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冒険者ギルド内での酒の席の話 2


 こんな事を考えているとリーフには知られてはいけないなと思いながら、スコールは注がれた酒を一気に飲み干す。


 そんな彼であるが、傍から見れば実力もあって若いのにどこか影のある部分も持った色男に見えていた。




「あはは、ざんねーん。私達、フラれちゃったー。この女泣かせの色男め」


「スコールは実際カッコいいんだけどねぇ、でも、リーフちゃんが側にいるもの」


「ハハハッ、あんな子が側にいたら、並の女じゃ満足出来なくなっちまうっての!」


「ああ、笑顔が可愛くて、世話焼きで聞き上手で、おまけにポーション作りの才能まであるとくれば、冒険者ならイチコロだよなぁ」


「女だったら、本当に聖女候補筆頭だったんだろうなぁ。これは贔屓じゃなくて事実何度も助けられてるしな」


 冒険者達の話は、リーフのポーションの話へと流れていく。集まる度に最終的にこの話になり、嘘か本当かは彼等の記憶のみが知る事であるが、各々が最近の経験談を語り始める。




 その話を聞いて、そろそろ彼等の酔いも本格的になって来たなとスコールは思い、代わりに雰囲気にのまれていたライトが反応する。


「皆さんの話って、実際どれ位本当なんですか? リーフさんのポーションが評判なのは知ってますけど……」


「ああん? リーフちゃんの腕前を信用してねえって言うのか? オレ達の経験は本物だ! 嘘じゃねえ!」


 そう言って、冒険者の男は自分の左腕をライトに見せつける。そこには輪のように刻まれた傷跡があり、彼が言うには一度大怪我をして腕が切断されたのだという。


 冒険者生命が絶たれる程の怪我であったが、たまたま持っていたリーフの基礎ポーションを元に調合した回復薬を飲み、一か八か腕をくっ付けると治り始めたのだった。


 その話を皮切りに、とある男は戦闘中に足が折れる怪我をしたが、ポーションを飲んで少ししたら歩けるようになったと話し、とある女は病気になった幼い甥にポーションを飲ませて一晩経つと、たちまち元気になったとライトに話す。


「オレなんかはよぉ、依頼で毒の沼に立ち寄った時に、そこで毒消し草を混ぜたリーフちゃんのポーションを使って毒を中和した事があるぜ」


「オレは食あたりした時に、リーフちゃんのポーションをお粥にかけて食ったら、腹痛いのが治ったんだ!」


「い、色々あるんすね……腕の怪我や骨折なんかの話は、まるで上級ポーションの効果みたいですよ」


「だが、リーフ自身が自力で作れるのは、中級までだって前に自分で言っていた。家じゃ特殊な素材は保存出来ないから、どこまでの腕前なのかは実際わからんが」


 ライトの感想に対して、諸々の理由でリーフは中級ポーションまでしか作った事が無いとスコールが話す。


 それを聞いて、冒険者達は自分達の経験を元にリーフへの評価を述べる。


「リーフちゃんの腕前は中級なんてもんじゃねえよ! ありゃ絶対、相当なモンだって教えてやれよ! 兄貴だろ!」


「俺達はポーション作りは専門じゃ無いだろ! 俺だってどれ位の腕なのか証明出来たら、もっと堂々と褒めてやれるさ!」


「現場じゃ、そこで手に入れた素材も使ってポーションの質を上げる事は、当たり前みたいな話だしね。何使ったなんてその時で変わるかぁ」


 基礎ポーションはそれ専門の知識や腕前が無いと、上手く素材の効果を高める事が出来ないのは広く知られている。そして、基礎ポーションさえあれば、調合の知識を持っている者なら誰でも素材を追加で加えられる事自体は可能であるのも、同じ位知られていた。


 ただ、効果が高いポーションを作ろうとするには、また別の知識や腕前が必要である。つまり聖女の候補者になれる者は、その両方の知識と腕前を持っているのだと一般的には考えられていた。




 リーフに期待する者達の理由の大部分が、基礎ポーションの効果による所である。現に彼等の経験談でその品質の程は強く信頼されている。後は上級ポーションを作れるような環境さえ整っていればと、誰もが考えた。


