第13話 第二層
オープニングを軽く撮影し、ダンジョンへ入る。
ゾロゾロと歩く人間がいる中、俺が撮影するのは如月だけだ。
「えー、今日の俺たちの目的は第二層の突入と探索です。ここにいるメンバーは普段から第一層の探索がメインだから、新しい光景を見せられると思います」
ナオヤが先頭に立ちスマホで自撮りをしている。
よく見れば他のやつもみんなスタッフは連れずに自撮りばかりだ。
二層の探索は危ないから、対応できるスタッフがいないというのは本当のことなのだろう。
にしても。
「みんなちゃんと装備してんだな」
撮影用のスマホで周囲を映しながら、何となく呟いてしまう。
衝撃を殺すようなチョッキや上着。
山登りでも行くかのような服装だ。
動きやすさを重視しているようにも見えるが、着ている服の質感はどれも特殊なものに見える。
衝撃を殺したり、ダメージを減らすような特殊な加工がされているのだろう。
ダンジョン探索が広まるに連れ、探索用の装備を作るブランドが出てきたという話は知っている。
特に高級なものはダンジョンから採取できる特殊な素材や金属が使われているらしい。
手練れの冒険者は皆、そのような装備を身に着けているのだそうだ。
俺も冒険者になる前に、装備を整えるよう如月に事前レクチャーを受けていた。
ただ、年中金欠の俺にはどれも手が出ないような値段だ。
自宅にあるようなマウンテンパーカーやリュックでは気休めにしかならないが、それでもそんな装備しか纏うことができなかった。
今月が終われば、冒険者としてこなした依頼の報酬がそろそろ入るはずだ。
その時は少しくらい、装備品にコストを割いても良いかもしれない。
そんなことを考えていると、前を歩いていた如月がジロリとこちらの方を向いた。
思わず彼女にスマホを向ける。
「あなたまだそんな軽装なのね。そんな装備でダンジョンに潜ってるのなんてあなたくらいよ」
「仕方ないだろ。金がねーんだから」
名無し:このスタッフめっちゃ不貞こいな。
名無し:男? オトメちゃんの配信にスタッフなんていたっけ。
名無し:前の人やめたって言ってたよね。新しく雇ったのかな。
名無し:この声どっかで聞いたことある気がする。
名無し:オトメちゃんの顔だけを映して欲しい。
スマホに表示されるコメントがいちいちうるさい。
ダンジョンで警戒しながら撮影するのは思った以上に気を使う作業だ。
ダンジョンの一層を進んでいく。
どうやら二層への入口はこの先にあるらしい。
今回の企画者であるナオヤが先日配信で見つけたとのことだった。
参加している配信者たちは、さすがに熟練の冒険者とあって道中の魔物退治もものともしない。
今回参加しているチャンネルは俺たちを含めて合計五つ。
ソロチャンネルやグループチャンネルもあるが、各チャンネルに一人は何らかのアーティファクトを所有しているようだった。
アーティファクトを用いて炎を出したり、雷を生み出すやつの姿もあった。
俺や如月はアーティファクトから直接異能を渡されたが、ここにいるやつらはアーティファクト自体の力を使っているようだ。
世間一般のアーティファクトの認知としては、こちらの方が正しいだろう。
人に異能を渡すアーティファクトは珍しいのかもしれない。
ただ、異様な光景だと思った。
売りに出せば数千万以上の価値があると言われるダンジョンの遺物。
そんなものを私物のように用いてるやつが何人もいるのだから。
有名なダンジョン配信者は皆、アーティファクトを使っているらしい。
そして如月は、そんな中で人気を勝ち取っているのだ。
改めて考えると、すごいことだと思う。
「私の勇姿、しっかり撮影できてる?」
両手剣で魔物を次々と捌く如月にジェスチャーでOKサインを出す。
どの配信者も派手だが、その中でも如月の立ち回りはずば抜けていた。
身体能力にバフをかける異能を使っているのもあるが、こうしてみると異能を使いこなすためにかなり努力したことが伺える。
一人だけ熟練度が並外れて高いのが分かった。
順調に一層の探索は進み、やがて二層へと続く階段へと到着した。
無機質なコンクリートの道に突如として出現する薄暗い階段。
全員がゴクリと唾を飲む。
誰が先人を切るのか、と考えているとふいにナオヤが俺を指さした。
「おいスタッフ。先に進め」
「えっ? 俺?」
「こう言う危険な場所に入る場合はスタッフが先に確認すんのが筋だろ。それとも俺たちタレントを危険に晒そうってのか?」
どうやら本気で言ってるらしい。
自分の安全のためなら立場が下の奴を犠牲にしても良いっていうのか。
とんでもないやつだな。
名無し:ナオヤ態度でけぇ。
名無し:配信者が先陣切れないのは草。
名無し:でも正直スタッフ先に行けはそう思う。
名無し:オトメちゃん第一でお願いします。。。
コメントも微妙に相手側についてるな。
俺はそっとため息を吐いた。
仕方なく俺が行こうとすると、「待って」と如月は口を開く。
「私も行く」
「何言ってんのオトメちゃん。女の子が先陣切ってどうするの」
「私は彼の雇い主です。彼が行くなら私も行きます」
「ダメダメ。オトメちゃんはみんなのアイドルなんだから。ここで先に行かせたら俺が怒られちゃうよ」
「いいよ如月。俺が行くから」
「でも……」
俺が言うと、如月は不安そうな表情を浮かべる。
「大丈夫だよ。すぐに戻る」
そっと如月に目配せして俺は階段を降りた。




