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第22話 約束

 一瞬だった。

 轟音とともに部屋の入口が破られ、九鬼の声が響くと同時に室内に閃光が満ちた。

 九鬼が光を放ったのだと気付く。


「何……!?」


 ウィールが叫ぶとに大きな影が俺の頭上を支配した。

 影がウィールに衝突すると同時に、体に掛かっていた体重が消える。

 九鬼がウィールに体当たりをし、ふっ飛ばしたのだ。


「よくも儂のものに手を出してくれたな」


 視界が戻り、ようやく詳しい状況が分かる。

 九鬼が俺を咥えウィールと対峙していた。

 思い切り壁に衝突したらしいウィールは、よろよろと体を起こしている。


「貴様、どうやって部屋の結界を破った?」


「自惚れるな。お主のような雑魚が儂を抑えられると思うてか?」


 九鬼は俺を床に置いて牙をむき出しにすると、尻尾から炎を生み出す。


「消し炭にしてくれる!」


「やれるものならやってみろ!」


 ウィールが部屋の温度を一気に氷点下へと下げると同時に、九鬼の炎が放たれる。

 放たれた氷と炎がぶつかり、激しく水蒸気を生み出した。

 部屋中が真っ白になる。


 状況を確認しようと俺がふらつきながら上体を起こすと、誰かが俺を支えた。

 如月だった。


「ちょっと守森屋くん、大丈夫!?」


「如月……無事だったか」


「立てる? 一旦出るわよ」


「外の魔物はどうした?」


「倒したわよ! めちゃくちゃ気持ち悪かったんだから! 過去最高のグロ配信でコメント欄が阿鼻叫喚よ!」


 プンスカする如月に支えられ、部屋を出る。

 九鬼も俺たちが脱出したのを見計らいウィールと距離を取った。

 牽制しながら部屋の外へと後退し、部屋の入口に大きな球体状の電撃を生み出す。


「これでしばらくは追ってこれんじゃろ。一旦立て直すぞ」


 九鬼の言葉に、俺たちは頷いた。


 近くの小部屋へと避難する。

 魔物の姿はなく、ようやく一息ついた。


「どうにか助かったわね」


「この……愚か者が!」


 九鬼は俺の胸ぐらに掴みかかってくる。

 思わぬ彼女の力に抵抗できず、そのまま壁へ押し付けられた。


「一人で行くなと言ったじゃろ! 死ぬ気かお主は!?」


 九鬼の声は怒っていたが、その顔は悲しそうだった。


「お主は儂のものじゃ。勝手に死ぬことは許さぬ」


「悪い……」


「お主が死んだらコハルはどうなる? 儂はどうあやつに顔向けすれば良い?」


「……すまん」


 九鬼はうつむく俺の頬を鷲掴みにすると、無理やり自分に顔を向けさせた。


「儂は誰じゃ?」


「あっ?」


「儂は誰じゃと聞いておる」


「誰って、九鬼だろ」


「そうではない。儂は誰じゃ?」


「九尾の狐の九鬼だ。自称、ダンジョン最強の魔物。映画が好きで、イタズラをよくする。傲慢でプライドは高いけど、根は優しくて、いつも俺のことを助けてくれて……」


 そして。


「俺の――相棒だ」


 俺の言葉に九鬼は頷いた。


「儂はお主の相棒じゃ。もっと儂を頼れ」


「でも俺、いつもお前に無茶ばかりさせちまってる」


「儂に遠慮するな、アキヒト。儂を信じろ。疑うな。焦るな。恐れるな」


「恐れてはねぇよ」


「儂が傷つくのを恐れるなと言っておる」


 九鬼は真剣な表情で俺を見つめる。


「お主はいつも頼るのが下手で全部自分でやろうとする。でもそれは時に、周りを遠ざける」


「それは……」


「失うのが怖いんじゃろう? 両親と同じように、自分の非力で何かを失うことを恐れておる」


 図星だった。

 彼女の瞳は透き通った真紅で、見ていると吸い込まれそうになる。

 大きな瞳には俺の姿が映っている。

 九鬼の瞳に映った俺の表情は今にも泣きそうな子供のようだった。

 俺はいつも、こんな顔で誰かに向き合っていたのか。


「最初は魔物として接していた儂を、お主はいつしか家族のように思うようになった。そして恐れた。自分の焦りに儂を巻き込むことを」


「何で分かんだよ」


「分かる。儂は九鬼じゃ。九尾の狐じゃ。誰かに向けられた憎悪も、怒りも、そして愛にも気付くのじゃ」


「何だよそれ……」


「アキヒト。儂を舐めるなよ。儂は最強じゃ。絶対に死なん。頼らぬことは信頼していないのと同じじゃ。儂が相棒じゃと認めるのであれば、もっと頼れ」


 九鬼の言う通りだ。

 俺はきっと、怖かった。


 誰かに頼って負担をかけてしまうことが。

 誰かに頼って傷つけてしまうことが。

 そして、大切な人を失うことが。


 頭では気づいていなくても、俺はずっと怖かったんだ。

 だからもう、無茶をするのは俺だけで良いと思っていた。

 そんな俺の不安を、きっと九鬼は見抜いてたんだ。


 俺は小さく頷く。


「すまん、九鬼。俺、お前のこと信じきれてなかった。お前がいくら強くても、死んじまうんじゃないかって」


「そんなに儂を失うのが不安なら、約束してやろう」


 九鬼はそっと、俺の前に小指を差し出す。


「指切りじゃ。儂は死なん。いつでもお主の傍に居てやる。これでもう、怖くないじゃろ」


 何だよそれ。

 まるで子供みたいだ。

 でも何だかその子供みたいな仕草が、今は無性に嬉しかった。


「――ああ、そうだな」


 俺は九鬼の小指に自分の小指を絡める。


「約束だ。俺はお前を信じる。疑わないし、恐れない。お前は俺の相棒だ」


「うむ」


 九鬼は満足げに笑みを浮かべた。

 すると如月が「で?」と声を出す。


「これからどうすんのよ? ここから帰宅するの?」


「いや、まだアーティファクトを得ておらん。半日近くダンジョンに潜って死ぬ思いまでしたのに、これでは面白くあるまい」


「じゃああの悪魔を倒すの? 危険じゃない?」


 すると九鬼はニヤリと牙をのぞかせた。


「儂に秘策がある」

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