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第10話 初任務

 数日後。

 如月オトメの指導の元、俺たちはEDGEのサイトで冒険者登録を済ませた。


 ダンジョンに向かう前に引き受ける依頼を如月オトメと吟味する。

 位置情報を加味し、近くで受けられる依頼を表示してくれる仕組みらしい。

 思った以上に技術が発展している。


「いい? 仕事は失せ物探しとか人の捜索とかあるけど、間違っても人命救助や討伐依頼なんて受けないようにね」


「何でだ?」


「危険だからに決まってるでしょ! 特にランクの高い依頼なんて受けようものなら、高確率で危険な魔物が絡んでくるのよ!」


「それって報酬はどうなんだ?」


「もちろん報酬は良いけど……大体の人は見て見ぬフリするものなのよ」


「なるほどな」


 俺はチラリと九鬼を見る。

 九鬼も俺の方を見ていた。


「儂に任せろ」


 ◯


「何で魔物の討伐依頼なんて受けるのよ!」


 ダンジョンの通路に如月オトメの叫び声が響く。

 あまりにもうるさいので思わず耳を塞いだ。

 ちなみに今日は動画撮影のみで配信はしないらしい。


「いや、九鬼が行けるって言うからさ……」


「しかもこの討伐対象の魔物、最近配信者界隈で危険視されてたやつじゃない! すっごい大蛇で、こいつの巣に近づいた冒険者が何人か行方不明になってんのよ!」


「だから討伐すんだろ?」


「バカバカ! そんな気楽なものじゃないわよ!」


 騒ぎ倒す如月オトメに「情けないのう」と九鬼が鼻で笑った。


「そんなに怖いなら帰ればよいではないか。もっとも、帰れば儂の勇姿を撮ることは不可能じゃがなぁ?」


「くっ……! 誰が怖いもんですか! こちとらダンジョン配信で飯食ってるのよ! この動画でジャブを打って、話題性高めたら生配信に出てもらうから!」


「そのプロ根性だけは感心するよ……」


 ちなみにダンジョンへ潜るゲートは自宅から数駅ほど行った場所を使った。

 この近辺の冒険者たちは皆ここからダンジョンへと潜っているそうだ。

 ダンジョンの入口はかなりあるが、基本的にはEDGEの管理下にある場所を使うのが良いらしい。


 まだ如月オトメがどれほど信用できるかわからないため、俺の自宅にゲートがあるという話や、九鬼が魔物であるという話は明かしていない。

 そのため如月オトメの認識では、九鬼は珍妙なコスプレをして妙なキャラを演じるちょっと痛い女ということになっている。

 都合が良いので特に訂正はしていない。


 如月オトメはさっきからキョロキョロと周囲を警戒している。

 俺も不安がないわけではない。

 九鬼の言葉を信じていきなり中堅どころの依頼を受けたわけだが、その分危険度が高いのは確かだ。


 本来ならコハルのことを考えるとあまり危険な依頼は受けるべきではないのかもしれない。

 ただ、今後小さな仕事をちまちまと受けていくのか、大きな仕事で一気に稼ぐのか。

 方向性を見定めるためにも、俺は敢えて危険な依頼を受けることにしたのだ。

 ちなみに今回受けた依頼の等級はCランクだった。


「この依頼一つで五十万の報酬か……。それなりに稼ぎある会社員が一ヶ月働いて稼ぐ額だよな」


「それだけ危険ってことなのよ」


「ちなみに如月は今までどのランク帯の依頼を受けてきたんだ?」


「私は別に依頼は受けないわ。配信しながら新しい場所をリスナーに紹介していくのが私の配信スタイルだから」


 ダンジョンは世界各地に存在し、それぞれがかなり奥深くまで続いているらしい。

 俺たちが今いるのは第一層だが、その第一層ですら無数の広さがあり、現在全体の十~二十%程度しか調べが進んでいないのが現状だという。

 冒険者の数は日本だけでも二十万人以上の登録があるというが、第二層まで辿り着くことすら稀だそうだ。


 これだけダンジョンの仕事に大して羽振りがよいのは、危険だからという理由だけではないだろう。

 ダンジョンの探索は金になる。

 そう判断されているからこそ、政府だけでなく企業からも出資されていたりするのだ。

 事実、冒険者向けの道具武器や防具を開発している企業も増えているという。


「そうそう、それから魔物討伐系の依頼には注意点があって――」


 如月オトメが話そうとすると、前方を歩いていた九鬼がピタリと足を止めた。


「ここじゃ、依頼にあった大蛇が出現する場所は」


 ダンジョンの内部は広い地下通路と無機質なコンクリート製の部屋で構成されている。

