#2
女性の言葉に、水鈴は驚いて叫んだ。
「お父さんのこと知ってるの?」
「えぇ。でもしっ、ね。家族で来てくれたのは嬉しいけど、私と会ったことは内緒。……その代わりとっておきの秘密を教えてあげる」
「うん! 内緒内緒! 秘密ってなーに?」
もう髪の色や、不自然にぬれた身体のことは気にならなかった。それより彼女のこそこそ話に夢中である。
男の子はこちらの会話の内容が分からない上、母を独占されているせいか、少し不満げに……いや、退屈そうな顔をしていた。川の中に手を入れ、石かなにか拾っている。
「おねーさん、秘密は?」
「ふふ。おねーさん達はね、妖精なの。あなたのおばあちゃんのおかげで産まれたのよ」
「おばあちゃん?」
「あなたのお父さんの、お母さんのこと。私の母はあなたのおばあちゃんを、私はあなたのお父さんを見守っていたの」
水鈴の細く柔らかい髪を梳いて説明する。
「そして今度は私の息子が、あなたのことを見守るわ。“私のときも”助けてもらったからね」
少しややこしいと思ったが、どうでもいいと思った。優しく頭を撫でる掌が気持ちいい。
手はぬれてひんやりしているのに、髪がぬれた様子はない。本当に不思議な手だ。
男の子がちらっとこちらを見る。先程より緊張も薄れ、反射的に笑い返した。すると彼も恥ずかしそうに笑った。
川の水面はさっきよりも輝いている。
母がいつか言っていた、げんそうてき、という言葉がふと脳裏を掠めた。
「水鈴、どこー? 帰るよー」
霞んだ記憶に被せるように、母の声が聞こえる。二人の方へ振り返ると、女性はにっこり微笑んだ。
またここへ来られるだろうか。不安に感じていると、男の子は綺麗な石をくれた。青く光る美しい石だ。
またおいでと言われた気がした。来なかったら会いに行くよ、と言われてる気もした。
石を握り締めて、母の声がする方へ戻る。しかし大事なことを忘れていた、と慌てて振り向く。
「ねぇ、名前教えて!」
人間でもそうじゃなくても、今の自分にはどうでもよかった。彼らが妖精と言うなら、きっとそれが事実なのだ。
誰にも話さなければこのことは自分しか知らない、とっておきの秘密になる。父にも母にも話すつもりはない。少なくとも、今はまだ。
男の子は隣に佇む女性を見上げた。
「今は教えられる名前はないの」
「えーっ。じゃあ呼ぶときはどうしたらいいの」
「そうねぇ……。じゃああなたには特別に教えてあげる。人が私達について話す時に使ってる、……妖精としての名前」
愛しい子だからね。
麦の匂いを連れて、風がすり抜ける。優しい声は川から届いた。
「ニクシー。いつかまた会いましょう」
NIXE




