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戦闘神機 ―After War Chronicle―  作者: 霧屋堂
新しき時代の風
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第8話 因縁

 夕日が沈んでいくうちに差し込んできた光がブリッジ内が赤く染める。そのうち暗くなって電気が点灯すると、窓の外に星が輝き始め月が昇って夜になる。その間も相変わらずキャリアーは砂漠を真っ直ぐに突き進んでいた。

 自分はメインブリッジで外の月を眺めながら、黒い神機との戦いを思い出していた。

 死を覚悟するほどの戦いの中で色々気になることがあった。特に最後にパイロットがノアの名前を出していた事が1番脳裏に引っかかる。

 姿は見ていないが相手の声色は青年そのものだ。ただノイズ混じりだったこともあって正確に判断した訳では無い。けれど少なくともノアのような中年の声には聞こえなかった。一体どう言う関係なのだろう。

「難しい顔してるな、考え事か?」

 そんな事を考えていると、ちょうどよくノアが声をかけてきた。

 一瞬迷いはしたが、疑問を解決するには今しかないと思い口を開く。

「はい、あの黒い神機が気になって……ノアさんなら何か知っているかな、と」

 その質問を聞いたノアの表情に一瞬の躊躇いが生じる。しかしそれを押し殺すように口を開く。

「あの機体はククルカンと同じGA型神機……『GAM-013-A:Tezcatlipoca』という」

 テスカトリポカというのか、あの機体は。型式番号がほとんどククルカンと同じだ。

「片腕がなかったのは?」

「さぁな、少なくとも帝国軍から脱走した頃は五体満足だったはずだがな」

「へぇ帝国軍から……って、ええっ!? 帝国軍!?」

 驚きから思わず立ち上がって素っ頓狂な声を出す。しかしメインブリッジ内の空気は特に変わっていない。「いつも通り」とでも言うような空気だ。

「そうだぞ。お前さんあのトラロックを初期型だって見抜いてたろ? だからとっくに気づいてるもんだと思ってたが」

 名前や狙撃の手腕、緊急時に見せる表情から歴戦の軍人だとは思っていた。しかしいざ本人に肯定されると言葉に詰まる。

「いやぁ……想像はしてたんですが、まさかそんなとは」

「まぁ言う気にもならんからな、統一戦争が終わってからあそこはクソに成り果てた。だから脱走したのさ。検閲で外部に情報は出てないがね」

 ノアがそう吐き捨てる。忌々しいものに唾を吐くようにその声色は苦々しい。

 脱走兵はそれだけでも相当な重罪だが、兵器持ち出しとなれば即刻死刑もの、と聞いた事がある。なんとも旅団の長にふさわしいアンダーグラウンドな経歴だ。

「と、いうことはパイロットにも心当たりが……?」

「……そいつが死んでなきゃだがの話だ、まだ確信は持てない」

 そう呟いてノアは黙ってしまう。タブーに触れてしまったのか?

「その、もしその心当たりがある人だったらどう思うんです?」

「もし本当にそれが俺の知り合いだったら……あまり嬉しくはないな」

「それはどうして……」

「そうだとするなら、あいつが戦争から抜け出せていないという事だからな……」

 鉛のように重いため息と共にそう零すと、また黙り込んでしまう。その表情からは苦しみのような、悲しみのような、そんな過去に対する何かを感じさせる。

 思い返せばあのトシのパイロットも戦争について口にしていた。自分が生まれてから3年後に終結した統一戦争、おそらくテスカトリポカのパイロットも、ノアも、それを経験していてそれぞれがそれに思うところがあるのだろう。少なくとも、それがいいものだったようには自分には思えなかった。


「おいウィッシュ、着いたぞ」

「はい……はい?」

 考え込んでいるうちにいつの間にか寝ていたらしい。窓の外はすっかり砂漠特有の晴天が拡がっている。

「バイクを直したいんだろう? 少なくとも今日は滞在するから今のうちに行ってこい」

「は、はい!」

 椅子で眠ったせいで少し凝り固まった身体を解しつつ、ゆっくりとメインブリッジから出てエレベーターに乗り込む。

「何買おうかな?」

 バイクのカウルとエンジン部分の補修材をそれぞれ補給しておくのと、防御機構をつけるならどうしようかと考える。

 緊急時には閉じてあらゆる危険からエンジン部を守る機構が欲しい。あとは自分の身を守れるようにカバーを展開出来ればより安全だ。自動と手動両方に対応させる為の簡単なプログラムも組もう。

