#5
十一年後。
「すごーい! すごい大きなクッキー!」
「あぁ。水鈴の手と同じ大きさじゃないか?」
「すごいわねぇ。そんな大きいの食べられる?」
「うん!」
和成はドイツの街へ訪れていた。
今回は“三回目”になるが、会社から長期休暇をもらい、旅行の為に来た。母とではない。妻と来月六歳になる娘を連れて、思い出作りの為にやってきた。
生涯独身の覚悟もしていたのに、友人の紹介で知り合った女性と結婚し、今年で八年目になる。五年前には最愛のひとり娘が誕生し、忙しいが充実した日々を送っている。
数日前は赤ん坊だった気がするのに、娘の水鈴はしっかり意志を持って行動し、誰が相手でも話し掛ける。人だけでなく、もちろん物も。さすがに花はなくなったが、石像や動物には未だに嬉嬉として話し掛けている。
年々口が達者になり、ませた子になっている。これは自分と妻、どちらに似たんだろう。それともこの年頃の女の子は皆通る道なんだろうか。
たまに想像して可笑しくなるが、仮に息子が生まれていたとしても、恐らく似た部分があったと思う。
妻はスキンシップを怠らないから、直接の愛情表現が上手い。自分は逆だ。何よりこんな早くから娘にパパ気持ち悪いと言われたくないので、むしろドライに接するよう努めていた。
「すごいねー、本当に食べちゃった。お父さんにお礼言うのよ」
「美味しかった! パパありがとう!」
「はいはい」
娘の笑顔を受け、和成も笑って返した。彼女の頭を撫で、もう片手で妻の肩に手を添える。
「もっと寒いかと思ったけど、今日は暖かくて良かったわね。……あ、そういえば寄りたいところがあるんじゃなかった?」




