第10話 疾風のように
翌日の夜、月と星だけが照らす闇夜の中、光を極限まで抑えたキャリアーが突き進む。
『作戦開始地点まで30秒、ハッチを開けて昇降機を上げろ』
『了解。ハッチオープン、昇降機上昇開始』
一瞬の揺れの後、自分の乗るククルカンと、ケンプとアシマが乗るトシが上昇していく。
『残り10秒』
見えてくる静まり返った砂漠の景色は、風の音すら吸い込んでしまうように静まり返っている。
『作戦開始地点到達。先遣ククルカン、トシ、出撃許可!』
計器の表示がstanding byからtake offへと切り替わる。
『ケンプ・ミハエル。トシ、出る!』
『アシマ・ティタン。トシ、行くよ!』
「ククルカン、出ます!」
アクセルを全開にしてキャリアーから飛び立ち、目標へ目掛けて一直線に突き進む。
『ウィッシュ君が接触したタイミングでシープとゴートに合図が飛ぶ、そしたら本当に作戦開始だ』
「……はい!」
レーダーに目を落とす。表示されている作戦ポイントと、自分との距離が目にも止まらぬ速度で近くなっていく。
「見えた!」
砂漠の中に浮かぶ複数のモノ・アイの光を見つけ、少し速度を弱める。ざっと見ただけで相手の数は7はあるだろうか。
上空から近づいている為、彼らはまだ自分には気づいていない。
「目標発見しました」
『了解、作戦開始して!』
「はい!」
トリガーを押す。空中でククルカンの翼が折りたたまれながら、一本の大剣を形成する。
変形シークエンスの完了を確認してから、再度アクセルを全開にする。
虫のように蠢くトシの集団、そのうちの一機の背後に一瞬で迫る。
『おいジーン! 何か来てるぞ!』
いつものごとくオープンになっている通信。他の人に気づかれたらしいが、もはや気にする事はない。
『へっ?』
繰り出す一閃、相手に反応する隙すら与えず。その頭部を切り落とした。
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何もかもを包み隠す静寂に覆われた夜の砂漠で爆発が起こる。
「て、敵襲です! カゲト様、敵が来ています!」
「なんだァ? ここがクレガリアの若頭たる俺、カゲト・キリジの部隊だと知ってんのかァ!?」
大振りのアックスが特徴的な重装モデル、トシ・H型を駆る男。それがカゲトである。
「ど、どういたしますか!」
再び爆発、そして通信越しに聞こえる悲鳴。それによってカゲトの機嫌が怒髪天を衝く。
「北と南のヤツらに連絡入れろォ! そしたらさっさと死んでこいや!」
「は、はいッ!」
数秒の後、狼狽した声色で彼の部下が告げる。
「カゲト様……北と南の部隊も襲撃を受け、援護は挑めません……」
その瞬間、部下のトシのボディブロックに巨大なアックスがめり込む。
「な、ぜ?」
「よくも……よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもォ!」
爆発、それを背にしてカゲトは未だ見えぬ敵へと突進する。
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二機のトシの無力化を済ませると、背後の両脇から銃撃が飛んでくる。
『ねぇアシマ、俺たち要る? これ』
『ウィッシュ君がいくらすごいからって拗ねちゃダメだよケンプ、人数は多い方がいいんだから』
どうやら褒められてるらしい、遜色ない働きは出来ていると思っていいようだ。
『ほらほらよそ見しなーい、増援来るよ。そろそろカゲトも出てくるんじゃないかな?』
そう言っているうちに起こる爆発、無論誰も攻撃はしていないし後続の仲間もまだ来ていない。
「あれは……?」
『多分癇癪で一人始末されちゃったかな、アイツ短気だし』
「そんなことで……?」
今更価値観の違いにどうこう言う事でもないが、あまりにも命の扱いがぞんざいすぎる。
