第34話
三時間後のエントランスにて。
「じゃーん! どうよ!?」
「可愛いー!」
「…………」
エリックの妹にして長女のジャネットが、両手を伸ばして高らかに宣言する。横では次女のエミリーが拍手を送っている。
その前に押し出されたシャルロットは、真っ赤な顔を伏せて固まっていた。
「「「…………」」」
彼女の姿を見て、エリックや父親のリアム、弟のオスカーら男性陣は絶句する。
黄色のロングワンピースに、様々な花の刺繍をあしらった赤いベスト。どちらもジャネットがとっておきの日にしか着ない一張羅である。それがあつらえたのかと思うほどシャルロットにぴったりと合った。靴も貸してもらえたのか、ワンピースと同じ黄色いパンプスを履いている。
「髪もまずはシンプルにまとめてみたわ。長いから色々とアレンジのしがいがあるわね」
母フローラが満足そうに頷いた。満足に洗えず枝毛の多かった髪は、彼女によって整えられたらしい。両サイドは編み込まれ、後ろも綺麗な三つ編みをリボンでまとめてくれている。フローラは美容師ではないが、長年娘たちのくせ毛と格闘していたから多少の技術があるのだ。
どんな良い整髪料や香油を使ったのだろうか。髪が輝いて見えるし、ちょっといい香りがする。
《おーい? 大丈夫かい?》
「ハッ」
曾祖母のマーヤが、固まる男三人の前で順に手を振る。それで我に返ったエリックたちは、まだ動けないシャルロットに向けて言った。
「すみません。あまりにも綺麗なもので、どなたかと思いました」
「やだ、お兄ちゃんってばお世辞うまいじゃん」
「本心だけど!?」
「息子と同じです。これほどまでにお美しい方だったとは」
「ぁ……ぁ……」
エリックとリアムに言われ、シャルロットはさらに縮こまる。
「ねえねえ、オスカー兄ちゃんはなんかないの?」
エミリーが棒立ちのオスカーに話を振る。頬を赤くした彼は目を逸らして一言。
「……似合ってねえ」
「「は?」」
即座に姉二人からどすの利いた声が返ってくる。
「オスカー? なんて言ったのかしら?」
「もう一回言ってくれる? シャルロットお姉ちゃんがなんだって?」
ジャネットがシャルロットの肩をがっしりと掴み、エミリーが左腕に抱き着く。二人とも笑顔なのに、その背後から地獄の炎が漏れ出ているような気迫があった。巻き添えを食らったシャルロットが涙目になる。
(お母様、お母様! 助けてください!)
慌ててロゼットを探し、視線で助けを求めるロゼットだが、
《オスカーったら、素直じゃないんだから》
《シャーリー、そのままじっとしておいた方がいいわよ》
頭を抱えるマーヤと共に手を振ってエールを送られた。
一方で、姉たちの言葉にオスカーは飛び上がったものの、すぐにまた視線を逸らして答えた。
「言ったとおりだよ。ブスにそんな服着せても、似合わないって言ったの!」
「おい、オスカー!」
エリックが咎めるような声を出す。だがその先が続く前に、エミリーが鼻で笑った。
「プッ、あんたってば本当に学習してないね」
「本当。この間のミシェルちゃんと同じ展開じゃない」
続くジャネットの言葉に、両親がうんうんと頷いている。エリックが慌てた。
「待て待て。俺それ知らないぞ。なにがあった?」
「一言でいえば、若気の至りってやつだ」
リアムが答えた。
「近所に住む同い年の女の子――ミシェルって言うんだが、その子をことあるごとにオスカーが貶していたんだ。それに同調して他の子どもたちまでミシェルをいじめるから、それぞれの親子を集めた話し合いが行われたんだ」
「展開はほぼ一緒よ。素直に『可愛い、キレイだね』って言えばいいのに、出てくるのは『ブス』とか『似合わない、服が可哀想』とか、そんなのばっかりで……。そんなことを言えば、好きになってくれるどころか嫌われる一方だっていうのに」
