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あなたの虜  作者: 七緒湖李
本編
130/161

みんなが味方

「おお、あっちで小鞠ちゃんがなんや始めたで~」

「ヒントを持つ者がいないか尋ねて、一気に集めるつもりだろう」

「ふふん、罠に嵌りよったなぁ。こっちもそんなん想定済みやし。ヒントを持つもんが少人数て思てしもたんが運のつきやで」

モノクルのブリッジを押し上げながら、スミトがイヒヒと悪役感たっぷりの悪い笑みを浮かべる。

二人の会話を聞いたパウリは、ん?、と疑問を口にした。


「なぁ、あんたたち二人、お姫さんの味方じゃないのか?」

するとスミトとゲイリーが同時に彼を見た。

庭園の入口でコマリたちと別れてから、二人は嫌がるパウリを無理やりに、人の多いところを狙ったように突っ切った。

おかげですっかり見世物となったパウリは、やっと落ち着けたデザートの乗るテーブルに腰を預ける。

側には浅い水路があって、緩やかな水の流れにキラキラと光るものが見えた。

あかり玉はまだ少ないため水に光が反射しているわけではなさそうだ。


気になって覗き込めば光を集めてできたような、光る魚たちが流れに逆らって泳いでいた。

どうやら魔法で作られた魚のようだ。

一定の動きしかしていないことでそう気づき、パウリはすぐに興味をなくした。

それより腹がすいていた。

腹にたまるものが食いたいと思いつつ、とりあえず飢えをしのぐため、氷の上に並ぶフルーツを一つつまんでポイと口にほうる。


「ああ水路のそれ、誤ってはまらんようにてな。普通に明かり灯しとるより情緒あってええやろ」

「どうでも。で?質問の答えは?」

「綺麗やなとかないんかい。――はいはい、答えやね。ボクら二人は仕掛け人や。せやからゲームを盛り上げるために挑戦者の邪魔かてするよ」

ふーん、とまた冷えたフルーツを口へ。

ムグムグと口が動く。


「ところでパウリ君、呑気に構えとるけど暗号持つもん探せへんの?」

「あんたたちが探すんじゃないのか?仕掛け人とは言ったけどお姫さんの敵だとは言わなかったし、だったらゲームを楽しませる程度の邪魔はしても、クリアさせたくないって意味じゃないんだろう」

「うーわー、なにこの子。読みが良すぎてごっつムカつくわ~」

「そりゃどうも」

まとめてフルーツを口に入れ、酒が欲しいとテーブル上を探すパウリは、

「やけど残~念。仕掛け人のボクら、誰が暗号持ってるか全員知ってんねん。やから探すんはパウリ君の役目なん」 

スミトのいじわるな声音を耳にして二人に向き直った。


「一時間で六人がノルマだな。ちゃきちゃき動け。それともおまえはコマリがゲームをクリアできなくて悲しむ姿を見たいのか?」

腕を組むゲイリーの目が恐ろしく冷ややかで、パウリは食べていたフルーツを喉に詰まらせるところだった。

「ゲイリーにとって小鞠ちゃんは可愛い妹みたいなもんやねん。ゲイリーお兄ちゃん、怒らせたら怖いで。ボクかてあの子のこと可愛がっとるし、ジゼルの親友やし、シモン君の大事な人や」

ぽきぽきとスミトが指を鳴らして近づく。

「わかったらさっさとマーク持つやつ探しに行かんかい。小僧」

瞬きほどの間に凄味が増した。


パウリは二人から言いようのない圧力を感じた。

(なんだ、こいつら――俺と同じ臭いがする)

