第9話 作戦会議
キャリアー内の格納エリア、自分のバイクが保管されているガレージブロックの車両に入る。
既に自分のバイクを貫いていたトシの装甲の破片は取り除かれ、綺麗に開いた断面が見える。
「カウルは別のを溶接するとして……と」
問題はエンジンブロックの損傷の程度だった。爆発していないあたり要の動力源であるHBエンジンレプリカは無事のようなので反重力発生装置あたりがやられたと見るべきだろう。自分のバイクはレトロタイプと呼ばれるタイヤ駆動ではなく、車体自体が浮いて移動するフロートタイプ。故にこの装置がやられるとエンジンが動いてもまともに走りすらしない。その部分もエンジンがオンになっていたら爆発の危険がない訳では無い。全く直せないというほど深刻な外傷ではないということだ。
「とりあえず防御機構つけるしエンジンは1回取り外すか……」
もらい事故の様なものとはいえ、久しぶりに故郷で散々やっていた機械いじりをできることが一種のリラックスになる。ここ数日自分が戦っていたなんて嘘のように感じるほどには没頭していた。
「おーい、ウィッシュ君?」
突然の声と共に冷たいものを首筋に当てられて集中が途切れる。
「はいッ!?」
驚いて思わず立ち上がる。しかし座りっぱなしかつ低い姿勢で作業をしていた影響か、体幹を保てずバランスを崩し思い切り転倒する。
「ごめん驚かせすぎた、大丈夫?」
「ご心配なく……」
声をかけて来たのは糸目の男。確か名前はシィだったはずだ。
「んでだけど、作戦会議するからって団長が君を呼んでる。早く行かないと呼びに行った俺が怒られるから頼むよ」
あ、それ差し入れ。と言い残し、シィは未開封の缶飲料を置いてガレージから退出する。見たことの無い銘柄だが、絵からしておそらく炭酸系だろうか?
今すぐ飲む気にはならないけれどここに置いたままにすると温くなる気がして、持ったまま自分もガレージを退出する。とても冷えていて気持ちがいい。
メインブリッジには以前のメンバーに加え、6人ほど見たことの無い人がいる。
「これで全員揃ったな」
ウィンドウが展開され、砂漠のマップが映し出される。
「始めようか」
その言葉を契機として、示し合わせたわけでもなくそれぞれが立ったり座ったりし、中央のウィンドウを囲むように位置どってから作戦会議が始まる。
「まずの前提として、目下の目標はグレガリアの頭領マルティ・ネドゥミコーを潰すことだ。」
砂漠地帯の東側、点在するバッタマークの中でも一際大きいマークが赤く点滅する。
その横にはいかにもなスキンヘッドで、悪人面の男の写真が映される。
「だがここを攻める為にはその前に必ず潰す必要がある部隊がある。それがこいつカゲト・キリジ。マルティの忠臣かつ現状のグレガリアではトップの実力者だ」
一際大きいマークの傍のマークがピックアップされ、同じように写真が映る。ライオンのたてがみのようなヘアスタイルと蛇のように二股に別れた舌から少し怖い印象を受ける。
「俺たちはトシが直り次第襲撃をかけ、カゲトを潰す。同時にシープとゴートにはそれぞれ南方と北方のグレガリアを襲撃し引き付けて貰う。その点は相違ないですか、フィリップ殿」
「ええ、我々シープもゴートのナディア殿も全面に協力いたします。何せ散々煮え湯を飲まされた害虫を駆除できるのです、全力であたりましょう」
しっかりと髭を蓄えたその男は煙突のように鼻息を荒くして話す。
「それは結構。さて、話しを戻すが俺たちはカゲトを潰した後そのままマルティを襲撃する。重要なのはマルティの乗機はイシュタムだ。お前らはわかっていると思うがトシやトラロックでまともに戦闘を挑もうと思うな」
5人の男たちが了解、と返事する。彼らがおそらくトシに乗る人々なのかもしれない。
「イシュタムってあの?」
「そうだ。『HBM-078 Ixtab』、HB型がGA型に対抗する為に作り出されたグレードアップ機。到底GA型には及ばないが俺たち通常のHB型がやり合うのは難しい」
