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第12話 大型コラボ

 気絶した氷室を放っておいて講義を受ける。

 ノートを書いていると、隣に座る如月が苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「どした?」


「授業の内容がわからないのよ……。最近忙しくて全然出席できてなかったから」


「何だ。それなら早く言えよ」


 俺がそっとノートを差し出すと、如月は目を丸くした。

「いいの?」と言わんばかりの顔。


「困ってんだろ。別に写すくらい構わねぇよ。減るもんじゃねぇし」


「あなた、そういう適当な学生のこと嫌いだと思ってた」


「ノートや出席の代返目的で話しかけてくるやつは嫌いだけどな。知ってるやつが困ってんなら、助けるのは別に嫌じゃねぇよ」


「そう……。お人好しね」


「お前こそ、大学に友達多いんじゃねぇのかよ。ノート貸してくれるやつくらい、いくらでもいるんじゃねぇの?」


「逆よ。私、有名すぎるせいかまともな知り合いがいないの。繋がろうとして近づいてくるやつとか、反対にそこで気絶してるあなたの友達みたいに萎縮しちゃう人とか、そんなんばっか」


「なるほどな」


「だからあなたみたいに、損得勘定抜きで接してくる人は結構珍しいわ」


「褒め言葉だと思って良いのか?」


 俺が尋ねると、ジロリと如月はこちらを睨んだあと。


「一応ね」


 と言って、ぷいと顔を逸らせた。

 素直じゃないやつ。

 すると如月は何か思い出したように口を開いた。


「そう言えば、コラボの話なんだけど」


 来た、と思った。

 別に話を流そうとは思っていなかったが、いざ話題を出されると身構える。


「あれから色々考えたんだけど、九鬼さんの実力をいかんなく発揮できる企画が思いついてないのよね。何かとっておきのアイデアでもない?」


「アイデアね……」


 この間みたいな大型の魔物討伐依頼でもありゃ良いけどな。

 とは言え、ああ言った危険な魔物の討伐依頼は滅多に出るものじゃない。

 それに下手なことを言って九鬼の暴れる姿が世界中に配信されるのも微妙だ。

 この間は九鬼が呪いを使って自分の姿が映像に残らないようにしてくれたが、手法がバレた以上同じ手は使えないだろう。


 話を逸らすほうが良いかも知れない。


「アイデアは思いつかねぇけど、お前が良ければコラボじゃなくて何か手伝うのはどうだ? カメラマンするとか、ボディーガードするとか。何なりとできるだろ」


「スタッフねぇ。確かに、以前雇ってた撮影係の子が止めたばっかりだし、悪い話じゃないけど……」


「だろ? そっちの線で考えようぜ」


 如月は訝しげな視線をこちらに向ける。


「怪しい……。私とコラボしたくない理由でもあるの?」


「えっ?」


 いきなり図星を突かれて思わずギクリとする。

 すると同時に、如月のスマホが小さく震えた。

 如月は何となくスマホを手に取ると、やがて何か思いついたように笑みを浮かべる。


「ねぇ、それならちょっと頼みがあるんだけど」



 数日後。



 如月に言われた場所に集合すると、そこには彼女を始めとする複数の人間の姿があった。

 いずれも俺みたいな若者で、集合場所に佇む俺を見て「誰だこいつ」という視線を投げかけられる。

 居心地の悪さを感じていると、にゅっとリュックの中から狐姿の九鬼が顔を出した。


「のう、アキヒト。本当にあの小娘が言った合流場所はここで合っておるのか?」


「そのはずなんだけどな」


「待った?」


 ヒソヒソと話していると、如月が姿を見せる。

 彼女が現れた瞬間、ザワっと空気が変わるのが分かった。


「悪いわね、遠くまで来てもらって」


「それは別に良いけどよ」


 俺はキョロキョロと周囲を見渡す。

 周りのやつらは皆撮影用の機材を持っており、格好も本格的な探索用の服装をしている。

 完全な私服の俺とはずいぶん違って見えた。


「俺、場違いじゃないか? ここにいるやつって、みんなダンジョン配信者なんだろ?」


「大丈夫よ。私のスタッフってことにしてるから」


 如月が言った『頼み』とは、配信の手伝いをして欲しいというものだった。

 アシスタントをして欲しいとしか言われていなかったから、まさかこんなに人数がいるとは思わなかったが。

 あの時彼女が講義室で見ていたのは、複数のチャンネルとの大型コラボ依頼だったらしい。


 コラボの内容は『第二層の探索』。

 ダンジョン配信はそれなりに危険で、特に下層に潜るとなると危険度は段違いに跳ね上がるそうだ。

 そのため通常のダンジョン配信で下層へ侵入することは滅多にないという。