嘘と血と毒にまみれた昏い世界。

他者を喰らって生きてきた者たちだ。

初めて対峙した魔法使い塔では様子見をしていたであろうあの時と違い、本気でやりあったらお互い無事では済まないと直感的にわかった。


「なんであんたたちのような二人がお姫さんの側にいる?」

ああん?というような顔でスミトが答える。

「そんなん、きみと一緒や」

「一緒?」

「なりゆきやんな、ゲイリー?でもここは思たより居心地良ぉて困るわ」

「おまえはシモンに頼み込んでこっちへ来たんだろうが」

細かいことはええやん、とスミトが鼻の頭に皺を寄せゲイリーに文句を言った。

「居心地……――それ、なんとなくわかる」

パウリは頬を撫でていく風につられて庭園の人たちを見つめた。


穏やかな時間、優しい人、温かな空気。

ここまで庭園を歩いてわかった。

憧れていた世界は外から見ていた頃よりずっと眩しい。

「困るとは嫌だという意味か?ならば去ればいい。どうしてよいかわからないという意味なら、無理にわかろうとする必要はない」

ゲイリーの言いたいことが分からず、パウリが視線で尋ねると、彼は組んでいた腕を解いて親指で庭園の人たちを指した。


「ここの連中はこちらの戸惑いなどお構いなしだ。違うか?」

悩んでも無駄だと言いたいらしい。

そう気づいたパウリは、スミトがおかしそうに笑いだしたことで目を向けた。

「せやな~お構いなしやで、ほんま。きっとボクらって人とのコミュニケーション不足やねん。思いやりや優しさなんてもんと縁遠かったせいで、こっちからどない接したらええかわからんねや。でもな、それを言い訳にしたらあかんて、ボク最近思うんよ」

パウリはスミトとゲイリーの過去を知らない。

でも似た臭いを感じたというのなら、きっとそういうことなのだろう。


「なぁ、昨日言ってた因果応報?だっけ?――あんたたちはそれ、どう思ってるんだ?」

「どうって……自分が報いを受けるんやったらしょーがない。けど周りがボクのせいで苦しむんやったら思いっきり抗ったる。ここにはそんくらい大事なもんばっかりや」

「それって幸せになりたいって言ってるように聞こえるぞ」

「せや。幸せ願って何が悪いねん。そりゃ自分のしてきたことを忘れることはできへん。やからって自分が不幸せでおらなあかんってことはないんや。この手の中にある大事なもん、自分の全部で守ってみせる。みんなが笑っていられるように盾になる。手足を捥がれて立ち上がれんようなったら、相手の喉笛食いちぎってでもな」

ビリと肌に伝わるのは覚悟を決めた者の気迫だろう。


「生きたいと、ここにいたいと思ってしまったら己が変わるしかない」

対照的にゲイリーの静かな声が耳に届いた。

ゲイリーの手が持ち上がり、パウリは胸を指された。

「ここが疼かないか?」

「え?……あぁ、疼くっていうか痛い。罅入ってっから仕方ないだろ。まぁ派手に動いたり、さっきみたいに首を絞められたりしなきゃ、どうってことないけどな。今は背中の怪我のが痛い。てか罅入ってんの、よくわかったな。顔に出してないつもりだったのに――ん?なんだよその顔」


「誰が怪我の話をしている。どうしてこの話の流れでそうなるんだ」

ゲイリーに残念な者を見るような顔をされてしまった。

「おまえは自分のことに関して鈍感なようだ」

「?自分の置かれてる状況はよくわかってるつもりだ」

「ちゃうてパウリ君。幸せ感じたら人って胸んとこ騒ぐんや。わくわくドキドキうずうずってな。そういうのん、素直に受入れてしまいてゲイリーは言うてんねん」

「わくわくどきどき?ああ、楽しいとか嬉しいって感情のことか」

「そうそう。手始めにこのゲーム乗ってまいや。冷めた目で横から見てるより、一緒になって騒いだほうが楽しいで。騙された思てやってみい」


自分にそんな感情を覚えることがあるのか疑問だ。

いや、そういえばあった。

「嬉しい」はこの間感じたばかりだった。

まさかそれを教えてくれた相手に仕えることになるとは思わなかったが。

スミトにへらと気の抜ける笑顔を向けられて、パウリは溜息をつきかけた。


――幸せが逃げちゃうから溜息はダメなのよ。

脳裏によみがえったコマリの声に、ぐ、と息を飲み込んだ。

思い返してみれば自分はいつも無意識に溜息をついていたように思う。

周りと一緒に騒いで本当に楽しくなるのなら、これまで逃げてしまった幸せの代わりに集めてみようか。

パウリはテーブルに預けていた腰を上げる。

人の多い場所へ歩き出した。






* * *

 