エリックは唖然とした。
「……ものすごく好意的な見方をすれば、照れ隠しだったってわけか」
「ばっ、なっ、なんでそういうことになるんだよ!?」
エリックの解釈にオスカーが反論するが、声が裏返っていて説得力がない。
「まあ仮にそれが本当だとして、受け手が本当に好意的に解釈してくれるかっていうのは別問題だよな」
エリックはシャルロットの方を見た。
「シャルロット。さっきのオスカーの言葉を受けて、どう思いましたか?」
「…………」
シャルロットは体の前で両手を握ったまま答えた。
「ふ、服が可哀想だと言うのは、その通りだなと……」
「「はあ?」」
両側からジャネットとエミリーが凄んだ。
「シャルロットさん、その言葉はいただけませんねえ」
「お姉ちゃんの服にも謝った方がいいよ」
「え、え、えと……申し訳ございません、着てしまって……」
「「違う!」」
二人が同時に突っ込んだ。双子というわけでもないのに、さっきから息ピッタリである。
エリックはオスカーに訊ねた。
「ちなみにオスカー、お前はどういう展開を予想していた?」
「…………。耳、貸して」
オスカーは少しためらってから、エリックに耳打ちする。
「うん、無理!」
エリックが一刀両断した。
「『笑ってくれると嬉しかった』とか、完全にお前の妄想だろ! つーか、この世のどこに自分を貶されて喜ぶやつがいるんだよ? 第一!」
びしっと弟に指を突きつける。
「お前がやったのは、人格否定! その人の心を殺そうとしたんだ! ミシェルちゃんにもシャルロットにも消えない傷をつけたんだぞ! そこんところわかってんのか!?」
「あ、あの」
シャルロットが声を上げた。
「そ、そこまで言わなくても大丈夫です。消えろって言われないだけまだマシですから」
「シャルロットはそこを基準に考えないでください。誤った言葉は平等に相手を傷つけますから。悪意があるのも問題ですが、悪意がない方もタチが悪いので」
ぴしゃりと告げてから、エリックはオスカーに向き直る。
「いいか? 本当に好きになった子と仲良くなりたかったら、傷つけるような言葉は絶対に使うな。人が離れるだけだからな」
「……父さんからも同じこと言われた」
「…………。お前本当に学習してないな」
「だ、だって、あんなお姫様、見たこと、ない……」
声がだんだんとしぼんでいく。それと反比例するように、オスカーの顔が真っ赤になった。
「ふはっ」
たまらずエリックは噴き出した。
「だーかーら、最初からそう言えばいいんだよ!」
「い、言えるかよ! 恥ずかしい!」
「おーい、シャルロット。オスカーのやつ、本当は『お姫様みたいで可愛い』って言いたかったみたいですよ」
「え?」
「可愛いまでは言ってねえ!!」
絶叫した直後、オスカーは墓穴を掘ったことに気付いた。
「……へぇ~?」
「ふぅ~ん?」
「あらあら」
「ほう」
にやにや、にこにこ、うんうん。
《よかったじゃない、シャーリー。お姫様みたいですって》
《やっと素直になったね、オスカー》
ロゼットとマーヤもにこにこしている。
「~~~~っ!!」
顔から湯気が出そうなほど赤くなったオスカーは、反転して近くのドアに飛び込んだ。
「あっ、おいオスカー、もうすぐ夕食……」
「トイレ!!」
食い気味の返答は間違いなく嘘だろう。
「先に食事にしましょう。五分もすれば戻ってきますよ」
リアムが言った。近くで見守っていた精霊にオスカーへの伝言を預け、歩き出す。
「じゃ、行きましょっか」
「ごーごー」
シャルロットも姉妹に背中を押されて、エントランスの奥へと向かった。
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