第22話
「うわっ」
「ぎゃっ!」
痛いほどの光に男二人が悲鳴を上げる。それでもシャルロットを落とさなかったのはさすがの一言だ。
「なに!?」
「きゃあっ」
「眩しい!」
周囲の人たちも巻き添えを食らう。
だが、眩しい光は次の瞬間におさまる。強烈な光に焼かれた視界は、暗いのか明るいのかはっきりしない。
男二人も瞬きを繰り返して、視界を早く戻そうとする。
「くそっ、おい、先に行け!」
「おう!」
シャルロットを抱えている男が、手ぶらな男に指示を出す。まだ視界が不明瞭な中で走り出せるということは、地形を詳細に把握しているのか。
《逃がさないわよ》
ロゼットは次の魔法を放った。
「ひいっ!?」
走り出した男が、急に尻もちをつく。後ろを走っていた男がもろにぶつかって、前方にシャルロットを投げ出した。
「馬鹿野郎! なに立ち止まってんだ!」
「だ、だって、化け物が……!」
「あ? 目がおかしくなったのか!?」
「いるじゃないか、正面に!」
手ぶらだった男が半狂乱で正面を指さす。シャルロットを抱えていた男は、まだ本調子ではない視界であたりを見回した。
「どこだ?」
「だから、ここ!」
「頭おかしくなったか?」
「んなわけないだろ!?」
「おい馬鹿、引っ張るな!」
先に尻もちをついた男が、シャルロットを投げ出した男の服を掴む。それを見てロゼットはくすくすと笑った。
それはそうだ。尻もちをついた男の目にしか見えない幻覚を見せているのだから。
彼の目には、おどろおどろしい黒い熊のような怪物が見えているはずだ。不明瞭な視界も相まって、その怖さは倍増されている。しかも、自分にしか見えない幻覚というのは心細さや不安も煽ってくれる。
《シャーリー、ちょっとここでじっとしてて》
シャルロットを投げ出してくれた隙に、彼女へ隠蔽魔法をかけた。どのみち陸酔いからまだ回復していないから、すぐには動けない。
そろそろ視力が回復する。男たちがこれ以上動けないように、さらに魔法を重ね掛けした。
「わっ!?」
「なんだ、なにが起こった!?」
男たちが慌てふためく。
「くそっ、おい、手を離すんじゃねえぞ!」
「言われなくても離せないって!」
「……なにやってんだ、あいつら?」
視界が戻ってきた人々は、男二人が互いの腕を掴んで、よたよたと立ち上がるところを見た。
「ルートは覚えているな?」
「ああ、けどこの視界じゃ……」
二人の視線が定まらない。足踏みをしている彼らは、まるで星のない夜に放り出されたかのようだった。
――実際、ほぼその通りだった。
光の魔法は、光を集め、操ることだけではない。
光を奪うこともできる。
彼らの目に丈夫で遮光性の高い目隠しを貼り付けたようなものなのだ。しかも外せないのだから、いくら地理を把握していようと、人ごみの多いこの場所でぶつからずに目的地まで辿り着くなんて至難の業。
それでもなんとか進もうと、一ミリ、また一ミリと慎重に足をする。
「そこまでだ」
腕を後ろからがっちり掴まれる。
「彼らを拘束してくれ」
体がみるみるうちに窮屈になる。
「ロゼットさん、もういいですよ」
後ろの声が誰かに向かって呼びかける。
急に光が戻った。目の前には、腕を組んで長い赤髪を波打たせる美女。後ろには若い男。
自分たちの体は、半透明の鎖のようなものでぐるぐる巻きにされている。
「魔法憲兵だ」
後ろの男は名乗った。
「ここの駐在員じゃないが、介入させてもらった。罪状は略取誘拐かな? ちょっと詳しく聞かせてもらうよ」
駐在所からどたばたと憲兵たちが走ってくる。
魔法憲兵の魔法から逃れる術は、基本ない。男たちは呆然と立ちすくむしかなかった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
よろしければ、下の☆☆☆☆☆で評価していただけると嬉しいです。
執筆の励みになります。
よろしくお願いします。




