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商会でのリーフの評価




 普段は一人で来るのだけど、今日は珍しく義兄さん達を連れて商会の中へと入っていく。正面の扉を開き中に入ると、視線が集まっていく。


「うおっ、リ、リーフか……スコールも一緒なのは珍しいな」


「見掛けない子もいるがスコールの知り合いなのか? 二人が女連れでやって来るなんて珍しいな」


 アネットさん達を見て、従業員達がざわつき始める。義兄さんがそれを止めようとボク達の前に出た所で、メアリーさんの声が響く。




「あなた達やめなさい、アネットとセシリーは私の知り合いでもあるんだから、変に騒がないでよ」


「知ってんのか、メアリー? お前が知ってるって事は、じゃあ冒険者関係の子か?」


「ええそうよ。受付以外でも、女性冒険者の普段の対応も私がやってるんだから、当然でしょ。わかったなら作業に戻って」


 そう言って従業員達を遠ざけると、茶色いくせっ毛にこげ茶色の目をしたメアリーさんが対応にやって来る。そこにもう一人白髪に髭を生やしたお爺さんも近づいて来て、ボク達に声を掛けた。


「よう、リーフにスコール。ここで会うのは珍しいな」


「おはようお爺さん。確かに今日はどうしてここに?」


「ここの会長や昔馴染みに会って少し話をしようとな、だが、先客の対応をしておるみたいで、ワシはここで待っとれだとよ」


 ボクが尋ねた事を返すと、お爺さんは横にいるメアリーさんに対応を変わり、義兄さんにも声を掛ける。


「おはよう、リーフ。スコールさんは先週一緒に来るって聞いてたけど、アネット達はどうしたの?」


「数日前に色々あって、今はこうやってリーフと仲良くなったって訳よ。この後街を一緒に見て回るって約束もしたし」


「へぇー、歳も近いだろうし、リーフに優しくしてあげてね。それじゃあ依頼を済ませよっか」


 アネットさん達がメアリーさんと知り合いだったとは。商会に来る時には彼女達の姿を見た事が無かったので、何処か別の場所で知り合ったのだろうか。


 義兄さんはお爺さんと話を続けているみたいなので、四人で受付のテーブルまで歩きながら、事情を聞いてみる。




「メアリーさんとは既に知り合いなの? 義兄さんだって、パーティーの名前を知ったのは数日前なのに」


「冒険者ギルドの方で何度か会っててねー。素材を引き取って貰ったり、商品を卸して貰ったりで、歳も近いから自然とね」


「そう、あなたのポーションもメアリーにお勧めされて知ったのよ。ただ、あなたが男の子だって事は教えてくれなかったけど」


「ごめんってば、近い将来面白い事になりそうだって、他の冒険者達に口止めされてたの。そしたら案の定ライトさんだっけ?」


 冒険者ギルドの方で会っているのだとセシリーさんに教えて貰い、アネットさんはメアリーさんに文句を言っている。それに軽く謝罪しながらメアリーさんは笑ってテーブルの奥へと向かう。


「もう、笑い事じゃ無いよメアリーさん。口止めされてたってなんなの? 義兄さんがすぐに来てくれなかったらどうなってたか……」


「リーフもごめんね。前々から冒険者の間では、あなたの事を特別視してるみたいでね」


「流石にもう、冗談じゃ済まないのよメアリー。ライトの入れ込み具合とかどうしてくれるのよホント」


 受付に鞄を渡す横で、アネットさんは尚もメアリーさんに強く当たっている。この数か月の活動方針がボクに影響されていたのだと考えてしまうと、何だか申し訳無く思ってしまう。


