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あなたの虜  作者: 七緒湖李
番外編
149/161

オロフ編6

ブリッドはミックスベリーソース練乳掛け夏氷にした。時節送りの日と王太子の婚約発表が重なり、今日は大盤振る舞いということで、ソースに使われた果物のジャムも乗っけてくれている。

店の前のパラソルのついたテーブルがいくつか空いていて、ブリッドとオロフは椅子を近づけ隣り合って座った。前に座ったベンチも空いていたが、こっちはやはりカップルがイチャイチャとしていて座るには抵抗がある。

 

ブリッドが赤紫の夏氷をアーンと食べては幸せを噛みしめていると、見ていたオロフに笑われてしまった。彼曰く「本当にうまそうに食べている」らしい。

彼は甘みの強いメロンリキュールの夏氷で、こちらは大人向けということだ。 

甘い夏氷が大好きなブリッドだけれど、酒の味がする夏氷を一口食べてみたくてチラチラ見ていたら、

「ほしいのか?」

と器を向けられた。


オロフの食べかけの夏氷を自分の持つ匙を使って食べるのは、念願の間接キスに入る気がする。

むむむと躊躇っているうちに、オロフがブリッドの夏氷を掬って食べてしまった。

「甘いな。ん、でもこれもうまい」

「また勝手に食べた」

「だから俺のも食べていいと言ってるだろう」

器を持ち上げられて、ブリッドは意を決して夏氷を掬うと口に運んだ。

リキュールが氷と混じりあって薄まり、すっきりを喉を滑る。

「おいしいっ!」

アルコールの味が苦手で酒はあまり飲まないブリッドも、これなら大丈夫と思えた。


「もうちょっといい?」

「好きなだけ」

器を交換してくれたため遠慮なくはぐはぐと夏氷を食べたブリッドは、また笑い出すオロフに気づいて視線だけを向けた。

「案外、いける口だったのか」

「んーん、アルコール苦手でお酒はほとんど飲まない。でもこれは美味しいです」

「普段飲まないなら、そのくらいでやめておいたほうがいいんじゃないか?」

返すようにブリッドの夏氷を差し出されて、最後にもう一口食べてからオロフの夏氷を渡した。

戻ってきた夏氷にはオロフが少し食べた跡が残っている。

ここ、食べていいかな。っていうか食べていいんだよね。


「あ、俺が直接食べるのは嫌だったのか。すまん。俺が食べた部分、捨てるか?」

「え!?なんでっ。もったいない」

ざく、と匙を突き刺してオロフが食べたあとの夏氷を頬張る。

(間接キスってなんだっけ?っていうかこれ、もう間接キスにしちゃっていいよね)

彼女のいるオロフ本人とはキスができるはずもないんだし。


ブリッドの鞄には先日買った惚れ薬が入っている。今日のデートの終わりに、玉砕覚悟で告白するときに使うのだ。

彼女の存在に涙したブリッドだったが、このまま気持ちを伝えないより、きちんとケリをつけることを選んだ。でなければ今日で会えなくなる彼を想い、ずっと苦しむことになる。

一日限定のデートは目一杯楽しむつもりだ。

ブリッドは頭に浮かんだオロフの彼女の存在を追い出し、器の底の解けかけた夏氷を一気に平らげた。


「オロフ、ご飯のあとに行きたいところがあるんです。ワヌヌ川なんだけど一緒に石を探してほしいなと思って――いいですか?」

「石?」

「知らないですか?時節送りの日にいつもやってるらしいんです。川底に光る石があって見つけたら景品がもらえるって」

「ああ、確か祭りを仕切る実行部が何年か前から始めた宝探しの――何がもらえるんだ?」

「いいものだと、飲食店のお食事券とか服の仕立券とか家具とか食器とか……他にもいろいろあるようです」

「わかった、行ってみよう。で、ブリッドの目当てはなんだ?」

「え?……えぇと、毎年一つあるっていうハートの石がほしくて」

「一つしかない?それは豪華な品がもらえるんだろうな」

「城下にある高級宿屋の宿泊券」

「宿泊券?まぁ、高級宿屋なら確かに豪華か」


ふうん、とあまり心惹かれない様子でオロフが呟いている。

(本当はカップル限定のペア宿泊券……ていうのは黙ってよ)