ヒントを持つ人を募ってから数分、小鞠は同じヒントを持つ者が数人続いたために、この方法は失敗だったと気が付いた。

こちらがどうやってヒントを集めるかを予想して、先に手を打っていたのだろう。

参加者全員が何らかのヒントを持っていた。

しかも「暗号を持つ者は全部で14人です」とか「トランプのスートを持つ者が暗号を持っています」とか、小鞠が既に知っていること言う者が大多数で、一人ひとり聞いていては時間のロスが大きい。


小鞠は一旦自分の周りに集まる人たちからヒントを得るのはやめた。

「わたしヒントって、てっきり暗号を持ってる人を示すヒントだとばっかり思ってたけど、ゲームクリアのためのヒントだね」 

最初の説明で教えてもらったヒント以外で集まったのは、「条件が揃わないと魔法は発動しない」と「仕掛け人はゲームの邪魔をする」と「アリスに登場するキャラクターを探せ」だ。

覚えたヒントを口にすると、

「コマリ様「ゲームをクリアできなかったときは罰ゲームがある」をお忘れです」

オロフに付け足されて小鞠は「あ~」と顔を歪めた。


「そうだ、罰ゲームあったんだ。それに同じヒントを持つ人がいっぱいとかって絶対仕掛け人の妨害だよねぇ。仕掛け人っていったい何人いるんだろ~?」

「二人だ」

「え?シモン仕掛け人がいること知ってたの?」

ああと頷かれる。

質問しなきゃ答えないってんだな、こんにゃろめ。

「既に邪魔されているだろう?」

「だからヒントを集めるのに手間取るようにされてるのが――」

「コマリー!」

突然大声で名前を呼ばれて小鞠は振り返った。


見れば真っ赤なドレスを着たジゼルが手を振って近づいてくる。

彼女の姿に小鞠は目が点になった。

赤いドレスの後ろは普通に見えるが、スカートの前の部分が膝上までの長さしかなく、段々フリルになっている。

剥き出しのすらりとした足が芝を踏むたび、男性だけでなく周りの目をジゼルは一身に引きつけていた。

彼女の後ろにはお付きの侍女として、揃いのワンピースを着たドリスとスサン、それにマーヤがいる。


「もう、全然探しに来てくれないからこっちから来ちゃった。ど?このドレス。これなら裾を踏みつけたりしないでしょ。動きやすいわよ」

「スカートの丈が短くない?大注目されてる」

「えー?後ろは普通よ。これくらいセーフでしょ?」

「腕の部分がシースルーだし胸元や背中が深めに開いてるし、こっちの世界じゃセクシーすぎ。アウトでしょ」

「だって~、この世界のドレスって全然冒険してないから面白くないんだもの。だからこういうのもどうかしらって思ったんだけど……シモン、この路線は駄目だった?」


「少々刺激が強すぎるかもしれないが、わたしは好きだぞ」

「ほらコマリ、シモンが好きって言ってるわ。大丈夫よ」

「シモンは根っからのエロ王子だから!」

小鞠はシモンに白い目を向けた。

「コマリはわたしを誤解している。ただこういうドレスを日常的にコマリも着てほしいと思っただけだ」

「安心してシモン、ばっちり用意してるから」

「本当か?」

そこ、食いつくな。

内心突っ込みを入れていた小鞠は、マーヤが目を真ん丸にしていることに気づいて、苦笑を浮かべた。


「王子様のシモンしか知らなかったよね。実際はこんなだよ?」

「は、はい!や、ち違います。今のは肯定ではなくて」

「そんなに緊張しないで。あ、お酒飲む?リラックスできるかも」

「いえ!大丈夫です」

びし、と背筋を伸ばすマーヤにスサンが「落ち着いて」と囁くのがわかった。

ドリスは小鞠とマーヤを交互に見ては悩ましげな吐息をもらしている。


「三人はお揃いのピンクのワンピースね。裾がジゼルと同じでフリルになってる。可愛い。ジゼルが女主で三人はおつきの人って役かな?」

「はい、ジゼル様にお仕えするトランプらしいです」

マーヤが生真面目な様子で答えてくれた。

「あ、そっか、アリスだっけ。三人がトランプってことは、んー、ジゼルはもしかしてハートの女王?」

小鞠がジゼルに尋ねると「正解」と返ってきた。

ハートの女王ってことはどこかにハートを持っているんじゃ……?