『出てこいやクソ共がァ! このカゲト様がぶっ殺してやるッ!』
モノ・アイや頭部の形はトシだが、ボディは全体的にマッシヴさが上がったようなシルエット、H型だ。
『お出ましだね、頼んだよウィッシュ君。周りは僕らがやっとく』
『H型はパワーもそれなりだけど防御力が高い、気をつけて』
「はい!」
剣を構え、カゲトのトシへと迫る。風圧で砂が吹き飛び、軽く砂嵐が巻き起こる。
一瞬で目の前に迫り、反応される前に頭部を狙う。
速さと重さが加わった横薙ぎ。しかし、間一髪でカゲトの巨大なアックスがそれを受け止め、高い金属音が響いて火花が散る。
『テメェが襲撃者か……しかもよく見たら噂の銀色じゃねぇか!』
「ッ……!」
やけに語尾のトーンが高い声だ、オープンになっているせいで通信越しでも耳が痛い。
『いいぜぇ……テメェの首を持ち帰って、俺がギーサの後任になって西を支配してやらァ!』
「なんだって……!?」
せっかくノア達が取り戻した平和を壊そうと言うのか? だとするならそれは良くない。それは許されない。
「そんなに平和を壊したいんですか、貴方は!」
『何言ってやがる。俺たちが平和なんだ、俺たち必要悪がいてこその平和なんだよ!』
振り下ろされる巨大なアックスを剣で受ける。今までの粗悪品とはわけが違う、かなりの重みが操縦桿との連動によって伝わってくる。
「そんなのは紛い物です!」
ネジを引き絞るような音を響かせながら、操縦桿を無理やり押し出す。
押され気味だった体勢が、ククルカンの推力を乗せた押し返しで徐々に均衡になっていく。
『テメェはブルーバードだろ、なら聞いてんだろ? この砂漠が利権争いの場だったってことはよォ!』
「それとグレガリアの支配になんの関係があるんですか!」
『それが関係あるんだよ! 俺たちが上から押さえつけてやって、お前らを支配してやってるから無駄に争わずに済んでんだろォ! それが正しい秩序なんだよ!』
1度鍔迫り合いを解く。少し離れた位置で着地し、体勢を整えてから再度向かい合う。
「ッ……! そんな支配のせいで、死んでいく人たちがいるのに正しいわけないでしょう!」
逃がさないとばかりに剣で追撃を仕掛ける。
今度は突き、推力を乗せて頭を貫こうとするものの、やはりアックスに防がれてしまう。
『秩序の為には犠牲が必要なんだよ! アリを全く踏み潰さず歩けねぇように、誰も死なない世界なんてガキじみた理想なんだよ!』
だんだん体勢を鍔迫り合いに持っていかれ、押し込まれそうになる。
「そんな理想も叶わないのは、少なくともあなたたちのような人のせいでもあるはずだッ!」
その言葉を聞いた瞬間、怒気が宿ったようにトシのアックスに重みが加わる。
『戦争も知らねえようなガキが、わかったような口をきくなァ!』
「貴方こそ秩序なんてものを勝手に解釈しているだろッ!」
咄嗟に剣を手放し、右の操縦桿の4番トリガーを押す。
『何ッ!?』
がら空きになる胴体、その隙を逃さず左腕で掌底を叩き込む。
「!!」
それによってバランスを崩したトシの頸部を、抜刀されたレイ・サーベルで横一文字に切り払う。
『クソッタレェガァァァッ!』
爆発音とともに通信は聞こえなくなり、カゲトのトシが機能不全により崩れ落ちる。
トリガーを操作してレイ・サーベルをリアクティブにすると、形成されていた黄色い刃が発信部へと吸い込まれていく。
「……ふぅ」
『終わったみたいだな、こっちも殲滅した。マルティの討伐に移るぞ』
ノアが通信越しに告げる。
「はい、行きます」
返答と共にレーダーに新しい目標地点が示される。
少しの疲れはあったが、息を大きく吸ってから気持ちを切り替えて操縦桿を操る。
砂漠は再び静まり返る、しかしそれは一瞬に過ぎない。僕たちとマルティ・ネドゥミコーとの決戦が、あと一歩まで迫ってきていた。