それにそもそも景品が目当てではない。その石が幸運の石だからだ。

最初にこのイベントが開催されたときに、ハートの石を見つけたのは若い男女だったそうだ。

二人は友達以上、恋人未満の関係であったが、一緒にハートの石を見つけたことでつきあいはじめ、その後結婚したという。

その次は見知らぬ男女が同時に見つけ、それがきっかけで恋人同士になった。

そのまた次は彼女に振られた男が見つけ、それから数日とせず元カノとよりが戻ったそうだ。


何度も続けば偶然ではない。

ハートの石を見つけたら幸せになれるとの噂から、このイベントは毎回大人気なのだそうだ。

商家の先輩の女たちに石のことを教えてもらって、他にも幸せになった男女の話を聞かされた。

さすがにすべてが実話とは思わないが、もしもなにか不思議な力が働いているのならあやかりたい。

イベントが始まるのは川底の光る石が目立つように完全に日暮れてからだ。先輩に教えてもらった開始時間までは余裕があるということで、オロフと先に食事を済ませた。


最初に予約を入れたときに思ったが、一号紹介のその店は高級店であったのだろう。個室に案内され、給仕によって順に運ばれてくる料理は、どれもブリッドがこれまで食べたこともないくらい美味しかった。

ただ料理名は小難しくてさっぱり覚えられなかったが。

エビのサラダや魚のバター焼き、仔牛の肉の煮込み料理、といったわかりやすい名前ならいいのに。

ブリッドがこう言えばオロフももっともだと頷いてくれたから、彼も料理名を覚えられたなったのだろう。

デザートまで食べたらお腹がはち切れるくらいにいっぱいだった。

石探しの時間が近づいたこともあり店を後にする。


「ごちそうさまでした。それであの……オロフ、お会計のとき驚いていたけど、大丈夫だったの?わたし、自分の分出します。あ、足りないかもしれないけどその分はあとから……」

「いや、あれはあまりに安くて驚いたんだ」

この店構えと料理はもちろんのこと、洗練された給仕や美しい食器にカトラリー、それに時節送りという日から、庶民的な店なら10回は食事ができるくらい金が必要だろうと、ブリッドは予想していた。

「計算間違いとか?」

「確認したが間違っていないと。テディの紹介だからということなんだが――本当あいつ、どんな弱みを握ってるんだか」

がし、と頭を掻いたオロフは溜息をつき、次いで「まあいいか」と明るい顔になった。


「ずいぶん得をした。メイン通りに戻って露店で菓子でも買うか?」

「無理。もうお腹いっぱいだから入らないです」

「そうか?俺はまだ……あ、ワヌヌ川に行くんだったな。水遊びしたらまた腹もすくだろう」

本当にもうぱんぱんだから。そう訴えてもオロフは取り合わない。

歩き出す彼は当たり前にブリッドの手を握った。

「小食だからそんなに小さいんだ」

「オロフを基準にしないでください」

口では文句を言いつつ、オロフに握られた手を見つめてブリッドは笑う。鈍間な自分が嫌だったけれど、こうして好きな人に手を繋いでもらえるなら、鈍間でよかったとすら思った。