小鞠はジゼルを上から下までじーっと観察する。

そして気づいた。


「フリルがハートの布を重ねてできてる!あ、三人のもそうだ」

「見つかっちゃったわね。けど今のままじゃ駄目よ、コマリ。暗号は現れないわ」

「本当、ハートが光らない。なんで?」

「邪魔されているからよ、仕掛け人に」

「そういえばシモンが仕掛け人は二人って。あ、二人ってまさか――」

脳裏に浮かんだ二人にコマリは、あー、と肩を落とした。

彼ら二人が相手では一筋縄ではいかなさそうだ。


「邪魔って困ったな。どうやったら暗号が出てくるんだろ?」

「コマリ、そのためのヒントはもう聞いているはずだ」

そうシモンに言われてコマリは眉を寄せた。

「あ!魔法が発動するのは条件がいるんだ。……え?どんな条件?」

「ゲームの挑戦者は二人で一人です」

「挑戦者の二人が揃っていれば暗号は現れます」

「ですからっ、二人が離れていては進みません……あ、ゲームが進みません」

ドリスから順に決められた台詞のように、スサン、マーヤと話し出す。


(マーヤってばガチガチ)

小鞠はふふ、と笑ってしまう。

「わたしからも一つコマリにヒントね。「暗号はある人物をさしている」よ。覚えた?」

ウィンクしたジゼルまでもがヒントを教えてくれた。

だからわかったことがある。

この庭園にいる皆が味方だ。

一丸になってゲームをクリアさせようとしてくれている。

でなければ料理長をはじめ皆がヒントを教えに集まってくれない。

マークを持つジゼルたちが自分からここへ来ない。

邪魔をする仕掛け人の二人だって、嘘のヒントは混ぜていないように思う。


「そっか、わかった。ありがとう。じゃあみんな一緒に来て――いまから仕掛け人に攫われたもう一人の挑戦者、白ウサギを探そう」





 

* * *






「ぺッテウ、ほれ、んまいお」

庭園の様子を伺っていたペッテルはモゴモゴとした声に隣を見て、ケビの頬があり得ないくらい膨らんでいたため驚いた。

これ以上口に入らないと思うのに、彼はまだフォークに刺した肉にかぶりつく。

咀嚼してゴクンと嚥下し、今度はテーブルに置いていたグラスを手に酒をあおった。

ゴッゴッゴと上下に喉が動き、最後はプハーと満足そうな声が上がる。

そんなケビの頭には小さなネズミの耳が生えていた。


「すっげーな、王族主催のパーティって。食い物も飲み物もなんもかんもが超うめぇ。ペッテルおまえなんであんまり食ってないんだよ。腹いっぱいにして帰んなきゃ損だぞ、損」

「いや、おまえ忘れてね?あかり玉の合図があったしゲームは始まってんだぞ。コマリ様たちに会わなきゃいけないだろ」

「さっき、エロいドレスを着たジゼル様がマーヤたち引き連れてあっちに行ったじゃん。いま行ってもかぶるだけだしもうちょっと後にしようぜ。それよかペッテル、こっちの煮込み肉、めちゃ柔らけぇぞ。なんだろ、ラムかな?おかわり、おかわり~」


皿を持って嬉々としてテーブルに走り寄るケビに、ペッテルは、あぁ、と額を押さえてしまう。

そんな彼の耳には鳥の羽の飾りが揺れる。

頬に感じた羽根のくすぐったさについ耳飾りに意識がいった。

(俺がドードー鳥でケビがネズミって……コマリ様の世界の話らしいけどどんな話だ?)