図録や写真越しでしか見た事がなかった為、ずっと本物を見たかった神機とこんな巡り合いをするとは思わなかった。
「だから僕が要、と」
「話が早くて助かる。実質的にお前に専任することになるが、俺達もできる限り援護する。頼んだぞ」
まだ加入して5日も経ってないのに随分と大役を任されたものだ。
緊張で喉が詰まりそうになるが、何とか「はい!」と返事をする。
「今回の作戦にあたってだがお前のククルカンにレイ・サーベルを2つ装備させる。それぞれ左右の4番トリガーに対応するから覚えておけよ」
レイ・サーベル―― G.A.システムドライブと直結して圧縮されたプラズマを、発振器に刃として形成する強力でありながら標準的な近接兵装。
それが装備されるという事は、それなりの装備が求められる相手ということ。何せレイ・サーベルは同等の刃を持つ武器でしか対抗ができない兵装だからだ。
「は、はい!」
「なら次は……メンバーについて紹介しておこう。お前ら、自己紹介しろ」
「ジークだ。よろしく頼む」
まっさきに挨拶をしてきたのはジーク。一見特徴が無い見た目だが、その姿勢は軍人らしくきびきびとしている。
「僕はケンプ。君と一緒に奇襲をかけるからよろしく」
「ケンプに同じく奇襲担当のアシマだよ、殿も務めるからよろしくね」
ケンプ、アシマと名乗った彼らはどちらも特徴的なサングラスをかけている。特にアシマのものはブーメランのように投げれそうだ。
「ガンジェです。大火力武器で後方支援をします」
ガンジェと名乗った彼……いや彼女か? 声色は男のものだが容姿は中性的だ。縁のない眼鏡をかけている。
「これが俺たちのトシ部隊だ」
「あの、僕もいます」
ガンジェの影からおずおずと手を挙げたその人は、目元が髪で隠れていて表情が分からない。
「おっとすまん。忘れてた」
「まったく……どうも、ガラドです。よろしく」
次々に自己紹介されたが、中々に癖の強い人たちだ。ちゃんと連携が取れるだろうか?
「全体の動きとしてはウィッシュが先陣を切り、それに乗じてケンプとアシマで傘形に戦線を広げる。後方はガンジェと俺が引き受け、残ったメンバーで中距離支援だ」
「旅団長、それほぼいつも通りでしょ」
アシマが半笑いを浮かべて冷やかす。
「電撃作戦は楽だからな、あの帝国で学んだ中では1番役に立つ」
ニヒルな笑みでノアはそれに応える。
「我々はどうしますかな?」
「カゲト襲撃の瞬間に合図を送ります。後はあなた方のお好きなように」
「承知いたしました、では私はこれで。修理の方を急がせましょう」
「ええ、よろしくお願いします」
フィリップは頷くとメインブリッジを後にした。
「よし、会議は以上だ。全員解散していいぞ」
「すんなりと協力してくれますね」
「今は共通の敵がいるからな。大変なのは奴らが根絶やしにされたあとの秩序だ」
作戦会議が終わり、ほとんどの人がはけたメインブリッジでノアが溜息を吐き出す。
「助け合っているわけじゃないんですね」
「当たり前さ、俺たちは小さな国だ。もし互いの利益の不都合があればやりあうことが以前は良くあった……」
旅団という存在も一枚岩じゃないらしい、と学ぶ。ブルーバードに来るまでの旅団が旅行者に優しいのは旅団として「縄張りを荒らさない」という一種の安心から来るものなのだろう。
「もしグレガリアが殲滅された後に訪れるのが混沌かもしれないのに、倒すんですか?」
「奴らは必要悪以上にやりすぎたのさ。それに……」
「それに?」
「いや、やめておこう。お前は戦えばいいんだ。お前が背負うべきじゃない」
そうはぐらかすと、そそくさとメインブリッジから出ていってしまった。
「……子供に見られてるんだろうか」
以前グレガリアの兵士が自分へ忠告として残した言葉も相まって心のモヤが消えきらず、手に持ったままだった差し入れの缶飲料を開けて口に付ける。
「甘っ……」
思わず吹き出しそうになってしまう、合成甘味料の甘さが喉を侵食する感覚が心のモヤを塗りつぶす。
貰っておいて悪いが、やはり甘いものは嫌いだ。