支流があったり水路を引いたりしているが、ワヌヌ川の本流は城下の東側を流れている。

夏場は人々が涼をとるため出かけ、浅瀬の流れが緩やかな辺りには柵を設け、毎年遊泳区画も作られた。

今日はその遊泳区画をイベント会場にしていた。深くとも水は子どもの膝上くらいまでしかないようで、少し遅れてしまったのかもう石探しは始まっているようだ。

川は人であふれ異様な熱気に包まれている。

「お荷物と靴はこちらでお預かりします。番号札をなくさないようにしてくださいね。貴重品は各自お持ちください」

にこやかな女に送り出されたブリッドは、ランタンを手に近づいてくる男に気づいて、思わずオロフに張り付いた。


人見知りは相変わらず健在で、特に年齢の近い異性は苦手だった。

「どうしたんだ?」

ブリッドの視線の先を追ったオロフは、男に気づいてああと納得したようだ。

「彼女さんに嫌われてしまいましたので彼氏さんに。スカートを持ち上げて縛っておく紐です。石探しには制限時間を設けております。また石はお一人様一つまでとさせていたきます。幾つもお持ちになられた場合は無効となりますのでご注意ください。その他、詳しいことはこちらに」

示された張り紙にはルールや注意点が記されてあった。

よどみない男の説明によると、最近の人気から振り鐘で合図をし、人を入れ替えることになったらしい。

いま入っているのは石探しイベント開始直後の一番手ということだった。


ブリッドたちはタイミングが良かったのか、二番手の人たちの中に入れてもらえたが、後には続々と人が訪れて順番待ちができはじめている。

川岸で水に入る準備を整えるブリッドは、恥ずかしさを堪えてスカートをたくし上げ、布をおさえるため腰のあたりを紐で縛る。

生足にオロフはどんな反応をするだろうかと盗み見れば、動揺も逆に喜んだ様子もなく平然としたものだった。

(周りの男の人は照れたり嬉しそうにしてるのに)

そんなに魅力がないのだろうか。

そういえばさっきの男の、「彼氏彼女」という言葉にも反応しなかった。ブリッドは内心「彼女」と言われて喜んだというのに。


しゅんと項垂れるブリッドの耳に、人のざわめきを破る振り鐘の音が聞こえた。係りの声で川に入っていた者が順に岸に上がり、いよいよブリッドたちが川へ入ることになった。

さっき何人か石を見つけて歓声を上げていた。どうやらハートの石ではなかったようで、岸で景品を選んでいるのが見えた。

「ブリッド、入らないのか?」

先に川に入ったオロフに声をかけられて我に返った。

周りが続々と川へ入っていっている。出遅れた。

焦って水に入ったブリッドは、しかし数歩と行かないうちに石に生えていた苔に、つるりと足を滑らせた。


「きゃっ」

仰向けにひっくりかえる寸前、伸びた腕に肩をつかまれ事なきを得る。

「…っぶな」

はー、とオロフから吐息が漏れた。ブリッドは間近にオロフの顔があったことでパニックに陥った。

(か、かか顔近っ!肩抱かれてるっ!?)

