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冷たい  作者: 猫小路葵
4/4

エピローグ 冷気

【ホラー×BL】最終話

「先輩、おはようございます!」


 ある朝、出勤途中の道で山内に声を掛けられた。


「おー、山内。おはよ」


 振り返った貴弘に、山内の無邪気な笑顔が一瞬、戸惑ったように一時停止した。


「……なに、どした?」

 怪訝そうにたずねた貴弘に、山内は「先輩、体調悪いっすか?」と聞いてきた。

 そうでもなかった貴弘は、「べつに、なんともないけど」と笑って答えた。

「ならいいんですけど……先輩って、そんなに色白でしたっけ?」

 今まで色白な印象なんてなかったんだけどな、と山内は続けた。

「だから、体調悪いんかなって思って……」

 山内の指摘に、貴弘は自分の顔を触って嘆いてみせた。

「仕事ばっかで全然遊びに行ってねぇからなー」

「なんか影まで薄い気がするんですけど……」

 そう言って山内は、アスファルトに落ちた二人の影を見比べた。

「んなわけねーじゃん」

 ハハハと笑って、貴弘は山内の背をポンと叩いた。


 体調の話題はそこで一旦終了したが、山内は「でも俺、思うんですけど」と別のことで貴弘の変化を口にした。

「先輩、顔つきがすごく優しくなりましたよね」

 貴弘が山内を見た。

 冗談かと思ったが、そうでもなさそうだ。

「なんだそれ」

「柔和、っていうか」

「もともと柔和だろ、俺は」

 えー、と山内は笑った。

「先輩はなんていうか、前はどっか尖って見えたりもしたんですけど……今はすごく優しい顔してますよ」

「そうかあ?」

「ね、ね、先輩、なんかいいことありました?」

 コレとか?

 と、山内は意味ありげに小指を立てて、貴弘の顔の前に持ってきた。

「……なんもねえよ」

 茶化す後輩に貴弘は、「その小指やめろ」と払う真似をした。

 山内はチャームポイントの大きな口でニカッと笑って、「うっそだあ」と食い下がった。

 子犬のように貴弘にじゃれついて、「だってだって」と甘えるように顔を覗き込む。

「だって今、一瞬間があいたもん! ぜーったい、なんかあるッ!」


 教えてくださいよ、ねえ先輩ッ――

 そう言って山内が、貴弘に触れようとしたときだった。


「痛っ!」


 後輩の大声に驚いて貴弘が見ると、山内が自分の手のひらを押さえて立ち尽くしていた。

 貴弘に触れようと伸ばした方の手を、もう一方の手で押さえていた。

「どした、山内?」

 貴弘がきょとんとして尋ねると、山内は手を押さえたまま答えた。

「や……なんか……わかんないっすけど……」

「ぼーっとしてないで行くぞ、山内」

 貴弘が、さっさと前を歩き出した。

「はい……」

 山内もそのあとを追った。


 押さえていた方の手を、山内がそっと外して見た。

 さっき貴弘に触れようとした手のひらが、鋭利な刃でやられたように切れていた。

 切れている事実に、山内の皮膚は今ようやく気づいたかのように、裂け目から赤い血がゆっくりと盛り上がってきた。

 朝の外気に触れた血は、山内の手のひらでひやりと冷たい感触を伴って、とろりと凝固し始めた。




 【終】

最後まで読んでくださってありがとうございます。

読後にひんやりした気持ちを持ち帰っていただけましたら幸いです。

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