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消えろと言われたので消えました  作者: 長久保いずみ


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第27話

「お頭っ、お頭っ!」

 小声だがよく通る声に、森の中で待ち伏せしていた盗賊たちは振り返った。馬車を尾行させていた二人が血相を変えて走ってくる。

「なんだ?」

「馬車が、消えましたっ」

「は?」

 仲間の言葉に、盗賊たちは間の抜けた声を上げた。

「おいおい、冗談にしてももうちょっと気の利いたやつがあるだろ」

「冗談じゃないんだって! 見ていたのに、こう、スゥ~って消えたんだ!」

「あのなあ、自分たちがサボッていたのを誤魔化すにしたって……」

「――撤退だ」

 馬鹿にする盗賊の言葉を遮るように、リーダーが呟いた。

「え?」

「魔法使いがいる可能性がある。こちらが見つかっている可能性もある。散れっ!」

 リーダーの鋭い命令に、盗賊たちはギョッとしながらも従った。

 リーダーは数々の修羅場をくぐってきた。体のピークは過ぎてもその眼光は衰えず、積み重ねた経験が直感となって彼を、この一味を守ってきた。

 その彼が撤退を選んだ。魔法使いがいるという言葉も気がかりだ。

 盗賊がどれだけ飢えても絶対に狙わない獲物――それが魔法使い。敵に回せば最後、死よりも恐ろしい末路を辿ると言われて――

「ふがっ!」

「ぎゃっ!」

「なんだこれ!?」

 走り出した盗賊たちは、十歩と行かずになにかにぶつかった。

「壁か? でも見えねえ!」

「こっちもだ!」

「おい、これ……俺たちの周りを囲んでねえか?」

 誰かの言葉にハッとする。慌てて自分たちの周囲を叩いてみたが、硬い感触が返ってくるばかり。

 直径およそ三メートル。不可視の壁の中に彼らは閉じ込められていた。

 リーダーが舌打ちする。

「遅かったか……!」

「おー、本当にいた」

 がさがさと音を立てて、新たな人間が現れる。見てくれは盗賊たちよりもちょっと身なりがいい程度の武装集団――馬車の護衛を依頼された用心棒だろう。

 盗賊たちの存在を疑っていたかのような言葉に、リーダーは魔法使いが別にいることを察知した。

 用心棒たちはそれぞれの獲物に手をかけながら言う。

「無駄な抵抗はすんなよ。追加報酬が減るからな」

「ま、待て待て! 俺たちはただの旅人だ!」

 盗賊の一人が両手を振って叫んだ。

「襲ってもいないのに盗賊扱いはひどいんじゃないか?」

「たしかに、まだ襲っていないな」

「だろ!?」

「でも尾行しているのを魔法使いが見つけたんだ。運が悪かったな」

「なんだと?」

 別の盗賊の頬が引きつった。

「不意打ちで無防備な旅人を襲うお前らの方がよっぽど盗賊っぽく見えるが?」

「なにをっ……!」

「よせ」

 武器を抜こうとした用心棒の一人を、仲間が押しとどめる。

「なんとでも言え。こっちは正当な報酬をもらっているからな。こそこそ獲物を狙って金品や命を奪うお前らとは違うんだよ」

「……言うじゃねえか」

 盗賊のリーダーがくつりと笑った。

「なああんたら、取引しねえか」

「……言ってみろ」

「俺たちはお前らが護衛している馬車を襲わない。代わりにお前らも俺たちを見逃がせ。ここでゴタつくよりも、早く馬車を動かした方がいいんじゃないか?」

「そんな要求は呑めないな。ここで見逃しても、お前らは次の馬車を狙う。――あるいは、場所を変えて油断した俺たちを襲うかもしれない。そんな可能性は排除しておきたいんだ」

 用心棒の言葉に、盗賊のリーダーは肩をすくめた。

「信用されてないねえ」

「自分たちの立場をよく考えろ。今なら無抵抗で馬車の後ろに乗っけてやる。憲兵の取り調べも多少は優しくなるだろうよ」

「…………」

 盗賊のリーダーはじっと用心棒を見つめたのち、ゆっくりと両手を上げた。

「お、お頭?」

「お前らも同じようにしろ」

 リーダーに指示され、他の盗賊たちも同じように手を挙げる。

 ひゅるひゅる、風が甲高く鳴いた。

 用心棒たちが目の前で手を突き出し、不可視の壁がないかを確認しながらゆっくりと近付く。

 彼らに最も近い盗賊との距離があと三歩分まで来て、

「――」

 やれ、とリーダーが叫ぶ前に

《《《わっ!!》》》

 盗賊たちの耳元で大声が響いた。

「……っ!?」

 声もなく飛び上がった盗賊たちに、用心棒たちも一瞬動揺する。

「捕らえろ!」

 だがいち早く立ち直った一人の号令で、全員が動き出す。

「放せっ」

「大人しくしろ!」

「卑怯だろ!」

「作戦に卑怯もなにもねえだろ!」

 ギャーギャー言いながら、先手を奪われた盗賊たちは呆気なく縛り上げられていく。

 一際頑丈に拘束された盗賊のリーダーは舌打ちした。

「ちっ。魔法使いが紛れていたか」

「あ? 魔法使いならずっと馬車にいるぞ」

「は?」

 顔を上げたリーダーに用心棒の一人が答える。

「風を使って声を届けてくれたんだよ。精霊たちが閉じ込め、気を引くから、そのうちに拘束しろって」

「…………」

 しばらくあんぐりと口を開けていたリーダーは、はっと気の抜けた笑い声を漏らした。

「卑怯を通り越してインチキだろ」

「それが魔法使いだからな」

 用心棒はそう答えて、盗賊たちを連行した。

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