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あなたの虜  作者: 七緒湖李
本編
117/161

地下牢

囹圉塔れいぎょとうは王宮の敷地の外れにあった。

他の塔は執政塔と王族塔を中心に、周りを囲んでいるが、罪人を閉じ込めておく囹圉塔だけは例外のようだ。


低い建物は強固な砦をイメージさせた。

窓がほとんどなく衛兵が物々しく扉を守っている。

空が深い茜に染まるこの時刻では塔の中は暗く、明かりが必要だった。

小鞠とシモンを真ん中に、テディが先導し殿はオロフが務める。


目指すパウリは地下牢にいた。

辿り着くまでにいくつもの扉をくぐらねばならず、その一つ一つに魔法がかけられていて、罪人は脱走しても扉に阻まれるそうだ。

シモンとともに小鞠が牢へ現れたことで、鉄格子の前にいたリクハルドが驚いた様子を見せたが、黙って脇に控えた。

周りにいくつかある牢はすべて無人だ。

牢に立つ前、シモンは小鞠を手で制し足を止めた。


「話はわたしが」

耳元で囁き、グンネルとトーケルに視線で小鞠についているよう促す。

相手の意図がわかるまで姿を見せるなということか。

遅れて気づいた彼女はわかったというように頷いて、冷たい石の壁に引っ付くようにして息を殺した。

シモンがパウリのいる牢の鉄格子の前に歩みを進めると、両脇をテディとオロフが固めた。

リクハルドが全体を眺められるように、三人の背後の離れた位置に立った。


「また会ったな、パウリ。自由になると逃げたはずが王宮に舞い戻ってくるとは。で?コマリがクレメッティに再び狙われるとはどういうことだ?へまをして奴を逃がしたか?」

小鞠に向けられるときは優しいはずのシモンの眼差しが、相手を油断なく見据えて鋭さを増した。

「魔力のない俺が魔法使いに対抗できると思うか」

聞こえてきた声は、牢に入れられている者の声とは思えないほど明るかった。

王子であるシモンを畏れるでもなく、まるで友人に話しかけるような口調なのは、相手がどんな身分であれ人は対等だと思っているからかもしれない。


テディやリクハルドの目つきが険しくなった。

きっとパウリの態度が不敬だと感じたからだろう。

当のシモンは逆に会話を楽しんでいるのか、口の端を持ち上げた。

「普通の人間が魔法使いとやりあうなら、防御を強固にしておくのが定石だろう」

「兄と名乗れば怯むと思ったんだが、俺が兄とは全く信じてくれなかった。それどころか、あいつを暴走させたかもしれない。そんなわけで王子はお姫さんを全力で守ってくれよ」

「おまえに言われるまでもない」

「てことはやっぱりクレメッティはしくじってるのか。お姫さんの生死の確認にあいつも王宮に来るかと思ったが、どうも勘が鈍ったな」


ハハと小さな笑いが牢に響いて、不自然に途切れる。

そして牢の中から長い溜息が聞こえた。

「シモン王子、あんたに頼みがある」

打って変った真剣な声音に小鞠は、中が見えないはずの牢を見つめた。

「クレメッティのことは俺に任せてくれないか?」

「それはクレメッティを生かしたいということと同意か?」

瞬間、周りにいた者全員がシモンを見た。

もちろん小鞠もだ。

全員の視線を一身に受けたシモンは言葉を続ける。


「一昨日の夜、おまえはクレメッティを利用するのかというわたしの問いに答えなかった。あのときはあの場を逃げることを優先したのかと思ったが、思い返してみればおまえは、「いつか必ず自由になる」ではなく「いつか必ず自由に」という言い方をした。あれは自分のことではなく、クレメッティのことを言っていたのではないか?そう考えてみたら謎だったおまえの行動に、やっと納得がいったぞ。おまえとクレメッティはカーパ侯爵家に拾われたことで、死ぬまで侯爵に利用され続ける。そんな奴隷のような生活から弟だけでも自由にしたいと、おまえは願っていたのだろう。そして王宮から追われる身となったいまなら、カーパ侯爵もクレメッティを切り捨てる。それこそがおまえの待っていた機会だ。侯爵にクレメッティの始末を命じられたおまえは、わたしたちの前に姿を見せ、無能な弟を消すと思わせた。ただ連れ去っただけでは生きていると思われるからだろう。そのあと王宮の追捕をかいくぐり国外へ逃げれば、おまえたち二人は晴れて自由の身となる。筋書きはこんなところだったのではないか?」