ともかく頭に動物の耳を生やすのは必死に避けた。

ケビは面白がって、生やしてくれと自分から頭を突き出していたけれど。


あとでトーケルとスミトがネコの耳やウサギの耳を生やしているのを見たが、思ったほど笑いを取らず、むしろ女性陣からは「可愛い」と大絶賛だった。

ネズミの耳を生やすケビでさえも、女の子たちに囲まれていた。

ちょっと後悔したのは秘密だ。

暗号を持つ十四人のうちの一人として、ゲームに参加するペッテルとケビには、揃いの黒コートとズボン、それに銀色タイが用意されていた。

パーティ後には貰えるそうだが、こんなに質のいい布でできた物をいいのだろうか。


ペッテルがコートの布地を確かめるように自身を身下ろしていると、背後から「おい」と声をかけられた。

何の気なく振り返って相手の姿にたじろぐ。

男がいた。

背はペッテルより高くトーケルのように体格もいい。

焦げ茶色の髪は前髪をセンターで分け、頭には白いウサギの耳を生やしていた。

鋭い目つきとファンシーなウサ耳がアンバランスすぎて、可愛いなどと言えるはずもなく本気で怖い。


(白いウサギの耳ってことは……ええと、コマリ様の新しい護衛官で挑戦者だよな?)

ざっとゲーム内容の説明を受けたときに、挑戦者として聞いた名前はパウリだったような。

それにしてもなにこいつ、こっち睨んでんだけど。

なんか怒ってんのか?

ペッテルが硬直していると、パウリの頭を後ろからベチと叩く者があった。

「こら、顔怖いて!――ペッテル君、大丈夫や。この子、見かけ倒しやし」

黒いウサ耳を生やしたスミトがパウリの背後からニョと顔を出し、目が合うとほわっとした気の抜ける笑顔を向けてくる。 


「はぁ」

「あ、スミトさんじゃん」

肉、肉~と皿を持っておかわりに行っていたはずのケビが戻ってきて、ヘーイとスミトとハイタッチを交わした。

その様子にペッテルはあんぐりと口を開けた。

「ケビ、おまえスミト様になんでそんな――」

「ああ、ええて。ボク普通の人やし呼び捨てでええねん」

「て言われたんだよ。でもさすがに呼び捨てできねぇから「スミトさん」で落ち着いた。で、こっちが「ゲイリーさん」だ」

「知ってる。てかこっちってなんだ!こちらだろ」


物怖じしないのがケビのいいところかもしれないが。

(大物すぎる、こいつ)

コマリ様のご友人であり護衛も務める方たちだぞ。

「スミトさん、この人がコマリ様の新しい護衛の人?へぇ、やっぱでかいなぁ。俺、ケビっての。よろしくな」

パウリがケビの手を握り、ペッテルにも手を差し伸べてきたため握手を交わした。

「えーと……ペッテルでいいんだよな?さっきは驚かせたみたいで悪かった。俺のことはパウリでいい」

「シモン様たっての希望でコマリ様の護衛になったと伺っているので……」

「あー、そこはそれってことであんま意識しないでもらいたい。お、そうだ。王宮に入りたての下っ端だし、俺のが後輩になるだろ?」

「ああ、まぁ」

「じゃそういうことで」


あれ、意外に話しやすい。

見た目がこれなのに。

アンバランスで怖いと思った強面男のウサ耳姿も、話をしてみたら受ける印象が変わった。

く、とペッテルは笑う。

「にしてもそのウサ耳、恐ろしく似合わないよなぁ」

「そっちの根性悪にいきなり魔法をかけられたんだよ」

親指でゲイリーをさしつつパウリが顔をしかめた。

「あとで尻尾も生やしてやろうか」

にやりと笑んだゲイリーに、ペッテルは見てはいけないものを見てしまったかのように顔をそむける。


ゲイリーは見た目がすこぶるいいのに、愛想がよくない。

それどころか実は一癖だってあるのでは、と一緒に仕事をするようになってペッテルは感じていた。

なのに執政塔で働く女の子たちに熱い視線を向けられているのは、なんだか釈然としない。

「いらない」

「なに断ってんだよ、パウリ。こういうのは楽しんだもん勝ちだぞ。俺を見ろ、ネズ耳だ!尻尾もあれば良かったって思ってんのに」

「おおケビ君、楽しみかたよぉ心得てるで。やるからにはなりきる!これや。パウリ君、ボクらを見習い」

 