「えっと、ボクからもごめんなさいアネットさん。勧誘された際に話を聞いた限りだと、数か月は活動に影響を与えていたみたいで」


「ちょっと、リーフっ、あなたに謝られたら私も困るわよ! 確かにずっと女の子と勘違いして、警戒はしてたけどさぁ」


 軽く頭を下げて謝罪をすると、困り顔で慌てだすアネットさん。セシリーさんはそれをただ笑って見ていて、この隙にメアリーさんは鞄を持って奥へと向かっていた。




 アネットさんはすっかり勢いを失ってしまい、ボクも勘違いされていた事が恥ずかしくて、どうすれば良いのかわからなくなる。


 するとそこに、二人で話をしていた義兄さん達がやって来て、隣にいたお爺さんは呆れた顔でボクを見ていた。


「何だリーフ、少し様子を見ていたが、お前はまた冒険者達に迷惑をかけられとるのか」


「め、迷惑だとか、そんなっ、寧ろボクがしっかりしてないから、変な事になってるだけで」


「リーフは別に悪く無いわよっ、普段から助けて貰ってるのに、おかしな事してる冒険者達がどうかしてるの」


「ところでリーフにスコールさん、こっちのお爺さんは知り合いなんだよね? 商会の関係者さん?」


 そう言えばお互い初対面で、まだ何の説明もしていなかったと気が付く。




 お爺さんはお婆ちゃんの知り合いで、いつもは街で本屋を営んでいる。小さい頃からそこの本を買う事が多く、今でも商会に行く際には立ち寄る事も多いと説明する。


「ボク達のお婆ちゃんが亡くなった後も、お爺さんはよく声を掛けてくれて色々と気遣ってくれてるんだ」


「たまに嫁がどうのこうのって、余計なお節介をかけて来るけどな。そんな女がいたら、まずリーフと仲良くしてくれって話だ」


 相槌を打ちながら話を聞いていたアネットさん達の横で、少し機嫌を悪くした義兄さんがそう言う。お嫁さんに求める条件にボクとの相性が含まれているのは、何だか人除けにされている感じがして、変な気持ちにさせられる。


「もう、またボクを人除けにするの? 義兄さんなら素敵な女性に出会えるよ。そうなったらボクも一人でやっていくから」


 義兄さんが誰かと結ばれた後は、ちゃんと一人でもやれると顔を向けて決意を見せる。けど、それは逆効果だったみたいで、義兄さんは肩をびくりとさせ驚いてしまう。


「ち、違うっ……お前を大事にするのは、俺が婆さんと誓った事だから、両方必要な事なんだこれは」


「やれやれ、リーフは男扱いされておらんし、スコールも変に拗らせておるなぁ……レインの墓前に良い報告が出来るのはいつになるやら」


 お爺さんがゆっくりと首を横に振りながら髭を撫でている。お婆ちゃんの事を言われてしまうと、義兄さんも申し訳無さそうに落ち着かなくなる。


 ボクも男らしさが足りないと言われて、ポーション作りの勉強の他に本格的な身体の鍛え方を学ぶべきかと考える。式典が終わった後もやるべき事があるのだと、これからの人生を思うと、メアリーさんが戻って来た。




「ちょっとお爺さん! リーフはこれで良いんですよっ! ポーション作りには繊細さが必要だって私も知ってるんですから」


 両手に依頼の証明が済んだ証明書と、報酬のお金が入った袋を乗せた盆を持ったメアリーさんが、お爺さんに向かって強めに話す。


「むう、繊細さはかつてレインもそうは言っていたが、しかし、冒険者達には誰かが言ってやらんといかんだろう」


「それも、今は良いんですよっ、少なくともスコールさんがハッキリとしない内は、言うだけ野暮なんです」


 メアリーさんの言うポーション作りに必要な要素と、義兄さんが一体何の関係があるのかボクは不思議に思ってしまう。


 お爺さんはその話を聞いて、目を瞑って少し考え事をしたと思ったら、勢い良く目を見開いて物凄い表情で義兄さんを商会内の隅の方に連れて行った。ボク達には聞こえない大きさの声で一言二言確認を取った後に、大声で説教をし始めた。