 今回は複数のチャンネルで協力し、下層の様子を視聴者へ届けることを目的としている。

 これだけでかなりの数字が取れるらしい。


 如月も前々から下層へのチャレンジはしたいと考えていたようだが、流石にソロで潜るのは危険なので避けていたという。

 普通の撮影スタッフだと命の危険があるため、ある程度魔物に対処できる人員を探していた時に俺たちに白羽の矢が立ったというわけだ。


「言っておくけど、あなたたちを私の配信に出す目的を流したわけじゃないから。この間の一件で知り合って、今回からうちのチャンネルの臨時アシスタントになったって筋書きで守森屋くんと九鬼さんを紹介したいの。報酬も出すし、悪い話じゃないでしょ?」


「そういう具体的な話は先に言ってくれ……」


 上手くコラボ配信から話を逸らせたと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。

 俺の考えが甘かったか。

 そんなことを考えていると、如月は誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡す。


「それで、九鬼さんはどこにいるの?」


「九鬼はあとで合流する予定だ。先に行っててくれとよ」


「大丈夫なの?」


「あいつは呼んだらすぐ来る。安心してくれ」


「それもよく分からない話だけど。うーん、それなら紹介動画はコラボ後に撮るしかないか……」


 そこで如月は、リュックから顔を出す九鬼に気がつく。


「その動物は? 狐っぽいけど」


 俺と九鬼は顔を見合わせる。


「俺の相棒だ。何かと鼻が利くんだよ」


「ふぅん? 別に構わないけど、ペットの管理はちゃんとしてよね」


「誰がペットじゃ」


 思わずすごもうとする九鬼を何とか制する。

 するとサングラスをかけたいかつい感じの男が近づいてきた。


「オトメちゃん、お疲れ。相変わらず可愛いね」


「ナオヤさん。今日はコラボに誘ってくださってありがとうございます。


 どうやらこいつが今回の企画者らしい。

 ナオヤと言われた男はこちらに目を向けてくる。


「そいつは?」


「私の大学の学友です。撮影スタッフに逃げられちゃったんで、手伝ってもらおうと思って」


 如月が説明すると、「ふぅん?」と男はこちらに目を向けた。


「大丈夫なの? 素人を撮影なんかに呼んで」


「彼、こう見えても冒険者なんです」


「どうせ低ランクの仕事をセコセコやってる程度でしょ? 別に同行してもいいけど、オトメちゃんや俺たちの足引っ張らないようにね。あと間違っても死ぬなよ、配信の邪魔になるから」


「ナオヤさん、そんな言い方しなくても……」


 好き放題言われている。

 如月が間に入っても発言は止まらない。


「俺はオトメちゃんのために言ってんだよ? オトメちゃんも嫌でしょ。素人に自分の配信が汚されたら」


「だからって何言っても良いわけじゃ……!」


 食ってかかろうとする如月の肩を俺は掴む。


「すんません、素人が入っちゃって。なるべく足引っ張らないようにするんで、よろしくお願いします」


「守森屋くん……」


「ふん。言っとくけど、オトメちゃんに手出しでもしたら俺がボコボコにしてやるからな」


「はは、気をつけます」


「オトメちゃん、打ち合わせあるからこっち来て」


「は、はい。……ごめんね、守森屋くん」


「気にしてねぇよ」


 歩き去るナオヤと如月に俺が適当な愛想笑いを浮かべていると、背中の九鬼が歯を剥き出しにした。


「雑魚が儂のアキヒトを舐め腐りおって。捻り潰してやろうか」


「落ち着けって。別に俺は気にしてねぇよ」


「お主はもうちょっと怒ったらどうじゃ!」


「俺が怒ったら如月に迷惑かけんだろ」


 如月も仕事だろうし、俺が下手に揉めたら立場を追われるのは如月だ。

 しかし納得できないのか、九鬼はぷりぷりしていた。

 俺のかわりに怒ってくれているらしい。


「ありがとな、九鬼。怒ってくれて」


「儂は自分の所有物がけなされるのが嫌いなだけじゃ」


「……俺、別にお前の所有物じゃねぇけどな」


 九鬼と話していると、ナオヤが人混みの中心でひらひらと手を上げた。


「みんなぁ、今日は集まってくれてありがとう。これから第二層目指して配信つけるんで、安全第一で行きまっしょい!」


 その言葉にパチリパチリとまばらな拍手が上がる。

 微妙に滑ってて統率が取れてないな。

 深い校友があるのかと思ったが、どうもそうではないらしい。

 如月の顔も微妙に強張っている。


「本当に大丈夫なのかのぅ?」


 俺の不安を代弁するように、九鬼がポソリと呟いた。


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