シモンの話を聞いて、小鞠は頭の中で整理する。

彼女はシモンから、クレメッティはカーパ家の手の者で、カーパ侯爵がすべての黒幕であろう、と聞いていた。

つまり侯爵の命令で動いていたクレメッティは、実行犯であると同時に侯爵の罪を暴く証人ともいえる。

だがクレメッティを捕えようとした矢先、ここにいるパウリが彼を連れ去ってしまった。

そのためカーパ侯爵の悪事を立証できず、いまだ捕えることはできずにいる。


小鞠が知っているのはそのくらいで、パウリとクレメッティが侯爵に拾われたなど初耳だった。

それに彼ら兄弟には複雑な経緯があるのか、クレメッティはパウリを兄と知らないらしい。

ではパウリは陰から弟を見守り続けていたのか。

(でも何か引っかかるような。なんだろ?)

小鞠が思ったところでパウリの声がした。


「やはり王宮側はカーパ侯爵のことを怪しんでたのか。ま、三大貴族のうち二家が問題起こしたんだ。残る一つの謀じゃないかって、そりゃ疑うか」

「いまの発言は告発と捉えて良いのか?」

「俺も怪しいって言ってるだけさ」

パウリにはぐらかされシモンは僅かに目を細める。

一筋縄ではいかない男のようだ。


「そんなことよりさっきの話だ。大まかなところは王子の言った通りだが違うことがある。――俺は国外に逃げる気なんてない」

「なに?」

「クレメッティが自由になったら、じゃあいったい誰がお姫さんを狙った犯人になる?これだけ王宮を騒がせておいて、「犯人は煙のように消えました」じゃ誰も納得しないだろ。黒幕と一緒に実行犯も捕まってやっと事件は解決する。違うか?」

