#1
十年後や二十年後のことを考えるのが少し怖くて、だから普通の人生プランにしがみついた。けど母の言葉を聞いた時、それに一体何の意味があるのか……と笑ってしまった。
自分の半生を誰かに話すときなんて来ないかもしれないのに、何を必死になっていたんだろう。
綺麗な人生を歩もうとすることに目が眩んで、自分の好きなことが思い出せずにいた。……けど、そういえば映画が好きだったな、とか、最近ドライブに行けてなかったな、とか色々思い出した。
誇れる人生にする必要なんてない。母が言う通り……自惚れてみると、生まれてきたこと自体偉いのだから。
ある日の帰り道、自宅へ続く川沿いを歩いた。季節は変わらないものの、辺りは生暖かい空気に包まれている。黒い空には薄紫の雲が散りばめられていた。
そのまま通り過ぎようと思ったのだが、ふとあることを思い出して足を止める。
以前、陣痛が来た女性に出会した時、ここで御守り代わりの小石を落としてしまった。
あれはもう見つからないだろう。仮にあったとしても、数週間経った今では、他の小石と見分けがつかない。
ただあの小石と引き換えに尊い赤ん坊が産まれたと思えば、むしろ申し訳ないぐらいの贈り物だ。
だが、石をくれたあの少女は元気だろうか。
「探し物ですか?」
地面に視線を落としていると、背後から声を掛けられた。まさかと思って振り返ると、泉純が笑顔で佇んでいた。
「泉純さん!」




