#3
できれば大切に持っていたかったけど、もしかしたらこれも決まっていたことかもしれない。
「恋愛運の石じゃないのは確かですけど、幸運を呼ぶ石でした。後は……そうだな。命を繋げる石」
「あら、素敵。でも本当に良いんですか?」
「えぇ。ありがとうございます」
笑って礼を言うと、彼女もふふ、と笑って目を細めた。
新月が浮かんでいる。
「和成さん、元気そうじゃないですか」
「さっきも言いましたよ、それ」
「ん~。……心配することなかったのかなって、安心しました」
泉純は柵から手を離し、和成の自宅と反対方向へ体を向ける。
「私すごく嬉しいんですよ、和成さん。貴方は優しくて、それに強い」
「急にそんな煽てないでくださいよ。仕事じゃミスばかりしてますし」
「そんな表面的なことを言ってるんじゃありませんよ。糸原和成さんという人の、誰にも真似できない部分を言っているんです」
川のせせらぎと、ヒールの鳴る音が心地よく響いた。
「会えて本当に良かった。小石のことは気にしないでください。貴方も言っていた通り、本当にただの石ころだったんだから」
「えっ?」
「ではまた。……そうだ、お母様のこと大切にしてあげてくださいね。後、ありがとうございますって伝えてください」
華奢な後ろ姿と、揺れる髪。
「貴方達親子は本当に素晴らしい人ですよ」
彼女の足元にできる影が時々歪むように見え、何度か瞬きした。けどちゃんと確認しようと思ったときには、彼女はもう暗闇の中に消えていた。
走れば追いつけたかもしれない。だけど引き止めてはいけない気がした。彼女は、彼女がいる世界に戻らないといけないんだ。
その夜はとても静かだった。音も光も眠りについている。広い広い世界には自分しかいないような錯覚がしていた。




