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義兄さんはとっても心配性




 とっても怖い顔をした義兄さんは、ボクの手を握る剣士さんに今にも襲い掛かるのではといわんばかりの剣幕だった。


 突然現れた義兄さんを恐れる彼等を守るべく、ボクは義兄さんを宥める為に声を掛けて大丈夫だと伝える。


 彼等のパーティーの戦士さんが、義兄さんの顔を見て誰なのか理解すると、恐る恐る剣士さんに説明をし始めた。


「お、おいっ! ライト! この人、あのスコールさんだよ! この街どころか西の国一番の冒険者だぞ……!」


「ええっ!? あのスコールさんなの!? ちょ、ちょっと! この子とスコールさんってどんな関係なの!」


「どんな関係も何も、俺とリーフは兄弟だよ。さっきリーフからも俺の事を義兄さんって呼んでただろ」


 急な義兄さんの登場とその立場に、驚き慌てる魔法使いさん。そして、自分の存在を知られているとわかった義兄さんは、若干表情を緩めてボクと兄弟である事を明かす。


 それを聞いて改めて義兄さんを見る冒険者パーティーの面々は、今度は全員でボクの手を握る剣士さんを振り解き始め、戦士さんが頭を下げていた。


「ら、ライトの奴が、し、失礼しました……! まさかスコールさんの妹さんだとは知らなくて……!」


「いや、そこも間違えてるぞお前等。確かにリーフは俺とは全く似て無いからそう思うのも仕方無いが、ちゃんと義弟だからな……」


 血の繋がりが無い兄弟である事を前もって説明しておかないと、ボクが女の子だと思われる事は今まで何度も経験してきた。いや、ここまで来ると血の繋がり云々は関係無いのかな……?


 剣士さんを含めた驚きの声を聞くのも何度も経験しているので、彼等が落ち着くまで少し待つ事になるのだった。




 冒険者ギルドのテーブル席へボクと義兄さんと、パーティーとで向かい合って座る。ボクへの勘違いも解け、落ち着いて冷静になった冒険者のパーティーから改めて謝罪の言葉を受け取る。


「そ、その……本当に申し訳ありませんでした……! り、リーフさんも、ずっと女の子だと勘違いしてました!」


「あ、あはは、大丈夫ですよ。義兄さんの知り合いの人達も、最初ボクの事を勘違いしてたって話は何度もありましたから」


「ああ、こんな見た目で、更にはポーション作りの件もあるからな……密かにリーフのポーションを欲しがる連中は多いんだ」


 ボクの事に関して何か難しい顔をする義兄さんに、剣士さんは納得したような顔で静かに同意をしている。


「受付から義弟が迎えに来てくれたって言われて急いだら、義弟を口説いてる奴がいてつい驚いてしまった」


「うっ……! ほ、本当に申し訳ありません……で、でも回復を担ってくれる子が欲しいって言うのは、パーティー全体の総意だったんです!」


「俺も冒険者だから、そう言う理由ありきならもう何も言わん。それでリーフに声を掛けたっていうのも、目の付け所が良いと評価出来る」


 義兄さんは意外と彼等の事を結構良く評価していて、その印象の良さにパーティーの皆は嬉しそうに反応している。


「随分と良い評価なんだね義兄さん? ボクも勧誘されるのは驚いちゃったけど、実は少しワクワクもしちゃったなぁ」


「むっ、そ、そうか。お前の作るポーションは癖が無くて、色んな用途に使えるからどこかに専属になるのは勘弁して貰いたいがな」


「そ、そうなんだ! 評判が良いっていうのは商会でも聞くけど、実際に使ってる人達の使用感も聞いてみたいなぁ」


「それは止めておいた方が……い、いや、あいつ等が大人しくさえしてくれるって言うなら、会わせて自信を付けてやりたいんだけどな……」


 ボクの作るポーションの評判を詳しく聞きたくて話を振るのだけど、肝心の義兄さんからの反応は微妙な物だった。


 聞く限りでは、悪いといった感想は無く、思っている以上に使いどころがあるみたいだ。けど、義兄さんの知り合いの冒険者の人達は元気が良すぎるのだろうか、会わせてくれそうな気配が無い。