「バカモンっ! お前は一体何を考えとるんだっ! あの子が今のようになってしまったのは、お前のせいでもあるのだぞ!」


「そ、それはっ……わかってるよ……! だが、俺もこればっかりは本気なんだよっ……」


「お前の言い分はわかった。しかしだな、向こうは何も知らないし、理解もしとらんだろう……! それを求めてどうするっ」


 義兄さん達の周りでは、お爺さんを宥めようと従業員達が集まり出した。でも、何か変な事を言ったみたいで、お爺さんの説教は周りにも及び始める。




 彼等は途端にしゅんとしてしまい、一体どんな事で叱られているのかが気になるけど、行かない方が皆の為だとセシリーさんにやんわりと止められてしまう。


「あちゃー……私、お爺さんを怒らせるつもりで、ああ言った訳じゃ無いんだけどなぁ……スコールさん何も言ってなかったんだぁ」


「それでなくてもお爺さんの反応が正しいのよ。この街の人達ちょっとおかしいわよ? リーフの事どうしたいの?」


 予想外の事だったらしく、メアリーさんは何かを反省している。ボクの隣でアネットさんは街の人達の事を言い出すので、疑問が更に増えていく。


「まあ、そこは全部バレて当の本人が怒りでもしない限り、治らないんじゃない? それよりも、リーフ、お婆さんの名前ってレインって人で合ってる?」


「うん、お婆ちゃんの名前だよ。お爺さんは名前で呼び合ってた位に、ずっと昔からの知り合いなんだって」


「へえ、じゃあ、ポーション作りには繊細さが必要ってのも、何かの法則とか物の例えとかそんな感じ?」


「ポーションを作る際に一番大事な物だって、最初にお婆ちゃんから教えて貰った事なんだ。でも、男らしく無いのはどうなんだろう」


 街の皆が、ボクの事で誰かを怒らせるような事をしているのだろうか? お爺さんの様子はただ事では無いと感じながら、セシリーさんからあれこれと尋ねられていくので、証明書の確認をしつつ答えていく。




 お婆ちゃんは、ボクがポーションを作るきっかけになった大事な存在になる。そして、義兄さんにも森で狩りの仕方や、身体の動かし方を教えていた凄い人だったと説明する。


「本格的な事を教えて貰う前に亡くなっちゃったんだけどね。それでも、本を読んで勉強すれば理解出来る位に、大事な事は徹底的に教えて貰ったんだ」


「へえー、スコールさんの事も見てたんだ。それで冒険者として凄腕になるんだから、どんな人かは想像しやすいね」


「そんな人に教えて貰ったなら、リーフの腕前も実は今でも凄いんじゃない? 一度今の実力を専門の人に見て貰った方が良いわよ」


 アネットさん達は、義兄さんの評判に対してボクも相当ではと言ってくれる。確かに最近の冒険者達の評判や、式典で盛り上がる街の様子を見ていると、興味があるのは事実だった。


「うん、式典が無事に終わって街も落ち着いてきたら、工房に見て貰った方が良いのかもね」


「今までそんな事気にしなかった訳? 言っちゃなんだけど、普通は気になって仕方が無い物じゃない?」


「お婆ちゃんとの大事な思い出の部分が強かったから。教えてくれた事だから真面目に取り組みたい気持ちもあるけど」


 ふと胸に手を当てると、話をしたからか昔の思い出がよみがえって来る。それは、いつもあの家でポーションを作る時も同じで、今までのボクはそれだけで良かったのかもしれない。


「今まではそれで良かったんだ。でも今は義兄さんも旅に出るし、冒険者の皆にも評判が良いみたいだから、気持ちを改める機会だね」


 これからの事をそう決めると、何だか心がスッキリした感じになって自然と楽しい気持ちになる。ついアネットさん達に微笑むと、いつの間にかボクの話を聞いていた周りの皆が顔を赤くしてこっちを見ていた。




「ど、どうしたの皆……? ボク、変な事言っちゃったかな……?」


「冒険者ギルドの受付嬢が、リーフの笑顔は素敵だって言ってたけど……」


「思ってた以上だったねぇ……私ちょっと自信無くしちゃいそう……」


 アネットさん達以外にも、お爺さんを宥めていた従業員達や義兄さんまでボクを見ていた。全員に見られるのを不思議に思っていたら、突如メアリーさんに手を掴まれてしまう。


「そんな顔されたら、工房なんて待ってられないわ! 私の服貸してあげるから、今すぐそれを着て聖教会に乗り込みなさい!」


「ええっ!? な、何で聖教会に!? そんなの迷惑になるだけだよっ!」


 メアリーさんが突然滅茶苦茶な事を言い出した。驚いたアネットさんがすかさずそれを止めに入る。


「な、何言ってるのメアリー!? この場の全員そう思っちゃったけど、それは流石にダメでしょ!」


「だって! 仕事で聖女候補の大半を見て来たけど、リーフと同じ位綺麗な子なんて数えられる程しかいなかったもの!」


 それがどうして、メアリーさんの服を着て聖教会に行く理由になるのかが、ボクにはわからなかった。でも、それを聞いた従業員達はざわめきだして、その話に乗ろうとし始めた。




「まっ、待ってよ皆!? 聖女様が綺麗な人ならボクもうれしいよ? でも、一番大事な所はそこじゃないよ!」


 ボクがそう言って皆を止めようとしても、落ち着く気配は無かった。お爺さんも怒り疲れてしまって、止められる程元気が無い。


 唯一この場で、皆を抑えられそうな義兄さんに助けを求めるけど、何故か固まってしまって動こうとしなかった。


 次第に顔が熱くなって視界が滲み始めた時、奥の部屋の扉が勢い良く開き皆がようやく止まってくれた。

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