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戦闘神機 ―After War Chronicle―  作者: 霧屋堂
プロローグ
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第0話 誰かが語った歴史

 統一歴16年 9月


 ククルカンの計器モニターが警告を鳴らす。元は宇宙に対応していたものとは言え、大気圏を突破するというのは相当の負荷がかかるらしい。

「くっ……!」

 本当の意味での死と隣り合わせ。僕が失敗すれば未曾有の死者が出る。だから退くことは許されない。

 増設されたバーニアが熱で損傷し、計器に表示される警告が増える。

 頼む、耐えてくれククルカン。僕はまだ死ねない、仲間の為にも、世界の為にも。

 僕はその衛星を撃ち落とさねばならない。


 ■■■


 これは、遠く離れすぎた未来のお話。


 僕たちが生まれるずっと前には前暦と呼ばれる時代があった。これは今になってそう呼ばれるようになったのであって、昔は違う言い方だったと言うがそれはもはや風化してしまったらしい。

 前暦において人類は発展した科学をもって遠い宇宙に進出しようとしていた。しかしあまりにも増えすぎたスペースデブリや拡大する地球の環境の悪化を鑑みた結果、僕たちの先祖たる人類は無限の宇宙そらへの旅路を諦め、この地球ほしに何百年もかけてつけた傷跡と病理の治療に専念する事を優先した。


 地球治療の過程において、人々は宇宙と地球両方に対応した作業用の重機が必要になった。そこで70年前に生まれたのが人機じんきと呼ばれる平均全長20mの人型重機、神機しんきの前身となる物だ。

 この人機の活躍によってスペースデブリの80%は除去され、環境問題は75%まで解決された。そうすると問題はエネルギーへと移っていく、そこで目をつけられたのが僕たち人類を地に縛っていた重力場を利用することだった。

 本来は宇宙の探査や開発に用いられるはずだった擬似重力発生装置、その理論を応用した半永久的機関 G-システム。それは単なる永久機関ではない。光やプラズマを容易に圧縮し、高エネルギー体へ変換できることで、膨大なエネルギーをほぼ無限に生み出すことが可能となった。それによって今までのエネルギー資源はほぼ不要となり、原子力を始めとしたエネルギーは捨て去られかけていったらしい。

 環境問題、エネルギー供給の解決。人類はより良い方向へと進んでいく、そう誰もが信じていたはずだった。


 しかし時が経つと共に、かつて地球連盟として1つの目的に邁進していた世界にヒビが入り込んだ。

 何がきっかけだったのか、僕たちからも分からない。かつて強固な国家連合だった地球連盟は、やがて一つの巨大組織へと変質し、その過程で人類共通の理念は事実上失われていった。そしてほぼ同時に文明回帰と呼ばれる現象が各地で起こり、技術はそのままに生活様式が時代を後退するという出来事が起こった。

 この2つの出来事によっていくつかの国が生まれた。今の一大強国レーゲンス帝国、かつて存在したマデーナ連邦、僕の故郷でもある工業国ルール、港湾国家アルメレ、東の海洋国家リョウゴク、大陸国家サードヨーク……数々の国家に別れた後も表向きは消して対立していなかったらしい。しかしその下で確実に火は燻っていたのだろう。

 それが爆発したのが56年前、強大国のレーゲンス帝国がマデーナ連邦と戦争を始めた。そこでは人機が重機から兵器として流用された。


 何が引き金だったのかは誰にも分からない。ただ、その戦いは実質的な絶滅戦争となり、40年もの長きにわたり続いた。それが統一戦争、または戦争暦と呼ばれる時代だ。

 そういう僕、ウィッシュ・エンバークは戦争暦37年生まれだ。しかしながら戦争の記憶はほとんどない。

 長く続く戦争の過程でより強い人機を求めた帝国は、時代と共に小型化したG-システムを応用したとあるエンジンシステムを開発した。

 後に、G.(Gravity )A(Accelera).(tion)システムドライブと呼ばれるそれは、今までのバッテリー駆動であった人機へ長期間の稼働を可能とする無限のエネルギー供給をもたらし、戦局をひっくり返す力と、兵器に持たせるにはあまりにも殺人的な加速力をもたらした。開発者たちは、このシステムを搭載した機体を“人を超えた存在”とみなし、『神機しんき』と名付けた。これが、平均全長18mの重機──神機の始まり。そして後にこれはGA型神機、またの名を戦闘神機と呼ばれることになる。これの登場により、帝国は膠着状態にあった戦場を優勢へ導いた。


 しかし今は滅んだとはいえ、帝国と張り合っていた連邦も黙ってはいない。GAシステムへ対抗するべく、捨て去られかけた原子力の力を使った強大な『終末兵器』と呼ばれる巨大兵器群を開発して投入。劣勢にありながら血反吐を吐くような反撃を行った。

 その兵器は戦闘神機に比べればあまりにも未完成かつ安全面の考慮もないものであったらしく、もはや勝つためではなく、苦し紛れの仕返しのようなものだったらしい。より多くの相手を殺し、苦しめる。それだけが連邦の目的だった。

 戦場は混沌を極め、かつて栄えていたユーラシア大陸の中央アジア区周辺は不毛の砂漠となり、以降無権地帯として実質的に世界に見捨てられた。

 そうして多くの血を流し、マデーナ連邦の完全消滅をもって戦争は集結した。未だに癒えぬ傷跡と、多くの悲劇を残して。


 時はそれから16年、無権地帯にて僕たちの物語は始まった。


 ここで一度筆を止め、ページを閉じる。これは、戦いを離れてもそれを忘れない為の備忘録。そして、長く長く続いた戦争を終わらせるための後日譚シークエル

読んでいただきありがとうございます。

初めまして、霧屋堂と申します。

なろうは本作が初投稿で、普段はカクヨムで活動しています。

10話目まではカクヨムと同時に定期更新するのでよろしくお願いします。

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