 ボク達がそんな話をし始めると、謝罪も済んだからと剣士さん達がこれ以上は兄弟の時間の邪魔になると言って離れようとした。そこに義兄さんが待ったの声を掛けて止めに入る。


「待て、お前達。まだ俺からの話は終わってないぞ。パーティーの名前とか聞かせてくれ」


「ええっ? ま、まだ何かあるって言うんですか……? 俺達は『疾風の牙』って名前で数か月前にここに来たんですけど」


「そうか、『疾風の牙』だな。リーフの件でまた話がしたいから、後日酒の席に着き合え。飲める奴だけで良い」


 そう言って義兄さんは、お酒の席へと招待をし始める。初対面の相手にここまで好印象を持っている事に、ボクは冒険者同士ってこんなにフレンドリーに付き合いを広げるのかと感心する。


 ただ、そう思っているのはボクだけなのか、肝心の疾風の牙の面々は少し青い顔をしていた。


「ねえ、義兄さん? 剣士さん達の顔が青くなってるよ? お酒の席って言いながら、何か脅すような事があるの?」


「そ、そんな事は無い! ホントに酒を飲みながらお前の事を話すだけだ、信じてくれ」


 ボクの問いかけに、義兄さんは慌てて何の問題も無いと話し始める。




 ボクももう十六歳になるけど、お酒は全く飲んだ事が無い為詳しい事は何もわからない。義兄さんはボク位の歳の頃から冒険者ギルドのこういった席には加わっていて、何の話をしているのかは知らないけど、楽しそうで少し羨ましくも思う。


 問いかけて何もしないという保証を得ると、それならばと彼等は調子を取り戻し義兄さんの提案に乗るのだった。参加する面々を話し合って決めた後、義兄さんは剣士さん達と肩を組んで、ボクに聴こえないような体勢で内緒話をし始める。


「義兄さん? ねえ、何の話をしてるの? ボクにも少し聞かせてよ」


 お酒の席の話という事もあり、ボクもどんな内容なのかと少し気になってしまう。いつもこうやって内緒話をされるとのけ者にされてしまっている感じがして、今日こそは何の話をしているのかと聞いてみたい。


 背を向ける義兄さんの肩に手で触れると、ビクンと大きく反応して少し距離を置かれる。


「わ、悪い! 話す事は主にお前の事なんだが、内容ばかりはどうしてもお前には話せん!」

 

「またそう言うの? ボクの事について話すのに、肝心のボクには聞かせてくれないじゃない」


「お、お前の事なんだけどなぁ……これは男同士の大事な話し合いだから、お前は知らなくても良いって言うか」


 義兄さんの言い分を聞いて、意味が良くわからなくてボクはつい首を傾げてしまう。話の内容はボクについてで、更に男同士の話ならどうしてボクは聞いてはいけないのか、聞けば聞く程訳がわからなくなる。