慌ててオロフから離れて、

「あ、ありがとうございます。えと、あっちの人のあまりいないところに探しに――っ」

そう言って歩き出し、思ったより川の流れが速くて驚いた。

持ち上げた足が水にもっていかれそうになったため、ふん、と川底におろし、両足を踏ん張って何とかバランスを保つ。


「オロフ、あっちに行きたいのに進めない」

どうしよう、とオロフを見上げると、彼はあきれ顔で首を振った。

「なんだってこう危なっかしいんだ。わかった、あっちだな。連れていくから文句は言うなよ?」

そして腰を折ってブリッドの尻の下に腕を回すと、「よ」と彼女を持ち上げた。

「えっ、嘘。オロフ、降ろして!」

「ブリッドに合わせていたら、あそこに辿り着くまでで時間が無くなる」

「だからってこんなの」

「お姫様抱っこのほうがよかったか?」

からかう声音は楽しそうで、オロフはブリッドを抱えているというのに、全くよろめくことなくざぶざぶと川を進んでいく。


ブリッドはというと、石探しに必死になっていたはずの人たちから大注目されて、真っ赤になることしかできなかった。

それにどういうわけか女の子たちから羨望の眼差しが送られてくる。

「やーん、いいなぁ」

「すごーい、力持ち」

「かっこいい」

他にも家族連れの子どもが父親に同じことをせがみだし、どうやら人妻の視線まで奪っているようだ。

なのに本人は全く気付いていないのか、目的の場所でブリッドをゆっくりと降ろしてくれた。

「ほら、着いたぞ。岸から遠いから人もまばらだ」

「ありがとう」

「転ばないように俺の腕でも肩でも、どこでもいいからつかまっていてくれ」

「はい」


柵だけでなく、区画内に一定の間隔をあけて突き刺した棒に、ランタンがかけてあった。そのため夜だというのに辺りは明るく、昼間ほどではないが川底も見える。

ブリッドは光る石がないかと川面に顔を近づけた。

きら、と何か反射したためすかさず手を突っ込む。が、拾い上げたのはただの丸い石だった。

「あれ?」

「水にランタンの明かりが反射してるな。結構紛らわしい」

「じゃあ影を作ればいいのかも。えと、わたしがこっちに行けば……」

「それより明かりの側から離れる」

ブリッドはまたしても抱え上げられ、オロフはランタンの明かりが近くにない場所へ移動した。ちゃぷんとブリッドが川に足を入れたところで、川岸に近い場所から大声が上がった。


「見つけたー!ハートの石」

両手を挙げてガッツポーズを取っているのは、ブリッドより二つ三つ若そうな10代後半の少年だった。

仲間らしい男女に取り囲まれているから、きっとグループデートなのだろう。

(ハートの石、取られちゃった)

ブリッドが少年らを凝視しているとオロフが尋ねるように言った。

「ブリッドの欲しかったのってあれだよな?」

「うん」

「見つけられたものは仕方ない。まだ光る石はあるんだ。そっちを探そう」

「うん、そうだね」

返事をしながらも、ブリッドから一気にやる気が失せていた。

思う以上にハートの石が欲しかったらしい。


(このあと告白したって、万が一もないって言われたみたい)

石を探し出す強運もないのだからオロフはあきらめろと。

「そんなにあの石が欲しかったのか?」

いつまでたっても石を探そうとしないブリッドにオロフが顔を上げた。

「あ、ごめん。ちゃんと光る石を探します」

「もう見つけた」

「へ?」

「割と目はいいんだ。ほら」

滴を零す大きな拳が、ブリッドの目の前で開かれた。手のひらに紺碧色に煌めく丸い石があった。

どうやら魔法で游色効果を疑似的に作り出して、あまり光を受けずとも色彩を示すようにしているようだ。

「きれい」

「あそこにオレンジのと、あっちに白いのがある。あれも取ってこようか?」


目を凝らしながらオロフがいうのを聞いて、ブリッドは目を丸くした。

「見えてるの?」

「だから目はいいんだ。たくさんあるランタンは安全のために配しているんだろうが、こうしてみると、石を探しにくくするのにも役立ってるな。意識的にランタンの明かりを無視しないと、やっぱり惑わされる」

