自己嫌悪
「く、苦しい」
「ごめんね、お腹がいっぱいだったことに気づかなくて」
「お腹がいっぱいって言いましたよね!」
二人はアンナが腹一杯で動けなかったので座って休憩していた。
するとワルトが悩み込んだ様子で尋ねてきた。
「……ねぇ、アンナちゃんはどんな暮らしをしてきたの?」
「っつ!」
「僕の予想だとアンナちゃんは貴族だったと思うんだよね。それに魔法や火に対する反応から、火の魔法を失敗……いや暴発かな?それで家族から疎まれてたんじゃない?」
唖然として言葉が出なかった。それは何から何まで当たっていて、ひどく驚いたからだった。
「それもかなり酷い扱いを受けてきたのかな?利用価値がないとか言われたり、それにさっき食べた肉で泣くってことはろくな食事も食べさせて貰えなかったってことがわかるよ。でもアンナの口から何があったのか言ってくれない?」
「……何で急にそんなことを聞くんですか?」
ワルトが急に尋ねてきたことに理解ができなくて、それに自分の過去のことを言いたくなくてアンナは質問をした。
「それはね、僕が手助けするためには知らないといけないから。辛い過去から目を背けるのもいいけど、アンナの場合は前に進めていないからね」
「……ワルトさんのそれは余計なお世話ですよ。実際に私は努力出来るような人になろうとしています」
アンナはワルトがどういう事を言おうとしているかをわかっていたけど、それを言われたくなくて話を逸らそうとした。
それでもワルトは首を横に振っていた。その様子を見てアンナは話を逸らせないことを察して諦めた。
「確かにアンナちゃんは頑張っているよ。でも僕が言っているのはその事じゃなくて、アンナちゃんが自分の事を嫌っていて、少しも認めてない所だよ。そのままだともし努力出来る人になっていても、それを認めることはないでしょ」
何も言い返せなかった。自分でも自覚して居る事を改めて他人に言われて、それでも直せるように思えなくて叫ぶように言い返した。それ今までずっと溜め込んでいたものが一気に溢れて出たようだった。
「でも仕方ないじゃないですか!私は魔法を暴発させて右腕に大きな火傷を負って貴族の娘としての利用価値が無くなったんですよ。冷たかったけれど優しさもあった父親から暴力を振るわれて、今まで優しかった母親からも見捨てられ、面倒見が良かった兄にはゴミみたいに扱われて私に自信なんて持てるわけないじゃないですか!あの時すごく熱くて怖かったけれど、それより火傷が残った後の家族の目の方がずっと嫌でしたよ。今までとはまったく違っていてそれがどれだけ怖かったのか知っていますか、食べる物もゴミ箱に入っているような物ばかり、水をかけられたりするのは日常茶飯事で、そんな状況になったのは私が魔法を暴発させたからですよ。全部、私のせいなんですよ。そんな私の事を好きになれるわけないじゃないですか!」
アンナは気づいたら涙を流して叫んでいた。
「……どうすれば良かったんですか?あの時、私は一生懸命に魔法をコントロールしようとしたんですよ。それでも魔法が暴発して、私には才能が無いからこうなる事は避けられないじゃないですか!」
それは今までずっと思っていたことだった。何が悪かったのか、どうすれば家族として認められたんだろうか、何でこうなったんだろうか、そんな思いをワルトにぶつけていた。
「そうだね、僕もアンナちゃんの立場ならそう思っていたかもしれない。でもね、アンナちゃんは今のままでいいの?これから一生自分のことが嫌いのままで」
「……そうですよ、一生今のままでいいんです」
「本当にそれでいいの?自分のことが嫌いだと自分のことを傷つけていって、生きること楽しくなくなるよ」
何度の言ってくるワルトに対して段々苛立ちが募ってきてアンナは嫌気がさした。
「それで良いって言っているんですよ」
「じゃあ、何で生きているの?」
その言葉のせいで息が詰まった.何故なら自分のことが嫌いなのに、何で生きようとしているのかわからなかったからだ。
そのことに気づいてアンナは何も言い返せなかった。
「どうしたの?もしかしてとりあえず生きているだけ?」
「……じゃあ、何のために生きていたらいいんですか⁉自分のことが嫌いな人は生きている価値がないっていうことですか⁉」
アンナはワルトの言葉に怒りを覚えて叫んでいた。生きる目的は無かったとしても、生きていたくて。
するとワルトは首を振って答えた。
「違うよ。僕の考えはね、今は自分のことが嫌いでも自分のいいところ、好きなところを見つけていってそのうち自分のことが好きになればいいんだよ、どんなに時間がかかってもいいから。そうしたらね、毎日生きていることが楽しくなるから。でもアンナちゃんの場合はその逆、自分のことを嫌いになろうとしる、それがだめなんだよ。アンナちゃんはどう思う?」
「……そんなの、できるわけないじゃないですか……」
アンナにとってそれはとても難しいことだった。もし自分の好きなところを見つけても、すぐにそれを自分で否定したくなるからだった。
「うん、これはとても難しくて、辛いことかもしれない。それでも僕は必要なことだと思う」
アンナは即答できなかった。難しさや辛さをよく理解していたから。
その様子を見たワルトは優しく笑いながら言った。
「アンナちゃん、努力出来るような人間になるって言っていたでしょ、このことができないと一生なれないよ」
「あっ!」
自分が言って言葉によって退路を塞がれていたことに気づいたアンナは諦めてワルトが言ったことをしようと思った。
それでも素直になれなくて投げやりな口調で言った。
「わかりましたよ、これから自分のことをすきになろうとします」
「良かった、アンナちゃんが自分のことを好きになろうとしてくれて。これでも駄目だったらもう打つ手はなかったよ」
アンナの返事を聞いてワルトはとても喜んでいたように見えた。その様子を見たアンナはどうして他人をそこまで真剣に救おうとするのか疑問に思ったけれど、それを口にしなかった。
「それじゃ、結構時間がたったから出発しようか」
「わかりました。後、自分のことを好きになるのを手伝ってくれますか?」
アンナは自分のことを好きになる自信がなかったから、ワルトに頼んだ。その言葉を聞いたワルトは優し笑っていた。
「もちろん、全力で手伝うよ」