或る少女の願い事 後編
「国の外に放り出されたわたしは、どうして家族があんな目にあわなくちゃいけないんだろうってそればかり考えてふらふら歩いていました」
家族を殺した奴らが憎いと恨みを募らせていると少女の内側からぐつぐつと黒く煮詰まったものが湧き出だしてくる。
不思議と体は疲れる事無く歩き続け、その途中で見つけた森へ誘われるように入ると噂で聞いた事がある魔女の家に辿り着いた。
「……あんたは元々持っていた魔力が強い恨みで呪いの力に変換されている。呪術の素質が無い人間がその力を使えば人としての理は外れていくし、その身は必ず亡びる運命にある。それだけは覚えておきな」
魔女は少女の中に魔法回路を作り、呪いの力を使えるようにした。
その途端、彼女の足元から黒く禍々しい茨がいくつも姿を現す。
「まずは制御できるようにするんだね。そうしないとあんたの目的を達成する前に死ぬ羽目になるよ」
「魔女さま。ありがとうございます」
魔女に言われた通りに、強さを増す魔力を抑え込む少女は道が違えば名のある魔導士になれたのかもしれない。
それはもう、もしもの話でしかないが。
「対価代わりにあんたの名前でも訊いておこうかね」
ルージャ、と静かに名を告げ少女は魔女の家を去っていった。
「ご主人様……その子が私達の国を滅ぼすつもりだったらどうするんですか」
彼女の話を何となく思い出したから使い魔に話したが、彼は若干呆れたように言う。
「生意気な使い魔だね。あたしがそんなヘマをするわけないだろ」
「それはそうですけれども。それにしてもその子、どうなったんでしょう」
「何言ってるんだい。いつも目にしているじゃないか」
わけがわかっていない使い魔に察しが悪いと指摘しつつ、魔女はテーブルの上にある一輪挿しを指さす。
そこにはいつも黒い薔薇が挿してあり、水が無くとも枯れないのでてっきり魔女が魔法で作ったものだと思っていたが。
「まさかこの黒い薔薇って……」
「だから、それだよ。100年以上前からそこにある」
同じくらいの年に1つの国も歴史上から消えている。
あれはいつだったか、廃国に呪いの花が一輪だけ咲いていると聞きつけて足を運んだ時に見つけて摘んできた記憶がある。
「こいつは本懐を遂げたのさ」
花びらを指でなぞりながら、魔女はわらった。