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消えろと言われたので消えました  作者: 長久保いずみ


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第23話

「護送対象者を(さら)われそうになったあ!? おまっ、バッカじゃねえの!?」

「まったくもってその通りです! 反省しています! だから上への報告は待ってもらえませんか!?」

「こういうのの自己申告は信用できねえって相場が決まってんの! 大人しく報告されろ!」

「そこをなんとか!」

 目の前で繰り広げられる押し問答を、陸酔いから回復したシャルロットは目を白黒させて見ていた。やや後ろではロゼットがひーひー笑っている。

 場所は港町ルビリファの駐在所。数ある取調室の一室にて、シャルロットたちは駐在中の魔法憲兵から重要参考人として聴取を受けていた。

《あっはははは……! あー、おかしい》

「ロゼットさん、笑ってないで助けてくださいよ!」

 涙目のエリックにロゼットは手を振って答えた。

《嫌よ。私はあくまでもシャーリーの守護精霊よ。あなたと契約したわけじゃないわ。それにシャーリーのためとはいえ、油断して持ち場を離れたあなたが悪いでしょう?》

「うぐぅ……」

 正論を言われてエリックが言葉に詰まる。

「……あ、あの」

 おずおずと、シャルロットは口を開いた。

「私は、こうして無事だったので……エリックさんは、責任とかは大丈夫かと」

「お嬢さん、そういう理屈は通らないんだよ」

「そう。そして君に庇われると俺はものすごくいたたまれなくなる」

「そ、うなんですか……」

 魔法憲兵はもちろん、エリックからも擁護を辞退されると出る幕がなくなる。また後ろでロゼットが引き絞るような声で笑った。

 押し問答で思わず立ち上がっていた魔法憲兵は、椅子に座り直してシャルロットたちに向き直る。

「ま、それはそれとして、臨時契約で精霊たちを捜索に向かわせてくれたのは正解だったな。あれで出航直前の違法船を見つけて連中をしょっぴけた。ついでに、同じように拉致されていた子どもたちも全員保護できた」

「親元の確認は?」

「絶賛作業中。応援を呼んでいるから、一週間以内にはわかるだろ」

 その言葉にエリックとロゼットが心底安堵のため息をついた。

 シャルロットがまた遠慮がちに声をかける。

「臨時契約、とは?」

「知らないのか?」

 魔法憲兵が驚いたように目を見開いた。

「魔法使いと精霊が交わす短期契約だ。だいたい一日以内で解消される」

《シャーリーが王都から脱出する時、こっそり風が得意な友達を呼んでいたのよ。あれも臨時契約の一つよ》

「そうだったんですか」

 ロゼットの言葉にシャルロットが驚く。

「……本当に知らないんだな」

 唖然とした魔法憲兵がエリックに向かって言うと、彼も頷いた。

「親戚に連絡して、昔の教科書を引っ張り出してもらうことにしている」

 シャルロットには意味がよくわからない。ラシガムでの生活でなにか不都合があるのだろうか。

 話を戻そうと思って、もう一つ質問する。

「ところで、さっきの人たちは、子どもや私を攫って売買をしようとしていたんですか?」

「その通りだ」

 魔法援兵が頷いた。

「……人って、売れるんですか?」

「場所によってはな。海を越えられるとなかなか捜査の手が伸びづらいから、連中には手を焼いているんだよ」

「そもそも国際的な法律で禁止されているんですけどねえ。奴隷ってのは需要があるらしい」

 エリックが吐き捨てる。根深そうな問題であることはシャルロットにも理解できた。

 魔法憲兵が言う。

「お嬢さんが守護精霊を使っていなかったら、どこぞの国の悪い輩に売られていたかもしれない。だからあの時反撃の指示を出したのは間違っていなかったぞ」

「あ、はい……ありがとうございます」

 褒められた気がするが、よくわからない。

「ちなみに、この後はラシガムに直行か?」

「その予定です。残っている馬車はありますか?」

「どうだろうな……。滑り込みで一便あるかないかだ。明日の朝一にすれば?」

「そうします」

 エリックががっくりと肩を落とした。それを見た魔法憲兵が笑う。

「安心しろ。情状酌量ってわけじゃねえが、違法船発見と摘発の貢献についても上への報告書に書いとくぜ」

「プラスマイナスゼロになるといいなあ……」


◆   ◆    ◆


 駐在所を出たシャルロットとエリックは、早速ホテルにチェックインした。念のため馬車を調べてみたが、夕方の停留所には長旅を終えて一休みしている馬しかいなかった。

 エリックが取ったホテルは、素泊まりで一人当たり銀貨一枚だった。風呂とトイレは共用で、狭い部屋にシングルベッドが二つ並んでいる。併設されたレストランはないので、食事は外で済ませる必要があった。

《相部屋なんて度胸あるわね》

「経費削減です」

 というのは建前。昼間に攫われたばかりで、シャルロットに個室をあてがうだけの勇気がエリックにはなかった。万が一にも襲うようなことはないが、そんなことをすればロゼットから制裁を受ける。

「ちなみに聞きますが、ちゃんとチェックインしたのは初めてですか?」

「はい」

 部屋の隅に荷物を置いて、向かい合うようにベッドに腰掛ける。木製のしっかりしたベッドだ。シーツも年季が入っているが清潔にされている。

「ティムルンでは野宿だったんですか?」

「宿屋の空いている部屋にこっそり入って、床で寝ていました。ベッドだとシワや寝汗でばれる可能性があったので」

「そうですか」

(そういうところは頭が回るんだな)

 口に出かかった言葉をなんとか飲み込む。

「疲れたでしょうから、このあと夕食をとったらお湯を貰いましょう」

「おゆをもらう……?」

(おおっと?)

 平民の言い回しが理解できなかっただけか、はたまた風呂に入るという概念がないのか。

 さすがに異性のエリックから説明はできない。と思ってロゼットに視線を向けたら、シャルロットに耳打ちしてくれた。興味深そうに話を聞いている。

《説明しておいたし、入り方もあとで教えるわ》

「ありがとうございます!」

 隣室の迷惑になるので声は抑えたが、その分深々と頭を下げた。

 もうロゼットに足を向けて寝られない。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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