木の実
「じゃあ、行ってらっしゃい。気をつけて」
門番の人に見送られながら二人は街から出た。
西の方には二人が越えなければならない山があり、それを見てアンナは息を呑んだ。
「アンナちゃん、緊張してる?」
ワルトが心配そうに声を掛けてきた。アンナは強がって「緊張してないです」と言うと山の方へ歩き出して、急ぐようにワルトへ呼びかけた。
「早く行きましょうよ、ワルトさん」
「そうだね、アンナちゃんは街の外に出るのは初めて?」
しばらく歩いて、ワルトが尋ねてきた。
アンナは少し考えた後、余り思い出したく無いような様子で言った。
「一度だけ外に出たことはあります。良い思い出はありませんけど」
そのときの出来事は屋敷でのアンナの扱いが悪くなったきっかけであり、トラウマでもあったので思い出したくなかった。
するとワルトは元気づけるようにして「それじゃ、これから良い思い出を作ろっか」と言った。
「余り気にしないでいいですよ。それより、私が手伝わなければならない事はいいんですか?」
アンナはずっと気にしていた事を聞いた。それを聞いたワルトは少し考えて言った。
「それはまだいいよ。1回しか街の外に出たことが無いなら今は知識を身につけた方がいいかな」
そう言ってワルトは近くの木にあった赤色の木の実を取ってアンナに渡した。
「まずはこの木の実を食べてみて」
その木の実は見たことが無くて、どんな味がするのか気になって口の中に入れた。
「辛っ!」
それはアンナが今まで食べた中で一番辛くて泣き出しそうになった。
「はは、まだアンナちゃんには辛かったか。はい、水を飲みな」
アンナは渡された水を勢いよく飲むと、笑っていたワルトに腹が立ち、睨みつけた。
「なんでこんなに辛い物を食べさせるんですか?死ぬかと思いましたよ」
「ごめんね、知ってもらいたいことがあったからさ。もうそろそろ体になにか変わったことが起きてない?」
言われてみると体が暖かくなってきて、少し体が軽くなったようや気がした。
「え?どうなっているんですか?大丈夫ですよね?」
アンナは初めての感覚に戸惑って慌ててワルトを問い詰めた。
ワルトはそんな様子のアンナを見て笑いながら言った。
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。この木の実にはねいろんな効果があって、例えば体力の回復や魔力の回復、それに体温を上げる作用があるんだよ」
ワルトはそうやって優しく教えてくれた。アンナは自分の体に起きたことと照らし合わせてその効果の高さを理解して、まだまだ自分の知らないことがたくさんあるんだなぁと思った。
ふとアンナは疑問に思ったことをワルトに尋ねた。
「でも、なんでこんな効果がある木の実が街で売られていないんですか?こんな効果があったら売れると思いますけど」
するとワルトは少し驚いたようにして言った。
「良く気づいたね、アンナちゃん。それはねこの木の実は取ってから1時間しか効果が続かないんだ。だからこの木の実を売ろうとした時にはとっくに効果が切れてしまって売り物にならないんだよ」
まあ、この辛さが好きなんだっていう物好きな人には少し売れているんだけどねと続きながらワルトは言った。
「それでも冒険者の中では結構有名なことでね、この木の実のおかげで生き延びたっていう人も中にはいるくらいだよ」
アンナは木の実のことを教えてもらって、冒険者の人たちと自分との間で大きな知識の差があることにとても驚きいた。
「そうなんですね、ということは町の外には私が知らないことはまだまだ溢れているんですか?」
「そうだよ、町の中で知れることなんて町の外で知れることに比べたらほんの少ししかないんだから」
そしてワルトは胸を張って言った。
「僕は町の外のことには結構詳しいから、気になることはどんどん聞いてね」
そう言われたアンナはずっと気になっていたことを訪ねた。
「それならなんで木の実を食べる前にとても辛いことを教えてくれなかったんですか?」
ワルトはそう言われて少し言い淀んで言った。
「……それはね、アンナちゃんを驚かせたかったから……」
それを聞いたアンナは腹が立って、ワルトの腰をぽかぽかと殴りながら言った。
「そんな理由で私に何も教えないで木の実を食べさしたんですか!ふざけないでください!本っ当に辛かったんですよ!」
「ご、ごめんって。それに次にこの木の実を見た時にこんなことがあったなぁって思い出してほしかったんっだよ」
「そんな思い出なんていりません!こんなことをしていたら日が暮れますよ、さっさと行きましょう」
そう言ってアンナは急いで歩いて行った。ワルトの話に付き合っていたらどんどん腹が立つような出来事が起こるような気がして、話す気にならなかったからだ。
「本当にごめん、謝るからちょっと待って」
「…………」
「あ、返事もしてくれないの?本当に反省しているから許してよ」
アンナが口をきいてくれるまで少し時間がかかった。