「男同士って、ボクもそうだよ? なら今ここで話せば良いと思うんだけど……? 聞きたい事があるなら答えてあげられるし」


 内容を知りたくて、尋ねられたら答えてあげられると提案もしてみるのだけど、それでもやっぱり話に加わるのは駄目で、義兄さん達は首を勢いよく横に振っている。


「だ、駄目だ駄目だ! 連中はお前について知りたい事は山ほどあるみたいだが、それは俺が許せん!」


「もう、ずるいよ。言ってる事は意味がわからないし、ボクは駄目だって言うし、もっとわかるように言ってよ」


「悪い……お、男同士って言うのも、酒が飲める冒険者限定って意味で言ったんだ……酒が飲めないお前じゃつまらない話だと思ってさ」


「そうなんだ……うん、まあ、お酒の話はボクにはわからないから仕方ないけど、そこでボクの話が盛り上がるって言うの?」




 説明を聞く度にまた新しい疑問が出て来る。やっぱり何を言ってるのかはわからないけど、お酒の席の話はそういう物だと判断するしか無いのかもしれない。


「ああ、お前のポーションに窮地を何度も救われたって話もするから、酒が入るとその分熱も加わるんだ」


「その話は純粋に聞いてみたいなぁ、助かってるならボクも嬉しいし、聞きに行っちゃ駄目なの?」


「お前が思ってるような光景じゃ無いから、オススメしないんだ。筋肉ムキムキの酔っ払い共の集まりだぞ?」


 要するにボクに男らしさが足りていないのだと、義兄さんから暗にそう言われてしまう。うんうん唸って服の上から胸元をペタペタ触っていると、魔法使いさん達が笑い出した。


「あははは、私達あなたの事、ポーションの腕を自慢してるお高くとまった女だと思ってたけど、実際は全然違うのね」


「ポーションも自慢してるって訳でも無いし、話を聞く限り女の子と間違われるのも冒険者達のせいみたいな所もあるね」


 少し前まで鋭かった目付きもすっかり緩んだ彼女達は、ボクに声を掛ける。先程までの話を聞いていた二人の中でボクに対する印象が変わったのか、対応も何だか柔らかく感じる。


「改めて自己紹介させて、私はアネットで、こっちの子はセシリーって言うの。仲間にはならなくても良いから、あなたの事教えてよ!」


「うんうん、私達の事も教えるから、ポーションの事も使い方を教えてくれたら有難いかなって」


「本当ですか!? は、はいっ、アネットさんとセシリーさんですね! 冒険者さんの詳しい話が聞けるだなんて、楽しみだよ」


 魔法使いさん改め、アネットさんから仲良くして欲しいと提案される。ボクも義兄さん以外の冒険者の人の話を聞ける機会が得られるのは、とっても興味がある。


 お互いに軽く自分達の得意分野について話をして、後日また集まる日付を決めていく。お酒の席に呼ばれなかった代わりに、こうやって誘われる事があってつい嬉しくなって自然と笑顔になってしまう。


「わ、悪いな二人共。リーフも機嫌を戻してくれたから助かるよ。家に帰るまでにどうしようか困ってたんだ」


「リーフには私達が付き合いますから、スコールさんは後日そこの二人をよろしくお願いしますね!」


「そうよ、ライト! 冒険者の頂点と話が出来る機会が出来たんだから、気合入れて挑みなさいよ!」


 アネットさん達も、義兄さんと繋がりが出来た事で何やら新たに意気込んでいる。一時はどうなる事かとヒヤリとしたけど、こうやって無事に解決して今は良かったと思う。


 アネットさん達とまた会う日や場所も無事に決まり、ボクと義兄さんは、剣士さん改めライトさんが率いる疾風の牙の面々と別れる。彼等は今後について話をする為にまだギルドにいると言っていた。




「それじゃあ義兄さん、ボク達は家に帰ろうか。何か食べたい物はある? 今晩は義兄さんの好きな物を作ろうかと思うんだ」


「おっ! それは嬉しいな! へへっ、それなら帰る前にあの店に寄らないとな。後、装備も少し見て貰いたいから、話をするのに付き合ってくれないか?」


「それ位なら大丈夫だよ! じゃあ、ご飯の材料を買う前に先に義兄さんの用事を済ませておこうね。どんな素材を手に入れたのかも教えてね」


 ギルドを離れる前に、義兄さんと今日はこの後どうしようかと話しながら歩きだす。


 笑顔で義兄さんの顔を見上げると、義兄さんも楽しそうにボクを見て話し掛けてくれる。それが何だか無性に嬉しくて、ただ街で用事を済ませる為の会話なのに心が弾んでいくのだった。

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