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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

あの日はまたいつか、君の中に。

掲載日:2025/12/23

いらっしゃいませ。

やわらかな、薄く色づいた君の頬に手を当てる。


君は、ゆっくりと微笑んで………拒んだ。




「いやー、ようやく片付け終わったねぇ…」

「疲れたー…」


最後のダンボールを物置に移動し、ボテっと地面に座りこむ。


疲れのあまりもう反応する気力も起きなかった。


「…あ、でもこの後打ち上げでしょ?」

「…そうやね」


半ば反射のように会話をしながら、目を閉じる。


うっすらと瞼を通して見える明かりをも拒絶するかのように目を強く閉じた。


明るい世界など、見たくないような気がしてしまったのだった。


「……はぁ…」


目を開けて、小さくため息を漏らす。


文化祭の片付けに疲れたのか、はたまた文化祭に疲れたのか、もう定かではない疲労感を全身で味わいながら、ぼんやりと窓の外に傾いた陽を見ていた。


「…なぁ、なんかいい女知らん?」


無神経そうな喋り方で話しかけてくる隣の男子は、俺の親友で、幼馴染の、三島だ。

一応幼稚園からの付き合いだが、性格と容姿はまるで違う。

授業でDNAの塩基には相補性があるんだかなんだか言っていたが、まあそんなものなのだろうか。

なぜか上手くいっているのだ。


そんでもって、こいつは容姿がいい。とにかくいい。まあそりゃアイドルに比べりゃ劣るかもしれないが、学校に1人いるかいないか程度の逸材であることは悔しいが認めざるを得ない。

そしてまあある種の偏見だが、俺は容姿のいい奴は女癖が悪いと思っている。それもこいつのせいかもしれないが。ともかくやはりこいつも例外ではなくもちろん気になった女子に片っ端から声をかけている。その後振られたのかどうかなどは知らないが、まあどうせ一定のところまでは行っているのだろう。


