#7
「また、良かったらお話しましょう。糸原さんって聞き上手で、ほんとに面白い方」
「ありがとうございます。元村さん……は」
「はい?」
指輪はしてない。ということは独身だろうか。なら恋人は?
でもそんなこと、今訊かなくてもいいか。
つい口を噤むと、彼女は立ち上がってこちらに手を差し出した。
「泉純、って呼んでください。仕事でもそうよばれることが多いんです」
「あ、じゃあ……泉純さん」
握手を交わし、和成も立ち上がった。自分のことも名前で呼んでほしいと伝えると、彼女は「じゃあ遠慮なく」と笑った。
SNSの連絡先も交換し、一緒に店を出る。外はすっかり暗く、いくつか星が瞬いていた。
「和成さんはドイツへ行って、お母様の話を聴いて。それ以外はなにも覚えてませんか?」
「えー……そうですね。街並みはちょっとだけ。日本よりも全体的に建物がごついっていうか、強そうって思いましたね。まぁ七歳が思うことなので 」
「あはは! 強い、というのはそうかもしれませんね。逞しいことは美しいですから。でも、儚いことが醜いわけじゃない。国境や人種を越えても助け合おうとする心が一番美しいんです」
彼女の言う言葉はどれも綺麗だ。……綺麗事。なのに輝いて心の深いところまで響く。宝石のような輝きを放っている。
「……あ。そうだ、もうひとつ覚えてることがありました。さっきのファンタジーに便乗する感じなんですけど」
駅へ続く道すがら、鞄のポケットからひとつの小石を取り出した。
「それは?」
「これ、母に連れていかれた川で会った女の子にもらったんです。それが可笑しくてね……もらった時はすごい光り輝いて、宝石に見えたんですよ。ところが日本に帰る途中に見たらただの小石だった。やっぱり初めての海外ってことで、全体的に舞い上がってたっていうか……夢でも見てたのかもしれません」
彼女は小石を受け取ってまじまじと眺めた。母だけにあらず、息子の自分までこんなことを言ってたらやばい親子だと思われそうだ。でも何故か、今はそう思われてもいいと思った。むしろ長年隠し続けたことを打ち明けて、胸のつかえがとれたような、そんな爽やかな気分だった。