「なあ、スコール。お前の稼ぎなら、もっと良い所に家を構えられるんじゃねえのか?」


「俺もそうしたいんだがなぁ……思い出が沢山あるあの家が良いって、リーフが言うんだ……そう言われたらどうしようも無いだろ」


 冒険者の提案に、スコールは首を横に振って駄目な理由を語る。リーフにとっては、義兄と同じ位に大切だった存在との思い出が残る今の家は、大事な物の一つであった。


 また、その存在の教えによって、ポーション作りに関してリーフは義兄に頼る事無く、一つ一つの工程を学んでいく事を重要視している。


「素材に関しても、自分の稼ぎの範囲でやれるようになりたいとも言ってるんだ。俺が下手に手を出したら何を言われるか……」


「そんな理由があったのか……それならオレ等がとやかく言う事じゃねえな……」


「でも、勿体無い気もしちゃうなぁ、私達はあの子の実力を知っているのに何も出来ないだなんて」


「いや、リーフは聖女にはなれないからな!? 男が聖女になんて話、聞いた事が無いぞ!」


 酔いが極限まで来ていたのか、誰もがリーフをそういう風に扱おうとしている所に、スコールが辛うじて指摘する。その指摘によって、それもそうかとしんみりとしそうになっていた空気は吹き飛ぶ。




「それもそうだな! リーフちゃんは聖女に相応しい子だと思うけど、ホントにそうなっちまったらオレ達が困っちまう!」


「聖女になって欲しいけど、そうなっちゃったら遥か遠い存在になるのよねぇ……中央国に行っちゃったら寂しいわよ」


「待て待て、だからリーフは聖女にはなれないからな? それに、あいつなら子供の病気や食あたりが治ったって話の方が喜ぶと思うぞ?」


 リーフにとって、自分の作るポーションの望んでいる使い道を話すスコール。その使用用途は随分と庶民的であり、聖女に選ばれる程の存在が望んでいそうな使い道とはかけ離れている。


 この考え方も幼少期の経験から来る物であるのだが、品質を優先して味は二の次とされる方が、作成する側には長い事主流であった。ただ、この考え方はポーションを命懸けの現場で実際に扱う当事者達にとっては大変不評でもある。


「その話本当なの? 小さい子供でも飲める位に口当たりも良いから、使う分にはそこも大助かりしてるもんね」


「ああそうだ。二日酔いにも抜群だから、つい何気無い時でも使いそうになるんだよな。他の奴のポーションだと物によっては余計気分が悪くなるって言うのにな」


「どんなに効果が凄くても、味が不味けりゃしんどい時だとそれだけで飲みたくねえんだよな。飲み込む気力も湧かねえ」


「怪我で動けない時に実際に使うのは、オレ達冒険者や城の兵士達だろうに、不味いポーションに当たった時はそれだけで拷問だぜ」


 リーフのポーションを飲んだ後だと、他の人が作ったポーションは飲むのが躊躇われてしまうと愚痴を溢してしまう。怪我の場合や状態によっては不味過ぎてまともに飲ませる事が出来ずに、回復が手間取ってしまう事を彼等は危惧していた。


「なあ、スコール。実際リーフちゃんは一体どうやって、あんなにポーションの味を良くしてるんだ?」


「料理も美味しいってよく自慢もして正直羨ましいけど、料理の腕前が関係してるなら味が良いポーションがもっとある筈じゃない?」


「俺も詳しい製法はよくわからんが、作る際は凄い丁寧にやってるな……一つ一つの作業を丁寧にやれば味が良くなるとかか?」


 後は独自の処理の仕方があるのかもなと、呟くスコール。こればかりはリーフ以外の他のポーション職人も交えて、話を聞いてみない事には知りようが無かった。


 下手に知識が無い分、もっとリーフのやり方が広まれば良いのにと、冒険者達から素直な感想が出る。だが、もし特殊な製法があるのだとしたら、それだけで大事になる事を彼等は知らなかった。