「おまえがクレメッティの代わりになるというのか?」


ではパウリの言ったクレメッティのことを任せてくれとはつまり、彼を助けるだけではなく、彼の身代わりになってパウリが捕まるということだったのか。

小鞠がそう思ったように、シモンも同じことを考えたようだ。

青い眼差しが、パウリの本心を測りかねて牢を見ている。


「あいつがすべてを忘れて生きてくれりゃあいいが」

聞こえたパウリの声が、小鞠にはどこか諦めを含んでいるように感じた。

まるでそうならないと思っているような口ぶり。

そのとき小鞠は、ふとあることを思い出した。

ここで自分が発言してしまっていいだろうか。

ためらったが、このまま時間だけが流れていくよりはと、彼女は足を踏み出しパウリの前に姿を見せる。


「隠し事をしながら頼みを聞き入れてもらおうなんて、そんなのシモンが頷くはずがないでしょう?」

臣たちは小鞠が動いたことに慌てた様子を見せたが、シモンだけは落ち着いた態度で彼女に手を差し伸べた。

「やはりおとなしくしていなかったか」

「二人で半分こでしょ。ここからはわたしの番」

苦笑ともつかない顔でシモンが笑った。

小鞠は繋いだ手に力をこめて、牢屋に向き直った。 

鉄格子の向こうに、後ろ手に腕を縛られた男が座り、こちらを呆然と見上げていた。


姿形はクレメッティと似ていない。

けれど茶色の瞳がクレメッティの色と同じに見え、不思議と兄弟の話は本当だろうと小鞠は納得してしまった。

「あんた、お姫さん?……本物?」

「ここでわたしが本物と言ったところで確かめる方法はないと思う。わたしがあなたを、本物のクレメッティのお兄さんかわからないのと一緒」

小鞠の台詞にパウリは少しあって肩を竦めた。


「確かに口先で何とでも言えるわな」

「でしょ。結局は自分で判断するしかない。今からわたしは、あなたをクレメッティのお兄さんと信じて話をするから」

「は?そこは信じないって話になるところだろ?」

「目の色が同じだし、クレメッティのことを本気で心配してるようだから兄でいいじゃない」

笑って答える小鞠に、パウリが「軽いな」と呟く。

「で、お姫さん。あんた、俺が隠し事をしてるって言ったけど、どうしてそう思うんだ?」

「だってクレメッティはアンティアのためにわたしを殺そうとしたんでしょう?」


小鞠がそう言ったとたん、シモンをはじめ周りが一斉に彼女を見た。

「どういうことだ、コマリ?カーパ侯爵が娘のアンティアを王妃の座に据えたくて企てたことだろう?」

「侯爵の狙いはそうかもしれないけど、わたし、思い出したの。一昨日、クレメッティはわたしじゃなくて、「あの方」こそがシモンの相手に相応しいって言ってた」

「あの方?」


「うん、そのときはわたしも誰かわからなかったんだけどね。クレメッティがカーパ侯爵の世話になっていたなら、アンティアにも会ったことがあるでしょう?あんなに綺麗な人だし、憧れたりとかあったんじゃないかなぁ。だけど身分違いで結ばれることは難しいだろうし、だったらせめてアンティアは幸せになってほしいって思って――」

「カッレラ王国の王妃にしようと思った、と?」

頷く小鞠にシモンが考えるそぶりを見せる。


「シモンからカーパ侯爵が黒幕じゃないかって聞いたとき、どうしてわたし、クレメッティの言った「あの方」がアンティアだって思い至らなかったんだろ。ていうかこんな大事なこと、すっかり記憶から抜け落ちてた」

人とはショッキングなことがあったとき、それを忘れてしまいたくて記憶があいまいになることがある。

そういう現象が自分に起きていると気づかないまま、小鞠は再びパウリに向き直った。

「ねえパウリ、クレメッティはアンティアのためにこんなことをしているんじゃない?それこそアンティアのことしか頭にないくらいの入れ込み方で。だって一昨日のクレメッティはどこか正気じゃない感じがしたの。パウリだってそう思ってるから、クレメッティがすべてを忘れて生きてくれるか心配したんでしょ?」


一昨日クレメッティと話をした限り、彼は自分の現状に絶望しているように見えなかった。

というより「あの方」がアンティアであるなら、彼女のために侯爵家で生きることを選んでいる気がする。

先ほど小鞠が何か引っかかりを感じた理由はこれだ。

パウリとクレメッティの願いが違うと感じるのだ。

そこへ「なるほど」と声がしたため、小鞠はハッと隣を見上げた。


「アンティアのためか。侯爵の立場であれば今は動かずにいるほうが安全であるのに、どうして再びクレメッティを差し向けてくるのかと思ったが……クレメッティが独断で動いているのだな。なんと身勝手で歪んだ愛情たることか。執拗にコマリを付け狙う理由が、このようなくだらぬことであったか」

低く呟くシモンから、ゆら、と怒りが滲んだ。

ただならぬ気配に小鞠はゴクンと息を呑んでいた。


「パウリよ、クレメッティのことをおまえに任せるわけにはいかなくなった。話はここまでだ」

「待っ――王子」

「シモン、待って」

小鞠は牢を去ろうとするシモンの手を引っ張って引き留めた。

「パウリ!クレメッティを止めるって言って」

え、と戸惑うパウリに更に声を張る。

「止められるって言うの、早くっ」


だっていまシモンはとても恐ろしいことを考えている。

肌で感じるのだ。

決断はすぐに命令となってしまう。

「言ってったら言って!」

「と、止める。俺ならクレメッティを止められる。止めてみせるっ!」

「シモン、ほら、パウリに任せてみよう。クレメッティを説得してくれるって。ね?」

小鞠は掴んでいたシモンの手をぎゅうっと握りしめた。

「わたしの言ったことは想像に過ぎないんだし、いったん落ち着こう」


「マチルダのこともそうであったが、コマリは一度知った相手には非情になりきれない。それでは裁くことは無理だ」

「なら怒りに任せて裁くのはいいの?シモンはいま自分が何をしようとしてるか分かってる?権力を持った人の一言って、強力な武器にもなるんだからね」

「先に仕掛けてきたのはクレメッティだ」

「だからやり返すの?それじゃただの報復だわ」

「ではどうしろと言うのだっ!」


シモンが声を荒らげた。

が、すぐに我に返ったように黙り込み、怒鳴られて目を丸くする小鞠に気づいて俯いた。

彼の目が彼女の手首――シャツの袖から覗く包帯へ注がれた。

「最初は髪が短くなった。今回は怪我だ。では次は?そう考えるだけでわたしは恐ろしくて仕方がない。もうコマリのどこも傷つけたくはないのだ。愛する者を守ろうとしてはいけないか?」

