第24話
翌朝、シャルロットたちはその日一番に出発する馬車に乗り込んだ。十人は楽に座れる大きさだが、乗ったのは彼女たちだけだった。
《実質貸し切りね。のんびりできそうだわ》
天井を突き抜けてみたり空いている席に座ってみたり、シャルロットよりもロゼットの方がはしゃいでいる。
「今は空いていますが、途中で乗ってくる人もいるでしょうね。ラシガムは観光地としても有名ですし」
「へえ……」
「ラシガム行き、出発しまーす」
御者の声がして、馬車がゆっくりと動き出す。
シャルロットは改めてラシガムの書を開いた。たしかラシガムの歴史を簡単に記した章があったはず。
「魔法大国ラシガムの歴史
ラシガムは魔法使いたちが、その力をより良き方向へ進めるために興した国だ。
世界中に散らばるかつての同志――精霊たちの助力を仰ぎ、原初の精霊ともっとも縁の深い大樹〝アーヴル・モンド〟のふもとに街を作った。清らかな水の流れを作り、国民の腹を満たすための畑を作った。街には良き魔法使いたちが集まり、生まれ、魔法を正しく学ぶ学校や、法律を作る機関も生まれた。街はさらに大きくなった。
アーヴル・モンドのふもとに生まれたラシガムは、やがて、すべての良き魔法使いたちの故郷となった」
「……観光地、ってピンとこないんですが」
「でしょうね。観光する人も多いですが、住んでいる人も多いので」
難しい顔になったシャルロットに、エリックが苦笑する。
「着く頃にもう一度言いますけど、あなたの身柄はまず魔法憲兵統括本部に送られます。大きい駐在所だと思ってください。そこで取り調べや手続きを経て、一度身柄が釈放されます。再教育中ですので、そのための拠点に移ります」
「そういう施設があるんですか?」
「身寄りがなければ、そちらに送られます。ですが、おそらく母方――ロゼットさんの親族がいるはずです。そちらに協力を仰ぎます。難しそうなら、俺の家族を頼ります。それでもダメそうだったら、施設に入ってもらいます」
「エリックさんのご家族って、アリなんですか?」
「アリですよ。再教育中の魔法使いは、魔法憲兵が監視していなければなりませんから。あなたは大丈夫そうですけれど、脱走や抵抗をする人も中に入るので」
「大変なんですね」
「ええ。ですからちょっとでも苦労を減らせるよう、あなたも頑張ってくださいね」
「はい」
どこをどう頑張ればいいのかわからないが、真面目に勉強していればたぶん大丈夫だろう。
馬車はガタゴトと揺れながら、港町ルビリファを出る。馬車が余裕ですれ違える広い街道をのんびりと進んだ。潮風の匂いが遠くなる。代わりに森の匂いが濃くなってきた。
「……フレイジーユとは匂いがちょっと違いますね」
シャルロットは開きっぱなしの窓から軽く顔をのぞかせた。視界に森が広がる。あちらは土の匂いが濃かったが、こちらは木の香りだろうか。
「環境も微妙に違いますからね。あと、身を乗り出し過ぎると落ちるので戻ってください」
「はい」
エリックに軽く引っ張られて席に戻った。膝の上に広げていたラシガムの書が、風に揺られてページが動く。
そこにはこう書かれていた。
「危ない時
もしもラシガム国外で危険を感じた時、ただちに精霊に助力を乞いその場から逃げること。可能なら最寄りの駐在所で魔法憲兵に助けを求めること。
ラシガムは良き魔法使いを全力で守ります」
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