ここを動かないでくれ、とブリッドに言い置いて、オロフは近くを回って二度ほど川へ手を入れて戻ってきた。

彼の手には言った通り、明るいオレンジ色の石と乳白色の石が握られていた。

ブリッドも待つ間、これと思うものを拾ったがすべてただの石ころで、この差は目の良さだけだろうかと疑いたくなる。

悔しくてそこからさらに数分、幾度と川に手を突っ込んでも、光る石はやっぱり一つもゲットできず、そろそろ時間だろうというオロフの声にやっとあきらめた。


「石の色でもらえる景品が変わると、注意書きにあったがどれにする?」

「何色がどの景品か、交換所で教えてくれるんでしたよね」

「ああ、だからブリッドの気に入った色を取ればいい」

「じゃあ……オレンジのにします。オロフは?」

「青」

「残ったのはどうしましょう?張り紙に何個も石を見つけた人は、一つを選んで残りは川に戻してくるようにって書いてありましたけど、見つけられなかった人に――」


ブリッドが話をしている最中に、終了を告げる振り鐘が鳴り響いた。とたんに周りから残念そうな声があがった。

見つけられなかった人が結構いたようだ。

そして同時にうわぁぁんと子どもの泣き声が聞こえてきた。どうやら石が見つからなかったらしいとは、泣きじゃくる様子から分かった。

父親に抱っこされて、無理やり岸に連れられて行くのを目で追っていると、オロフが「渡す相手が見つかったな」とブリッドを抱き上げた。









「お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとー!」

胸にクマのぬいぐるみを抱いて、両親と立ち去る女の子に手を振っていたブリッドは、焼き菓子の詰め合わせを差し出されて隣を見上げた。

「お人よしだな」

「あんな顔をされたら誰だって……最後まで喜ばせてあげたいです」

石の色でもらえる景品は変わる。

白い石はその色から見つけやすいのか、もらえる品は参加賞のような菓子袋だった。

交換所でそう知ってしゅんと肩を落とす女の子に、ブリッドは景品の交換を申し出た。

オレンジの石の景品は幾つかあるうちから選べ、その中にぬいぐるみがあると知ったからだ。


「オロフはお食事券にしたんだっけ?」

オロフの石はもっとも見つけにくい色らしい。選べる品はとてもいいものばかりで、銀食器やテーブル、服の仕立券などがあった。

「裏に名前の書いてある五つすべての店で、一度ずつ食事ができるようだな。どれも高級店みたいだぞ。今日行った店の名前があるし」

「じゃあ他のお店も美味しいのかな。あ、ここ先輩が美味しいって言ってたお店です」

「有効期限は半年か。月に一度使えば大丈夫かな。ペアで使えるし――ブリッド、月一で贅沢してみる気はないか?」

「え、でもオロフが行きたい人と――」

「二人で参加したんだし、だったらこれも二人でだろ?」

にこやかな笑顔に抗えずブリッドは頷いた。


(今日でわたしと縁を切るつもりじゃなかったんだ)

傷つくのが嫌で、もうずっと後ろ向きに考える癖がついていたけれど、考えてみればオロフは回りくどいことをするような人ではなかった。

良くも悪くも正直で、そして鈍感な人だ。

(告白しなかったら、これからもこんなふうにデートできるってこと?)

オロフがこの気持ちに気づいてないのなら、今日のように友達として側にいることができる。

鞄にある惚れ薬を使うことに、ブリッドは迷いを感じ始めた。

「ブリッド、まだ時間は大丈夫だよな?」

「平気です」

「じゃあちょっとつきあってくれ。行きたいところがあるんだ」


そう言ってオロフに連れてこられたのは、どういうわけか女の子に人気の雑貨店だった。

すぐに戻るからとオロフに表で待つように言われて、女の子ばかりの店内に一瞬ためらいつつも、足を踏み入れた彼を見送る。

(わたしも一緒に行ったほうが入りやすいのに……あれ?ここって)

ブリッドは店を見つめ、周りだけでなく背後を振り返って気が付いた。

(オロフが彼女と出てきた店)

一緒に店に入らなかったのは、あの金髪の彼女へのプレゼントを買うつもりだからだろうか。

ブリッドは肩から下げていた鞄を胸に抱く。


このままオロフと友達でいればなんて、告白に怖気づいて逃げようとしたけれど、彼女の存在を意識した途端心が曇るのだ。

もやもやとした胸の不快感は嫉妬だ。

このまま気持ちを隠してオロフの側にいれば、いま以上に醜い感情が育っていく気がした。

やっぱり今日で玉砕したほうがすっきりするんじゃないか。

告白に迷うブリッドの頭の中をいろんな思いが渦巻いて、そしてなぜか逃げたくなった。

無意識に後退り、しかし背中に誰かがぶつかって我に返る。

「す、すみません」

「こちらこそすみません」


振り返って謝罪したブリッドと同じように相手も謝ってきた。女性の声であったため、ほっとしながら顔を上げた。

するとどういうわけか相手がじーっとこっち見つめてきた。

そして「あ!」と声を発したために、ブリッドはビクリと肩を震わせる。

「あなた、あの時の人……ですよねっ!?」

明るい調子で声をかけてきたのは金髪眼鏡の女性だった。

レンズの奥で青い瞳が自分を見つめている。







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