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かわいいあの子は義理の兄を迎えに行く




◆◇◆




 商会にポーションを納品した日から、二日経った朝。ボクは街の中を歩いて普段は向かう事が少ない冒険者街の方へと足を運んでいる。


 ポーションの調合に使う薬草の乾燥や、細かい処理はひと段落が済み、本格的な作成段階に入る前に義兄さんの迎えに来たのだった。


 普段は商人ギルドである商会で依頼を受けているので、ボクが冒険者街の方へと来るのは中々機会が無かった。


 同じ西の国の、街の中である筈なのに、建物の造りや、歩く人の服装や、周囲の雰囲気等、見る物全てが違って見えて緊張してドキドキしてしまう。


 ボクみたいに見るからに戦う為の格好をしていない人はこの場所では珍しい為か、ちらほらと視線を感じる事もあるけど、義兄さんとここに来る事もあり、見知った顔の人も何人かいたりもする。


 そのお陰で、ボクは特別誰かに絡まれるという事は無く、屋台やお店の人達に声を掛けられて挨拶を返しながら目的の場所に向かっていた。




 冒険者街を少し歩いて、一番大きな冒険者ギルドの建物へとやって来る。大きめでしっかりとした木製の扉を両手で押して中へと入り、中の空気に緊張しながら気持ち早めに歩いて受付へと向かう。


「あら、リーフじゃない。こんなに可愛くて珍しいお客様は滅多に来ないから、今日はツイてるわ」


 化粧をした少し煽情的な服装の大人びた雰囲気の受付のお姉さんから、そう笑顔で言われつつも、ボクは挨拶をしてここに来た目的を告げる。


「お、おはようございます。今日はスコール義兄さんが帰って来るって本人から聞いていたので、様子を見に来ました」


「わざわざ迎えに来るだなんてホント可愛いわねぇ~。スコールが羨ましいわぁ。彼なら今朝無事に帰って来たわよ」


 義兄さんが帰ってきているのか恐る恐る尋ねると、笑顔のお姉さんから今朝無事に帰って来たと教えられて、ボクは安心する。今はギルドの裏で依頼された素材を納品する為の確認を行っているのだと説明を受ける。


「この時期でしかも物が物だけにね、今、聖教会や商人ギルドのお偉いさんも立ち会って素材の確認をしているからもう少し待ってあげてね?」


「聖女様の為の素材なんですよね……そんな大きな仕事をこなすなんて、やっぱり義兄さんは格好良いなぁ」


 聖女様の為の依頼であり、それをきっちりと達成したのが義兄さんという事もあり、ボクは憧れと尊敬が同時に押し寄せて受付の前で感動してしまう。興奮でドキドキしてきた胸を押さえつつ、落ち着く為に深呼吸する。


「す、凄いです……ボクは今、物語の一節が刻まれていく瞬間を見届けているんですね……」


「うっふふ、そうやってきちんと感動を噛みしめてくれる子が身近にいるなんて、スコールも幸せ者よねぇ」


 義兄さんが側にいたら、これ位大袈裟だと笑われてしまうのだろうけど、ボクからすれば歴史が大きく動いていく瞬間なのだ。受付のお姉さんも笑わず、どうしてかボクを見て優しく微笑んでくれていた。


「朝からとっても素敵な物を見せてくれてありがとうね、リーフ。頃合いを見てあなたが来てる事を彼に教えるから、少し待つと良いわ」


「は、はいっ! 義兄さんの事を教えてくれてありがとうございます。邪魔にならない所で待ってますから、お願いします」


 お姉さんから何故かお礼を言われ、後はこちらで声を掛けるからと少し待つ事を提案される。ボクはそれを了解し、彼女にお礼を言って受付から離れる。




 義兄さんを待つ間、ボクは冒険者達が普段どんな依頼を受けているのかがふと気になり、周りの迷惑にはならない範囲で建物内を見渡す事にした。


 ボクみたいな人でも迷惑にならない場所は無いかと見ていると、街中で受けられる日替わりの依頼書が張り付けられてあるボードを見つけるのだった。その近くを見てみると、ボクよりも少し歳が下くらいの子達があれこれ話し合ってボードに貼られた依頼書を手にして受付へ向かう姿があった。


 今は丁度そこに人はいない状態になったので、どんな依頼が用意されてあるのか気になり近付いて内容を確認する事にした。


「色んな依頼が書かれてて凄いね……思っていたよりも街の人達が利用してるんだ」


 ボードの依頼には、猫探しや、子守りや、薪割り等といった、簡単なお悩み解決の依頼から雑用等と言った内容ばかりが並んでいた。


「あはは、あそこの家の猫ちゃんは、しょっちゅう街に遊びに行ってるなぁ。聖教会でも子守りの依頼を出すんだね」


 薪割りや荷物運びといった、力仕事等はボクには向いていないなと思いつつ、子守りは楽しそうかなと考える。


 子供の事を考えると、そういえば幼い頃は義兄さんとよく森へ薬草を採取しに出かけていたなと、昔を思い出した。


 今では商会の依頼で基礎ポーションを作る事が主になってきているので、自分から薬草を採取に出掛けるような事はしなくなっていた。


 用意された素材を使う事が基本になりつつあるなと思い、薬草採取の依頼はどんな手順で行われているのだろうかと気になってしまう。




 改めてざっと依頼書を見渡して、ここにある物は全て街中で受けられる依頼である事を再度確認する。


「薬草採取の依頼書はここには無いのかな。森まで出掛ける必要があるから、多少は装備も必要になるの?」


「ははっ、そうだよリーフさん。街から離れた奥の方に行くと、道から外れて魔物と戦う可能性も出てくるからね」


 依頼書のボードを見つめながら一人で呟いていると、突然後ろから声を掛けられる。もしかして長い事ボードの前にいたから迷惑をかけているのかと振り向くと、そこには歳の近い冒険者のパーティーがいたのだった。