尋ねてくるシモンの表情が辛そうに歪む。

いつも自分より小鞠の気持ちを優先してくれる彼だが、今回は譲れない思いがあるのだろう。

こちらから握ったはずの手を、強く握り返してくる。


小鞠が知る限りシモンがはっきりと不安を口にするなど初めてだった。

どんなときも笑っていてくれたから、すっかり彼に頼り切っていた。

(いつだって、シモンがいれば大丈夫って思えたの)

今度はこっちの番だ。

あなたの不安を消すにはどうすればいいのか。


小鞠はシモンに向かってにっこりと笑った。

「わたしは運が強いから簡単に死なない」

「運?そんな根拠もないことを言っている場合では――」

「運も実力のうちって言うでしょ。両親がいなくなっても親代わりのマスターと冠奈さんがいたし、借金ができても異世界の王子様が肩代わりしてくれた。その王子様がわたしの運命の人だなんて最初は驚いたけど、考えてみたら運命の相手って普通はわかんないし、そもそも異世界に住んでいたら絶対出会えてないわ。だけどわたしはシモンと会えたし、両想いの奇跡だって起こったの。これってわたしがすごーく強運だってことでしょう?」


シモンの両手を握ったまま彼女は笑顔を深める。

いつもシモンの笑顔に励まされたように、あなたの力になれたらいい。

「大丈夫。ずっと一緒って約束覚えてる。それともシモンはわたしが約束を破るような人に見えるの?」

「一人で行動しないことや王族塔から出ないことなど、既に何度か破られているが……」

あれ?そんなに約束を破ってる?

し、しまった。

普段の軽はずみな行動が仇になって、言葉にまったく説得力がない。

「え、えぇーとその件につきましては、止むに止まれぬ事情がありまして」


焦りながらごにょごにょと小鞠が言い訳すると、シモンが小さく笑った。

周りの臣たちもシモンにつられて失笑してしまったのか、誤魔化すように咳払いをする。

ああしまらない。

けれどシモンが笑ってくれた。

ねぇ、いつものあなたに戻ってくれたでしょう?


「この約束は絶対守るのよ。絶対の絶対なの。だから安心して、シモン。わたしは寿命をまっとうするまで死なない」

見上げる青い瞳が弱り果てた様子を見せた。

「根拠などまるでないのにどうしてそう自信たっぷりなのだ。言い出したらきかないところがあるが、今回はその最たるものだな。――……負けた」

諦めの言葉とともにコツンと額を合わせてきたシモンが祈るように言った。

「絶対だ。その約束だけは破ってくれるな」

「うん」


小鞠は顔つきを改め牢屋を振り返った。

「クレメッティはまたわたしを狙ってくるって言ったそうだけど、本当にそう思う?」

「あー、絶対の保証はないが……たぶん……いや、おそらく……十中八九?」

最後には疑問形になってこっちを見上げてくるパウリだ。

しかし嘘を言っている目ではない。

「そっか。ねぇパウリ、クレメッティがどこにいるかわかる?王宮に来る前にどこかで準備するとかないかしら」

「隠れ家なんてもんは持ってはいないはずだ。侯爵家に行ったかもしれない。結局のところあいつが拠り所としてるのは――……アンティアなんだ」

パウリが少し間を空けてアンティアの名前を出した。


やはりクレメッティのいう「あの方」は、アンティアなのだと小鞠は思った。

「今からカーパ家に先回りって無理だよね。あれ?だけどクレメッティが侯爵家に行くのってどうなの?」

王宮は証拠がなくてカーパ侯爵を捕えられない状態だ。

だからクレメッティを探している。

生きたまま捕らえて侯爵の悪事を暴く証人とするために。

となれば侯爵からすればクレメッティは――?