 普段から冒険者以外とも話をする機会があり、こんな話をその界隈の権威を持った人物に聞かれでもしたらと、受付嬢だけが危険性を感じる事が出来た。


 リーフを心配してスコール達にその話を表でしないように注意しようとした所、何者かがギルドの扉を開けて中に入って来るのだった。




「うふふふ、あなた達、随分と面白そうな話をしているのね……? 私がここにいなかったら、そのリーフって子は危ない目に遭っていたわよ?」


「なっ!? だ、誰だアンタ!? リーフちゃんをどうしようってんだ!」


「おい、早まるな馬鹿! あの女のローブ、よく見りゃ聖教会の模様が入ってる!」


 酒の席で大分酔いが回っている冒険者達を目の前に、聖教会からやって来たであろう女性は一切物怖じする事は無かった。


 後ろに同様のローブを被った部下らしき人物達を数人引き連れて、不敵に笑いながらスコール達に声を掛けて来た。


 更にリーフの名前を出して、危ない事になっていたと言い出してしまえば、それだけで挑発されたと冒険者の一部が騒ぎ出す。


 この場で一番実力のあるスコールが、辛うじて彼等を制止して大人しくさせる。突如現れた謎の女の目的もわからない為か、警戒しながら彼は前に出るのだった。


「何で聖教会の人間が俺達を脅すような事を言う……? 俺の義弟に手を出そうってなら、俺が黙っちゃいないぞ」


「あら、ごめんなさいね。私はただ、あなた達の大事な子が、あなた達の話のせいで危なかったかもって知らせたかっただけなの」


「どういう事だ……! 俺達はあいつのポーションについて、ただ話してただけだぞ?」


「この西の国で、指折りの実力の冒険者達がこぞってリーフって子に入れ込んでる状況なのよ? もうあなた達だけの話じゃないって事よ?」


 彼女は自分の影響力を多少は考えろと言わんばかりに、スコールに向かって語気を強めて語る。


 それに対してスコールも、そこまで聖教会が知っているのなら、当然リーフの事も知っている筈だろうと態度を強くする。


「ならアンタも知ってるだろう? さっきも言ったが、リーフは俺の義弟なんだぞ? 確かに式典が近いが、あいつはそれとは無関係だろ」


「まあ、そう言われればそうなんだけどねぇ……リーフ自体は何の問題も無い可愛くて良い子なのは把握済みよ? 問題なのはあなたの方よ」




 問題なのはスコールの方だとローブの女が言うと、どういう事だと周囲がざわつく。何か聖教会とスコールが関係があるのかと考えれば、先日の素材の依頼が彼等の中で結びつく。


「スコールと聖教会が何かあるって言ったら、素材採取の依頼しか思いつかねえんだけどよ、それがどうしたんだ……?」


「そんなのオレ達が知る訳ねえだろ……! だが、もし関わりがあるって言うなら、聖教会よりも聖女候補の方なんじゃねえのか……?」


「そういえばスコールってモテるもんねぇ……聖女候補って言ったら、リーフちゃん位の歳の女の子ばかりって商会の子から聞いたわ」


 そこまで話せば、女性冒険者達はすぐに察しがついてしまう。肝心のスコールがリーフにしか目が向いていない為、そういう事には無頓着だったのが問題なのだろうと顔も名前も知らない聖女候補達を哀れんだ。


「な、何だよ……お前等、問題が何かわかったんなら、俺にも教えてくれ! 解決する方法を考えるからさ!」


「あー、それは無理かも……ごめんね、スコール。これは確かにあなたの問題よ?」


「そうなって来ると、リーフちゃんも可哀想よね……何かあったら後で慰めてあげなきゃ」


 彼女達はスコールを見ながら、式典の日にその隣にいるであろうリーフの姿を想像して、何事も起きないで欲しいと願うのだった。


 リーフが可哀想だと嘆く彼女達を見て、ただ事では無いとはスコールでも理解は出来ても、その原因までは把握出来ないでいた。


 ローブの女もため息を吐くと、時間切れだと呆れた様子でスコールに声を掛ける。


「当日は私も出来る限りリーフのフォローはしてあげるけど、スコール、あなたは自力で頑張りなさい? 大事な義弟なんでしょう?」


「な、何だと……? どういう事だ! 式典の日にリーフに何かあるのか!? そもそもアンタは一体誰なんだ!?」


「誰なのかはどうしても言えないのだけど、私はリーフの味方になってあげたいの。それとスコール、あなたにも大事な話があるわ」


 そう言って彼女が雰囲気を変える。纏う空気をがらりと変えた事により、スコールも思わず息を呑んで視線を向けた。


 そして彼女はゆっくりとスコールへと近づき、彼の耳元で本人にのみ聞こえる声の大きさで用件を囁くように伝えた。


「お、おい……! その話、ほ、本当なのか……? こんな事リーフにどう伝えれば良いんだよ……」


「その為に私が来たのだから、後は当日に何事も無ければ良いと願っているわ。あなたもこんな事になるなんて驚きよね?」


 話を聞いて、より一層深刻な表情になるスコール。その内容は酔いを醒ます程であり、とても酒を飲んでいられる状況では無くなった為に、程無くして酒の席は解散するのであった。

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