 ボクの名前を知っている事もあり心当たりを少し考え、数か月前から家がある森方面の依頼をよくこなしているパーティーだと気が付く。


「お、おはようございます。最近森の方の依頼をよく受けているパーティーの方達ですよね?」


「ああ、あの森には薬草採取の他にも、猟師の依頼も受けて魔物の討伐なんかもやってるからね」


 パーティーは男女二人ずつの四人で構成されていて、革と金属で組まれた鎧を着て腰に剣を携えた、薄茶色の髪の剣士風の冒険者の男性が代表してボクに話し掛けてくる。


「おっと、自己紹介がまだだったね。俺はライトって言って、後ろにいるのはタイロンに、アネットと、セシリーって言うんだ」


 他のメンバーの人は、黒い短髪の戦士風の男の人と、赤い髪を纏めた魔法使いの装備をした女の人と、ボクと同じ位の長さの青い髪の軽装備で弓を持った女の人が後ろにいる。


 僕に話し掛けて来た彼の後ろにいる女の人二人は、何だかボクを見る目がどうしてかキツめに感じられ、何か嫌われるような事をしただろうかと不安になってしまう。


「田舎だとお使い用の依頼ボードに薬草採取もあるんだけどね、大きな街になってくると個人の規模じゃ無くなるんだ」


「そ、そうなんですね。ご丁寧にありがとうございます……薬草採取は別になるんだ」


「そうそう、結構本格的な依頼の欄に用意されてるから、初めてこの街に来た時は俺達もびっくりしてさ」


 剣士さんは自身の体験談をボクに話して来る。それだけであったなら軽く会話をして、満足するまで話を聞いてあげれば良いだけなのだけど、何やら様子がそれとは違うように感じられる。




 薬草採取の話から、剣の腕前や、パーティーの連携、倒した魔物の種類等、ここ数か月の活動を話して来る。


 冒険の話は、義兄さんからもよく聞かされて、ご飯を食べる時にも楽しく話してくれるからそれ自体は全く苦には感じない。けど、彼の様子は自慢話では無い気がする。


 どこかそわそわした様子になった彼は、一通り話をした後にボクに尋ねて来る。


「リ、リーフさんは……その、ポーション作りが得意で、回復魔法の心得もあるって聞いててさ……」


「う、うん。普段は商会で基礎ポーションの納品依頼を受けてて、今日ここに来たのは用事があったからなんだけどね」


「実は、俺達、そろそろ本格的に上を目指そうって思ってて、そこで回復手段に長けた人がパーティーに欲しくってさ……!」


 剣士さんが顔を赤くしながら、真剣な目でボクを見てそう告白して来る。それに合わせて後ろで魔法使いさん達の顔も更に険しい物になっていた。


「た、頼む! リーフさん! 俺達のパーティーに入ってくれないか!」


「えっ!? ええっ!? ぼ、ボクをパーティーに!?」


 突然勧誘をされ、剣士さんはボクの手を両手で握って来る。ただの勧誘にしてはその手はやたら熱の篭った感じがして、思わず困惑してしまう。


「そんな、と、突然言われても困るよ! 今日は依頼から帰って来る義兄さんの迎えに来ただけだから!」


「そ、そうよっ! ライト、アンタそんな勧誘の仕方ってどうなのよ! リーフって子も困ってるじゃない」


 ボクが困ってしまうと、後ろにいた魔法使いさんが剣士さんの名前を呼びながら止めに入ってくれる。どうやら嫌われている訳では無いと安心するけど、彼は尚もボクの手を握ったまま放してはくれず、その顔も諦められないといった物だった。


「だ、だけど、アネット! リーフさんがここに来てくれた今が絶好の機会なんだ! 彼女のお兄さんだって、俺が説き伏せてみせるから!」


「なによそれ! アンタ一体何処でそんな女の子の口説き方を覚えたのよ! それ、間違ってるから! いいからやめなさい!」


 魔法使いさんの制止も聞かず、絶対にボクをパーティーに入れたいという意思を見せる剣士さん。


 そして、彼等はごく自然に僕を女の子扱いしている。一応男物の服を着ている筈なのに、どうして間違われてしまうのだろう。


 冒険者からして見れば、貧弱に見えるのが原因なのかな……こんなボクをパーティーに入れたいだなんて、魔物と戦える気がしないけど、ボクが首を縦に振らないと解放してくれなさそうでもある。


 どこから説明すれば良いのかと慌ててしまうと、彼の後ろから大きな人影がやって来る。




「よお、朝から随分と熱烈な勧誘をやってるなぁ……お兄さんを説き伏せてみせるんだってな……? お望み通り来てやったぞ?」


「に、義兄さんっ! 顔、こ、怖いよ!? ボクは大丈夫だから落ち着いて!」


 ボク達の前にやって来た大きな人影は、暗い青色の髪に、紫色の鋭い目つきを更に尖らせ、普段は精悍な格好いい顔をしているけど、今はとっても怖い顔をした義兄さんだった。

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