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ダンジョンは猫にやさしい

掲載日:2025/12/25



 ある日、ふと前世が人だったことを思い出す。といってもそれで何か変わることがあるというわけでもない。


 今の生活には十分満足しているからだ。


 今の自分は一匹の子猫。人から猫に転生したことを思い出しても些細なことだった。




 とある日。目覚めると安全な寝床から顔を出し、近くの水場へ向かう。


 小さな池のような場所で水を飲む。水面に映る自分の姿はまごうことなき子猫だ。


 喉の渇きを潤すと次は食事だ。


 池の近くにある木に登る。猫だからか子猫でもスルスルと登ることができる。


 登った木にはリンゴのような果実が実っており、その内の1個を猫パンチで落とす。


 地面に落ちたリンゴを早速食べる。瑞々しい新鮮なリンゴはとても美味しい。


 1個丸々完食する。お腹が膨れ満足すると食後の運動に近くを散策する。


 池の回りは木々が生い茂っており、草木の匂いが心地良い。


 周りには自分以外の生き物はおらず、この素敵な空間を独占している優越感にしばし浸る。



 日当たりの良いお気に入りの場所に向かうとゴロリと寝転がる。


 そしてウトウトとうたた寝をはじめる。



 空腹で目が覚め、食事をするために移動する。


 先程の池とは反対方向へ向かうと小さな小川が見えてくる。


 小さな小川の浅瀬に入ると小さなカニを見つける。


 そのまま頭を突っ込み、カニをまるかじりする。


 ボリボリとカニを食べる。カニは生臭く無くうまみたっぷりでとても美味しい。


 その後数匹のカニを食べ満足すると寝床へと向かう。



 岩壁の少し削れた空間が子猫の寝床だ。


 穴の大きさは子猫がすっぽりと入るくらいの大きさで、まるで自分のために用意されたかと思うくらい居心地が良かった。


 ふかふかのコケに寝転がるとそのままスヤスヤと眠りにつく。


 こうして子猫の1日が終わる。





 天敵がおらず、寝る場所や食べ物にも困らないここでの暮らしは子猫にとって天国のような場所だった。


 ここがダンジョンの中であるということを除けば。



 子猫は天涯孤独となり彷徨っていたところ、このダンジョンにたどり着いた。


 人だった頃の記憶ではダンジョンは危険な場所だったはずだが、どうやらダンジョンは猫にとっては安全な場所だったらしい。


 子猫が過ごすこのダンジョンではモンスターに遭遇することもなく、過酷な環境もない。


 地上と遜色なく、いやそれ以上に快適に過ごせる場所だった。


 正直ここでの生活は人だった頃の過酷な冒険者時代よりも快適で、心から猫に転生してよかったと思ったほどだ。


 きっとこれは神様からのご褒美に違いない。


 そうとわかればこのまま自由気ままな猫ライフを満喫しよう。


 そうして今日も子猫は自由気ままに過ごすのであった。













 そんな子猫の様子は遠くの場所から見つめる2つの目。


 子猫はそれに気づくことはなかった…。











 ???


「ふむ、今日も息災そうで何より」


 ここは子猫のいるダンジョンの最下層。


 巨大な洞窟の奥深くにある大きな空間。


 そこはこのダンジョンの主の居城だ。


 その中央では漆黒の巨大なドラゴンが小さな水晶を覗き込んでいた。


 水晶には子猫の様子が映し出されていた。






 ある日このダンジョンに迷い込んだ1匹の小さき獣。


 その獣はとても弱々しく、とてもこのダンジョンでは生き残ることができないだろう。


 このまま放っておいても良かったが久しぶりの来客だ。あっさり死んでしまってもつまらない。


 ドラゴンは気まぐれにこの小さき獣がダンジョンで過ごせるように手を加えることにした。



 現在、子猫が暮らす階層は元々高ランクの魔物が跋扈する危険極まりない場所であったが、ダンジョンの主であるドラゴンの手によりほのぼのとした平和な空間と変貌していた。


 この階層には一部の魔物を残すのみで、子猫に仇なす者は存在しない。


 そしてその一部の魔物とは子猫を遠くから見つめる視線の正体でもあった。


 子猫が気ままに過ごす様子を暇つぶしに見ることにしたドラゴンは配下であるピクシードラゴンに監視を命じ、こうして水晶でその様子を眺めていた。



 このダンジョンはもう長いこと人が訪れることがなくなり変化のない日々を過ごしていた。


 しかし子猫の様子を見ていたドラゴンの心境に変化が訪れる。


 自分以外の生き物は無価値だと思っていたドラゴンだったが、子猫のおかげかピクシードラゴンをはじめとする配下の魔物たちに対する接し方が軟化していた。



 現在このダンジョンの方針は子猫の安全第一を目標に掲げられていた。


 自分たちへの当たりが柔らかくなったので、配下の魔物たちもこの方針には賛成だった。


 もし仮に今ダンジョンに侵入者が現れようものなら瞬く間に排除されることだろう。


 しかしそのようなことは万に一つもないだろう。



 なぜならこのダンジョンは決して踏み入れてはならない禁足地に指定されている超難関ダンジョンであるからだ。





「にゃあ~」


 あくびをする子猫。


 そんな裏事情を知らない子猫は今日も気ままに過ごすのであった。




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