 問題の大蛇はこの周辺の通路や部屋を行き来しているらしい。


「小賢しい。儂らの様子を伺っておるわ」


「見えるのか?」


「暗闇に潜んでおる」


 ダンジョンは蛍光灯に照らされているが、正直言うとかなり薄暗い。

 通路奥になると先が見えないことも珍しくなかった。

 どうやら件の大蛇は、奥の通路からこちらを見ているらしい。


「儂に逆らうとどうなるか見せてやろう」


 九鬼は舌舐めずりすると巨大な九尾の狐へと姿を変化させる。

 その途端、奥の通路から見たこともないような大蛇が姿を現す。

 アマゾンにいるアナコンダよりもずっと巨大な蛇だった。

 人間の数人くらい、簡単に飲み込めてしまうほどの。


 蛇は牙をむき出しにして距離を詰めてくる。

 しかし九鬼の方が動くのが早かった。


「雑魚が誰に牙を向けておる! 儂の前で踊るが良い!」


 九鬼の九尾より放たれる凄まじい魔法。

 それは常識を凌駕する規模の魔法で、室内に大きく広がった。

 隣で素早く如月オトメがスマホを構える。


 九鬼の尻尾から炎が踊り、紫電が走る。

 九鬼の尾より放たれた電は大蛇を痺れさせ、炎龍はあっという間にその体を焼き尽くした。

 それでも暴れる相手の頭部を、九鬼の頑丈な牙が穿つ。


 抵抗するように振り回されていた大蛇の体は、九鬼の尻尾から放たれた風の刃でバラバラにされ、絶命した。


 それは、わずか数分の出来事だった。


「うそ……」


 如月オトメがスマホを構えたまま、唖然とした表情を浮かべる。

 一仕事終えた九鬼は、何事も無かったかのように女性の姿となり、こちらに戻って来た。


「こんなもんじゃろう、儂の手にかかれば楽勝じゃ」


「お疲れ。ありがとうな、九鬼」


「もっと褒めよ」


 コン、と九鬼と拳をぶつける。

 如月オトメだけが、何が起こったのか理解できないでいるようだった。


「だってあの魔物、かなり危険だってネットニュースで記事になってたくらいなのに……」


「あのような雑魚に儂が苦戦するはずなかろう。儂は九鬼ぞ?」


 すると如月オトメはハッとして俺の服を引っ張った。


「っていうかあんた、早く撮影! 魔物の死体撮って!」


「あっ? 何でだ?」


「ダンジョンで魔物は死んだら灰になって消えるの! 消えたら討伐証明できないでしょ!」


「あ、なるほど……」


 確かに口頭報告で報酬が支払われるとしたらいくらでも悪事を働けそうだ。

 それなりに物的証拠が必要らしい。

 魔物が消えるとなれば、あと証拠として提示できるのは映像や写真くらいのものだ。


 俺がスマホのカメラを起動させようとモタついていると、いつの間にか大蛇の死体は灰となって消えてしまっていた。


「もしかしてこれって……」


「チョンボね。討伐はできても証拠がないから」


「マジかよ……」


 思った以上に簡単に稼げると思っていたのに。

 もっと前もってダンジョンでの心得を聞いておくべきだった。

 先ほど如月オトメが話そうとしていた『注意点』とは、まさしくこのことを言うつもりだったのだろう。


「私がいつも配信してる理由、何となく分かるでしょ? 配信は最も効率の良い自分の行動の証明なのよ。この前は変なのに絡まれたけど、本来は意図せず手配された魔物を狩ったり、アーティファクトを手にした時に自分に所有件があることを証明する手立てになるの」


「なるほどな」


「ひょっとして儂、タダ働き?」


「今回は私が動画用に撮影してたのがあるから、それ上げるわよ」


「マジかよ!」


「流石じゃのう!」


 三人で如月オトメの撮影した動画を見る。

 しかしながら映像はぶれまくっており、幾重にもエフェクトをかけたような状態でまともに見れたものではなかった。

 何が映っているのかすらよくわからない。


「全然撮れてねーじゃねぇか」


「どうして?」


 そこで九鬼が「あっ」と声を出す。


「そう言えば儂、カメラに体が映らぬよう呪いをまとっておったんじゃった……」


 撮影されないと言ってたのはそれが理由か。

 すると「何してくれてんのよ!」と如月オトメが九鬼に迫った。


「何で撮影妨害してんのよ!」


「しかたないじゃろ! 儂の勇姿をタダで映そうなどと虫が良すぎるわ!」


「そういう約束でしょ!」


「何おう!」


「何よ!」


 俺はそっとため息を吐く。

 こうして初めての依頼は失敗に終わった。

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