桜の裏側
家でゴロゴロしていると
突然のアイツからのメール。
内容は
『話があるんだけど
今大丈夫?』
いつものようなメールではなく
どこか深刻そうだった。
俺はすぐに返信をして
アイツと会うことにした。
場所は今の時期
桜がきれいに咲いている
人気のない近所の公園。
どちらの家からも近く
俺はすぐにその場所に向かった。
そこで会ったアイツは
何時もと違っていた
「ねぇ」
しばらくの沈黙の後
口を開いたのはアイツだった。
「どうした?急に?」
俺は素知らぬ振りをしてアイツに尋ねた。
必死に冷静を装ったが少し声が震えた。
だがアイツはそんな俺の様子に気づかなかった。
まさか。
嫌な予感がする。
最近アイツはどこか余所余所しかった。
俺と一緒にいるのに
その瞳は俺を映していなかった。
「あのね」
聞きたいような聞きたくないような
そんな気分だった。
よせ、単なる俺の杞憂だ。
ひやり。と冷や汗が一滴流れた。
「私と別れてください」
「は?!」
杞憂は当たってしまった。
嘘だ。誰か嘘だと言ってくれ。
「だから、私と別れてください」
もう一度言ったアイツの言葉は
俺の胸に酷く圧し掛かった。
「ごめんなさい」
「何でだよ……」
「好きな人ができたの」
あぁ俺じゃアイツを幸せにすることが出来ないのか。
胸が酷く軋んだ。
「そうかよ……。そう言うんなら仕方ねぇな……」
俺はどうしようもなく餓鬼で
「幸せになれよ」なんて気がきいた言葉なんて言えなかった。
「ばいばい」
そう言ってアイツは
俺に背を向けて歩き出した。
誰か。
これは悪い夢だと言ってくれ。
きっと目が覚めたら
いつもと変わらない日々で
アイツは俺の隣で笑っているんだって。
そう思ったら駄目か?
俺がただ茫然と立っていると
アイツはこっちに振り返った。
「早く自分の気持ちに気づいて下さい」
は?
何を言っているんだ?
アイツの顔が微かに哀しそうに歪んだが
すぐに踵を返してしまった。
「貴方が、好きです」
ぽつり。と聞こえたその言葉は
間違いではないのだろうか?
なぁ勘違いだと思ってもいいか?
俺たちはただすれ違ってしまっただけだと思っていいか?
俺にアイツを引き留める権利はあるのか?
このままでは終わらせたくなくて
俺は走り出した。
アイツに追いつくと
アイツは涙を流しながら驚いていた。
「なぁ、お前がまだ俺の事好きだって自惚れてもいいか?」
アイツの涙は止まっていた。
「俺はお前の事好きなんだ。諦めきれねぇよ」
するとアイツは俺に縋るように
また泣きだした。
「ごめん」と「好き」を何度も繰り返しながら……。
やっぱりお互いがすれ違っていただけだと知ったのは
アイツが泣きやんでから数分後の事だった。