小鞠の言わんとすることを察したのかパウリが答えた。

「王宮がクレメッティを追っていることぐらい侯爵も既に知ってるだろう。侯爵からすりゃ、クレメッティは用無しだ。現れたら当然始末しようとする。クレメッティもその辺りはわかってるし、見つからないように屋敷に忍び込むだろうさ」

「じゃあ今から侯爵家へ向かえば、アンティアの元にいるクレメッティに会えるわね」

小鞠の台詞にパウリは、なんだって!?と声を大きくした。

「クレメッティに会う!?お姫さん、あんたあいつに狙われてるって自覚はあんのか?」


「だって襲われるのを待ってる義理はないでしょ。それに彼は、友達の魔法使いを襲ったことを後悔してるみたいだったの。なのにわたし、追いつめるようなことを言っちゃった。ヴィゴが生きているって言えば、クレメッティはきっと心が軽くなると思う。それで少しでも周りに目を向ける余裕ができれば、パウリのことだってお兄さんだって信じてくれるかもしれないわ」

「どんだけ前向きだよ」

「悪い想像しかできないときに、こうなってほしいって願うのは大事だわ。人は希望がなければ頑張れないもの。パウリにとってクレメッティと一緒にやり直したいっていうのが、希望であり幸せの第一歩でしょ」


小鞠は牢に近づいて鉄格子を握った。

「だからパウリ、一緒にクレメッティのところへ行こう」

瞠目するパウリに頷いて、彼女は鍵を持つであろうリクハルドを振り返った。

「鍵を開けてパウリを自由にして」

リクハルドはシモンへ伺うような目を向ける。

パウリもまた、カーパ侯爵の悪事を知る重要人物だ。

クレメッティを逃がしてしまったとしても、彼がいれば侯爵は捕えられる。

牢から出すのは駄目だと言われるだろうか。


願いをこめてシモンを見つめると、彼は数秒の沈黙のあとリクハルドに言った。

「コマリの望むように」

ぱぁと顔を輝かせた小鞠に、シモンは苦笑を否めないようだ。

縛られて赤くなった手首を撫ぜながら、パウリが牢を出てくるのを周りの臣たちが警戒する。

鍛えられた肉体は服の上からでもわかる。

暴れたりしないかと用心しているのだろう。


「座っていたからわからなかったけど、クレメッティより大きいのね」

「あいつはひょろひょろすぎるんだ。似てない双子だって言いたいんだろ?」

「目は似てるってば。あ、違う目の色だ。パウリってこう目つきが鋭すぎて、女の子の好きな王子様キャラじゃないもの」

指で自分の目じりを吊り上げ小鞠が言うとパウリはハハと笑った。

これまでの生き様からか顔つきはきついが、砕けた話し方は嫌みがないし、笑うと更にとっつきやすい。

「あいつが王子様ね。シモン王子と全く違うし、あいつじゃせいぜいお貴族様のボンボンあたりだ。いわゆる線の細い優男って感じのな」

それからすぐに真面目な顔になった。


「牢から出してくれたことに感謝する。クレメッティのことは責任をもって俺が止める。二度とお姫さんには危害を加えさせない」

「パウリこそ、捕まるのがわかってるのに王宮まで来て、わたしが危ないって教えてくれてありがとう」

小鞠が笑顔でお礼を言うと、パウリは面食らった様子を見せた。

「お姫さんは警戒心がなさすぎだ。王子も似たところがあるように見えたが、度量がでかいってだけで無警戒じゃない。俺が言うのも変だが……お姫さん?あんたお人よしもほどほどにしないと悪人につけこまれれるぞ」

「悪人ってパウリみたいな?じゃああんまり怖くないね」

はー、とパウリが溜め息をついた。


なんで溜息なの?

やれやれって顔をしないでったら。

よし、ここはデキる女を見せなきゃいけない。

「クレメッティのことはわたしが自分でなんとかしなきゃいけないって思ってるの。とはいえ、どうしたらいいか全然わかんないんだけどね」

「わからないんじゃどうにもできないわな」 

う、突っ込み早いし鋭いな。

話を逸らそう。


「えと……パウリのこと、お兄さんだってクレメッティにわかってもらおうね」

下手な話の逸らし方に笑われると思ったが、なぜかパウリは小鞠の視線を避けるように床を見つめた。

ん?なんだろう。

微妙な空気だ。

「ああ、そうだな……」

遅れて返ってきた声はなぜかしばらく耳に残った。




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