パウリの前で並んでポーズを決め出したスミトとケビに、ペッテルは「一緒に」と言われる気がして側を離れた。

呆れ顔で二人を傍観していたパウリが、なにかに気がついたように眉を揺らした。

「ケビ、ちょっとそれ見せてくれ」

と、いきなりケビの胸ぐらを引き寄せると、コートを大きくはだけさせた。

「うぇ!?なに?」

「見つけた。この裏地の模様、ダイヤだよな?てことはペッテルもか」 

呟くパウリがペッテルのコートも引っぺがす。

「やっぱりあった。でも変だな?見つけたのに光らないぞ?」

首を傾げてパウリがスミトとゲイリーを振り返った。


ペッテルはケビから視線を感じて小さく頷く。

「ゲームの挑戦者は二人で一人です」

ペッテルが教えられていたゲームクリアのための鍵を話すと、パウリが再び視線を戻した。

「あ?……ああ、ヒントか。挑戦者?が俺ってことか。二人揃わなきゃ駄目ってんなら、もう一人は誰だ?」

「コマリ様です」

「お姫さん?くそ、ばらけてんじゃん。で、ケビはヒント持ってねぇの?」

「挑戦者を邪魔する仕掛け人がいます」

「それは知ってる。他にヒントはあるか?」

「あります」

「え、あるのか?ダメもとで聞いたんだけど。二人とも?――教えてくれ」


「挑戦者が二人揃うと、新たなヒントと暗号を持つ者の元へ案内されます」

「案内人がいないと新たなヒントを持つ者にたどり着けません」

ケビとペッテルの順で答えると、パウリはフーンと考えるように腕を組んだ。

「つまり俺とお姫さんがばらけたままじゃヒントをすべて集められないのか。なら合流しなけりゃな」

言いながら気にするようにスミトとゲイリーを見る。

「あんたたち、俺がお姫さんとこへ行くのを邪魔するのか?」

「せぇへんよ~。まずは二人を引き離すのがボクらの仕事やってん」

「あそ、ここまで時間食ったけどいま何時だっけ」


パウリがごそごそとズボンのポケットを探り懐中時計を取り出した。

が、すぐに「あれ」と声を発する。

「なんだこれ。蓋が開かないぞ」

「おパウリ、その懐中時計って騎士団の奴らが持ってるやつじゃん。王宮騎士の証だろ、それ」

ヒントを言い終え素に戻ったケビが、脇からパウリの手にある銀色の懐中時計を覗き込んだ。

「そういう意味のもんなのか?」

「え、なんで知らねぇの?パウリはコマリ様の護衛官だろ。シモン様の近衛騎士団がその役を担ってるんだから、パウリもその一員ってことになるじゃん」


「さっき王子にもらったんだが……だから失くすなって――けどこれ、蓋が壊れてるみたいだ」

「違うぞ。魔法かかってんだよこれ。なぁペッテル、おまえも見てみ?」

「ああ、本当だ。強力だし俺らじゃ解けないな。スミト様たちなら――」

「ペッテル君忘れてへん?ボクら邪魔する人らやで」

腕でバツを作ってスミトが首を振った。

ここまで黙っていたゲイリーがパウリへ言った。

「白ウサギに懐中時計は必須だぞ」

「それってこの懐中時計はゲームに必須ってことか?」

返事はないが浮かんだ笑みが肯定していた。


ペッテルはゲームクリアにどうすればいいのか知らされていない。

結果を知っているより、コマリたちと一緒にゲームを楽しめるようにということだろう。

ゲームを考えたのはシモンと側近たちらしいが、こういう遊び心があるところを知ると、自分たちと同じなんだと感じて親近感が湧く。

これからどうするのだろうとペッテルがパウリを見ていると、彼は背伸びしながら庭園を見渡した。

そして、お、というような顔をすると、ペッテルとケビを呼んだ。


「マーク持ってるあんたたちも一緒に来てくれ」

どうやらコマリがいる場所を見つけたようだ。

ペッテルは「わかった」と頷く。

「俺、もう一口だけ肉食ってから」

ケビが自分の小皿にあった肉を口に放り込み、また頬をぱんぱんに膨らませた。

「それ、うまそうだな。俺も肉を――」

テーブルに近寄ろうとしたパウリの肩をスミトがつかむ。


「はいはい、パウリ君、料理はあとあと~。コマリちゃんのとこ行くで」

スミトに追い立てられたパウリが、テーブルにある料理を未練たらしく振り返りながら歩き出す。

ゲイリーは見つけたらしい酒の入ったグラスを煽っていた。

ペッテルはテーブルにあった、手でつまめる料理をとってパクンと頬張ると、ケビとともについていった。





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