いを断っていたのは本当に仕事や用事があっただけで、単に都合がつかなかっただけなのだ。

(男の人と一緒?楽しそうに?……)

眉間に皺を寄せながら考え込むエーヴァは、グンネルが誤解をするようなことはなかったかと過去を思い返した。

(そういえば少し前に午後からお休みをいただいて城下へ出たわ)

従姉に子どもができてそのお祝いの品を探すためにいくつか店を回った。

けれどエーヴァはまだ子どもがいないので、実際どんなものが必要なのかよくわからなかった。

店を訪れるたび店員に尋ねて、その中の誰かが男性だったような気がする。

(それを見てグンネルは誤解をしたのかしら?)

考え込んでいたエーヴァは、ん?と思い出した。

素早く表情の変化に気づいたドリスが、

「彼氏じゃなくても想う方がいらっしゃるんですね」

と追及してくる。


「だからそんな人はいないと言っているの。一緒にいたのは料理長よ――アロルド総料理長」

王族塔の厨房を任されている料理長のアロルドは、三十代にして各塔にいる料理長の頂点にたつ。

妻と三人の子どもがいるが結婚が早かったとかで、一番上の子どもが二十歳だというから驚きだ。

「え!?料理長ってご結婚されてませんでした?まさか不倫……やりますね、エーヴァ侍女長」

「違うから。料理長とは偶然会っただけ。従姉に子どもが生まれたお祝いを買いに出たのだけど、どんなものがいいのか迷ってしまって。だから喜ばれるプレゼントを教えてもらっていたの。料理長と一緒に奥様とお子さんも近くにいたわ。きっとグンネル様が見逃したのね」

アロルドのことはグンネルも知るはずだが、あの日は家族で友人宅にお呼ばれに行くとかで、いつもより洒落た格好をしていた。

遠目であったなら誰だかわからなかったかもしれない。

「そんなベタなオチだったなんて……」

「なんだー。エーヴァ侍女長の恋バナが聞けると思ったのに」

「グンネル様の早とちりだったんですね」

「わたしを肴にするつもりだったなら残念だったわね。ほら、今日はもうこれでお開き。あなたたち飲みすぎよ。明日も仕事なんだから」

エーヴァがちょっと怖い顔を作って三人を見れば、彼女らは調子に乗りすぎたことを反省するように顔を見合わせた。 

スサンが誤魔化すように愛想笑いをしつつフォークを握る。

「まだ料理が残ってるじゃないですか。もったいないし食べちゃいましょう」

大皿に残る肉を突き刺す。

「え?わたしはもういいわ」

エーヴァはもうデザートすらいらないと思うくらいなのに、スサンはこの細い体のどこに入るのか。

あーんと大口をあけて肉を頬張っている。

「わたしもおなかいっぱい」

ドリスは小柄な体形通り食事量も少ないようで、エーヴァと同じで満腹らしい。手で腹をさすりつつ首を振っている。

「わたしはお肉はいらないかな~。こっちの野菜をもらいます」

マーヤがボウル型の皿ごと引き寄せた。


残った料理のがっつり系はスサンが、そしてあっさり系はマーヤが平らげてくれた。

店を出てやっと王宮へ帰れると思ったエーヴァだが、今度はドリスが菓子店に寄りたいと言い出した。

するとスサンやマーヤも菓子が欲しくなったようで、どこの菓子を買おうかと相談を始める。

寮生活を送る者は各塔に食堂はあるが、そこで賄ってくれるのは当たり前だが食事だけだ。

一応酒やデザートもあるのだが種類は乏しく、王宮で働く寮生活者はだいたい好みの品を自室に揃えている。

どうやら訪れる店は決まったようだ。エーヴァ侍女長も行きませんかと誘われたが、以前買った菓子がまだいくらか部屋にある。

「わたしはいいからあなたたちでいってらっしゃい。遅くなる前に戻るようにね」

はぁいと陽気に返事をする後輩たちは仲良く店に向かって去っていく。その背中が見えなくなるまで見送っていたエーヴァは溜息に似た息を吐いた。

(あの子たち大丈夫かしら?)

ずいぶん酔っぱらっていると思ったが足取りはしっかりしていた。菓子を買うだけなら城門が完全に閉ざされる真夜中までかかることもあるまい。

一人コマリの世話をするサデが気にかかり、王宮へ戻ろうとエーヴァは歩き出した。

千鳥足になっている酔っ払い男たちを大きく避けて、わき目もふらずに進むエーヴァは、突然肩をつかまれて悲鳴を上げた。


「きゃっ」

「エーヴァさん」




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