 頭の中で設計図を描きながら改造案を考えているとそれなりに大きな音量で腹が鳴る。

「……ご飯も買うか」

 旅団の滞在位置が南の方だからカレーを始めとしたスパイス系の料理があるかもしれない。なんにせよ初めて訪れる場所はいつだって楽しみだ。

 エレベーターをおりて出口へと向かう。既に外からは大勢の人の声が聞こえてきて活気づくバザールの様子を想起させる。

 ドアが開くと鼻腔に漂う鉄錆と機械油の匂い。鍛治の槌が振るわれる音、機械部品を売る店の甲高い宣伝文句、何かのエンジンが唸りながら発する低い機械音……食が主体であるブルーバードとは違う機械を中心にしたバザールだ。故郷の工房に入った時の雰囲気を思い出させる。思わずスキップしながらその中へと入っていく。


 カウルとエンジンの補修材を買い漁り、改造の為の素材探しをするべく色んな店を回る。

 既に3000sandllも使ってしまったので所持金は潤沢と言えど割と痛い出費だ。何故かバッジを見られた途端に値引きされたのでこれでも安く済んだ方のようだが。

 ひとつの店の棚を見る。どうやらある程度組み上がっている機械部品の叩き売りをしているらしい、どれもこれも完成度が高い。

「いらっしゃい。今なら5個買いで800sandll、10個なら1400sandllだよ」

 額にゴーグルをつけた店主が、顔だけをこちらに向けて売り文句を読みあげる。

「へえぇ、随分安いですね」

「整備した中古や発掘物を綺麗にしたやつも紛れてるからな、品質保証と等価交換ってところだ」

「発掘物?」

「この辺は元々戦場跡だ。終末兵器やら、神機やらの残骸が砂の下に埋まってるのさ」

 完成度が高いのも納得だ。物によっては中古には思えないくらいに綺麗なものがある。

「なるほど、面白そうですねそれ」

「まぁつまらなくはねぇな、一種のお零れだ。ただ危険とも隣り合わせでね。深追いしすぎて終末兵器の残した放射線で被曝する奴もいる」

「それは、治療は……?」

 店主は首を横に振る。

「フォンクォンか帝国にでも行けばできるだろうがな。ただ俺たちからすれば治療費は高い、それにグレガリアのせいで道中襲われる危険すらある。だから大抵は不幸な事故にあったやつは助からない、一時的に助かっても寝たきりで結局長くない」

 医療技術はもはや不死と死者の蘇生以外を叶えられるという程に発展しきり、もはや治せない病理は無い……とされている。それによって大抵の人間は健康寿命が100歳まである。

 だからこそ、それはあってはならない事のはずだ。

「それは……」

「それが旅団暮らしの日常だよ、そういうもんさ。特に俺たちみたいな屍から収益を受けてる奴にはそういった祟りがあったっておかしくはない。この砂漠の砂の下は、文字通り死が埋まってるんだよ」

 店主はそう言って、視線を砂漠の方へ向ける。 その横顔には、長年の旅団暮らしから来る覚悟のようなものがあった。

「そう……ですか」

「そういう反応をするって事は、兄さんは多分元々国暮らしだろ。嫌味じゃねぇけどアンタは恵まれてるよ、それを大事にした方が良い」

「……はい」

 当たり前の殻を破る。旅で得る知見はいつも通りの世界という色眼鏡を薄くしていく。

 叔父が『広い世界を見ろ』というのはそういうことなのかもしれない。

「悪いね。お客さんだってのにしみったれた話をして、買っていくかい?」

「ええ、少し選ばせてください」

 少し悩んでから状態の良さそうなムーバブルユニット6つと小型発信機を2つ購入して店を後にした。合計は1200sandllだった。


 そんなこんなで買い物を終えた後、食事を提供している店からチャイという飲み物とサモサと呼ばれるものを購入し、ようやくキャリアーへと戻る。

 自分の部屋に材料を置き、食事を取る。サモサはちょうどいいスパイスが効いており、じゃがいもと豆の味がとても琴線に触れた。チャイの方は自分にとってはちょっと甘すぎた。スパイスの風味は良かったがどうにも甘いのが苦手で少し飲むのに苦労した。


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