「……知るわけないだろ、お前がほとんど当たってるんだからさ…、それに知っててもお前にゃ教えねぇよ」


「おいおい酷いこと言うなこりゃ、まあご親友様が不機嫌になるのも嫌なんでね?今夜はなんか奢ってやりますか!」


おどけた口調で軽口を叩いているが、もう慣れっこだ。


「まだお前に奢られるほど落ちぶれちゃあいねーよ」

「おいっ!」


笑いながらツッコんでくる三島の目は、なんだか楽しそうに見えた。


……それに比べて、自分は憂鬱だった。


つい二時間ほど前のことであった。


俺は、自分のもう一人の幼馴染…もとい想い人と共に文化祭を回っていた。

とても楽しかったし、幸福の極みだった。勇気を出して誘った甲斐があったってものだ。


いつも愛想が良くて、勉強もできて、可愛くて。

さらには自分の幼馴染だとまで来てしまえば、どうやって好意を抱かないでいられるというのだろうか?とさえ思っていた。


部活の屋台の焼き鳥を食べて、メイドカフェに寄って、縁日で射撃をして…

まさに「文化祭」といえばを満喫したのだった。


が、文化祭はもちろんそれだけでは終わらない。


ムードも最高潮に達したとき、年頃の男女が一緒にいるのだ、何も起きない方が不自然だと言えるだろう。


自分も例外なくその波に乗っていた。


もはや振動でバラバラになってしまうのではないかと思ってしまうほどにバクバクと激しく鼓動する心臓を必死に宥めながら、言葉を紡ごうとする。

喉まで出かかって、戻る。口まで出かかって、戻る。


「……あ、あのさっ…」


「…ん?どうしたの?」


「……ちょっ、ちょっと付いてきて」


「…あ、うん、わかった」


人気のない校舎の影に移動する。

足を止めて、ゆっくりと振り向く。

そこに、想い人が、少しだけ頬を上気させて、固い表情で立っている。

真っ白で、混沌とした頭の中に浮かぶいくつかの単語を必死に繋ぎ合わせ、たどたどしく言葉にする。


「………あ、あのっ!」


「………」


「……お、ぼ、僕と、とっ、つ、付き合ってくださいっ…!」


もはや自分が何を言っているか、どんな行動をしているのかすら分からないままに頭を下げる。


「…………」


だが、しばらく待っても、返答はない。


「…………」


徐々に焦りという感情が出てき始めた。


「………ごめん」


「………ぁ」


一瞬にして頭の中が黒と赤に染まっていく。


「…………本当は…嬉しいはずなんだけど…」


その言葉の意味がわからなかったが、顔を上げる勇気も出ない。


「…………て、ていうか、本当はこういうことを期待して、たんだけど…」


「………その……あの………えっと………うーん……」


声が徐々に小さく、弱々しくなっていく。


「…………なんでかはわからないけど、やっぱり…無理かも…」


突然の拒絶宣言に背筋が凍る。


「…あっ、べっ、別に!き、嫌いっ……ってわけじゃないんだけど……っ、そっ…そのっ!」


慌てて訂正をしようとする声を頭上に聞きながら、心は音を立てて崩れ落ちていた。


「……なんかっ……彼氏……っていうのが…っ……しっくりこない………から……」


恋愛対象として見れない、友達でいたい。そんな理由は本当に幾度となく世の中の作品の中で見てきた。

特に今更驚くほど珍しい理由でもない。

だが、その時にそんな悠長に考えるほどの頭は残っていなかった。


「………あ…」


気の抜けた声ともいえないような音が漏れる。


「……ごめんっ……!」


そして、彼女はその言葉と共に走り去ってしまったのだった。




「……はぁっ…………」


打ち上げも終わり、皆が余韻を楽しんでいる中、どうしても気分を上げられずため息をつく。


すると、突然後ろから叩かれた。


「?!」


振り返るとそこにはニヤニヤとして何か言いたげな三島がいた。


「……お前、さては振られたな?」


「!!」


図星だった。なんという観察力か。反射的に言い返そうとするが、口をついたのはため息だけだった。


「……ま、そんなに落ち込むなよ、な、帰り、同じなんだからよ」


しばらくして見ながらパラパラと帰り始めた。


自分含めた幼馴染3人は駅に向かう。


ポケットから交通系ICカードを取り出し、読み取り機にかざす。


ピッ、と単調な音がなり、改札が開く。


皆がエスカレーターを降りるまで、誰も一言も発さなかった。


「……ごめん」


エスカレーターを降り、並んでいる時だった。


瞬間、身体中を悲しみが駆け巡った。


「…………い、いや、大丈夫、だ……よ……っ……」


必死に体裁を保とうとするが、堪えきれない。


その時、接近メロディーが流れた。


若干くぐもったような声のアナウンスを聞きながら、涙を拭う。


ちゃんと、感謝を伝えなきゃ、受け入れようとしてくれたことに感謝をしなくては、と思った。


でも、ちゃんと直視できなかった。


この時、三人の誰もが、うるさいスピーカーの音と、自身の心と向き合うので精一杯だった。


右往左往している心にどうにか見切りをつけて、彼女に向き直り、口を開こうとした瞬間だった。


突然、男が横から突っ込んできたのだ。


「…?!」


男はそのまま彼女に突進し、半ば突き飛ばすような形でホームから飛び降りた。


咄嗟に手を伸ばすが、間に合わない。


瞬間、時間の流れが一気に粘性を持ったように感じられた。


遠ざかってゆく、一番愛しくて、一番大切な人。

今まで、ずっと一緒にいて、当たり前のような存在と化していた、彼女が。


遠ざかっていった。


プァァァァァァァン


列車の大きな汽笛が響く。




そこからはもう覚えていない。


次に目が覚めたのは病院のベッドの上だった。


目が覚めて、隣にいる、母さんの顔が目に入った瞬間、涙がぼろぼろと流れた。

訳もわからぬ悲しさに、泣いた。




後になってわかった話だが、あの男は会社をクビになり、人生に絶望して自殺をしようとしたらしい。

だが、男は直前まで普通にホーム上に立っており、彼女を巻き込んで飛び降りたのは故意であるとされた。

警察の人の言うことには、おおよそ一人で死ぬのは嫌だったのだろう、ということだった。


その話を聞いた瞬間、一瞬にして怒りが沸点を越した。今にも誰かを殺してしまいそうなほどに、怒りが湧いた。

なんで、なんで、罪もない、いや、むしろ善行を重ねすぎているといってもいい、あいつが。

世の中の不条理に、いや、その男の理不尽な殺人に、怒りが止まらなかった。

…でも、その怒りの相手も死んでしまった。

どこにぶつけていいのかわからない怒りと悲しみを心の内側に必死に押し込めながら、ベッドの中でぼんやりとしていた時のことだった。


ふと、あの時のことを思い出した。


……あの時、俺が、ちゃんとあいつを直視していれば、護ってあげられたんじゃないか。


そんな、非合理的な考えが頭をもたげた。


激しい後悔に苛まれ、同時に今まで溜まっていた感情の吐き出し口ができたことで、もはやまともな判断などできない。


もう人生になんの希望も、喜びも、見出せる気がしなかった。




ある夜中のことだ。


巡回の看護師にバレないようにこっそりと病室を抜け出し、屋上に向かった。


屋上のドアに手を掛け、回すが、鍵がかかっているようで開かない。


諦めて病室に戻ろうとしたとき、カチャッと音がした。

驚いて振り返り、ダメで元々でドアを押すと、ギギィ、と軋みながら開いた。


誰が鍵を開けたのだろうか?


疑問符をふわふわと頭に浮かべながら何かに引きずられるように屋上の網を登る。


最後には息も切れ切れになって、斜めになっている網の上に座り込む。


「………またいつか……会える……かな………っ………その時…は……許してくれ………」


泣きながらそう呟き、ゆっくりと立ち上がって、前に跳んだ。


その瞬間だった。


「……もちろんだよ…っ」


声が聞こえた。


あぁ、そうか。あちらに行けばもう一度君に会えるのか。


バタバタと衣服がはためく。


徐々に近づく地面と、遠のく意識の中で、最期に聞こえたのは。


「…好きだよ」


…かなり重い作品になってしまいました。


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