進んでいく
「んっ……あれ、ここは?」
アンナは目が覚めて辺りを見渡すと、そこは四角い部屋の中だった。
「あっ、起きた?大丈夫?」
急なことに混乱しているアンナに女性の冒険者が声をかけてきた。
「あっ、はい。大丈夫です」
頭痛はまだしているものの満足に動けるところまで回復していたので、心配してくれた女性に対して元気であることを伝えた。
「良かった、私たちのせいで大きな怪我をしてなくて。もし、そんなことになっていたらあの男どもを半殺しにしていたけど、そんなことはしなくて済んだんだ」
急にものすごく過激なことを言っていたのでアンナは驚いてしまい少し後ろに下がった。今までは優しい人という印象を持っていたが、そんなものは一瞬で砕け散った。
「ああ、ごめんごめん。驚いたよね、そんなことはしないから安心して」
その人はそんなことを慌てていっていたけども、あの時の目は本気の目をしていたため、その言葉を全く信じることはできなかった。
「そ、そんなことより、ここはどこなんですか?」
アンナは怯えながらもずっと気になっていたことを尋ねた。今いる場所は気の壁に囲まれていて外が見えず、そして絶え間なく振動がアンナの体に伝わっていたからだ。
「ああ、それはね、馬車の荷台の中だよ。こっちに来れる?ここから外を見て」
その女性に言われた通りに近づくと、そこは外が見れるようになっていて、かなりの速さで馬車が動いていることがわかった。
「ど、どこに向かっているんですか?」
「ノルラインだよ。ああ、ごめんね。勝手にこの馬車に乗せちゃって。街に行きたくないんだったらすぐに馬車を止めるけど」
アンナは今乗っている馬車が旅の目的地に向かっていることに驚いて、目を見開いていた。
「えっ、このままノルラインに向かうんですか?こ、このまま乗らせてください!」
「う、うん。乗っていいから落ち着いて」
「は、はい」
女性の冒険者から落ち着かされて、アンナはやっと冷静になった。その様子を見ていた冒険者はアンナが落ち着いたことを確認してずっと気になっていたことを訪ねてきた。
「私はミナ、銅級冒険者なんだけど、君は誰?何で山の中にいたの?」
「そ、それは…………」
「君はその年でかなり強い。さすがに金級冒険者までは強くないけど、数年いや、一年もしたらそのくらい強くなるかもしれない。私たちを助けてくれたから善人なのはわかるけど謎なことが多すぎるよ」
それは当然の疑問だったので、正直に答えるしかなかった。屋敷での暮らし、ノルラインに行こうとした理由、ワルトさんとの出会い、上位種との戦い、ワルトさんとの死別、そして一人で進んでいた時に起きたこと。思いつくこと全てを話してミナの反応を待っていた。
そして、しばらくたった後、ミナが口を開いた。
「え?てことは一人で山を下りて来たっていうこと?しかも上位種と戦って勝った?すごいね、こんなこと予想してなかったよ」
「で、でも上位種に勝てたのはワルトさんとの戦いで傷を負っていたからで」
「それでも、普通は手負いの上位種相手でも勝てないよ。自分に自信をもって、アンナちゃんが成し遂げたことはすごいことなんだから」
そんなことを言われても、自分のことを誇れる気がしない。
自分の不注意でワルトが死んだのだ。残り少ししか生きていられなくても、その事実は変わらない。
その事がずっと心の中に残っていて、アンナを苦しめている。あの時、焦っていなければ。あの時、周りをしっかり注意していれば。今ここにワルトさんがいたかもしれないのに。
「そんなに自分を責めないで。確かにアンナちゃんのせいでそうなったのかもしれないけど、その人はアンナちゃんに苦しんで欲しいなんて思っていないよ」
「で、でも……」
「ストップ、でもは禁止。それにアンナちゃんはまだ子供何だよ。これからずっと生きていくんだから前を向うよ」
そう言ってミナが抱きしめてきた。今まではずっと一人で悲しんでいる暇など無かったから我慢できていた物が溢れ出そうになる。
だけど、それが恥ずかしくてミナの体に顔を押し付けてそれを隠す。
「ミナさんだってまだ子供でしょ。何でそんな年寄りみたいなことを言うんですか」
「ははは、確かに私は子供だけどアンナちゃんよりかは長く生きてるからね。あと、ここには私しかいないから我慢しなくていいよ」
その言葉でアンナは我慢することをやめた。ずっと、ずっと泣きたかった。ワルトさんが死んだことが悲しくて。
だけど、泣いている暇なんて無かったからずっと我慢していなければならなかった。
「いいよ、そのまま泣いてても。それにありがとうね、アンナちゃんがいなければ私は死んでもおかしくなかったから」
ミナが優しく頭を撫でてくる。その優しさが本当にうれしかった。
しばらく時間が経ち、もう街が見えてくるほど近づいた時にはもう泣き止んでいた。
「大丈夫?まだ泣いてもいいよ」
「泣きません!何回言わせるんですか!」
泣き止んだ後、物足りなかったのかミナがもう一回泣かないか何度も訪ねてくるので嫌になって怒っていた。
「何でそんなに泣いてほしいんですか⁉」
「んー、かわいかったから?」
「もう二度とミナさんの前で泣きません!」
「えー」
まあ、そんなことを言ってきたのはアンナを元気にするためだったのかもしれないけれど、それでも怒ったことには後悔はない。
「よし、着いたよ。降りよっか」
馬車が止まり、二人は二台が降りていく。そこには商人やあの時茫然としていた二人の冒険者がいた。
「あのーミナ、ごめんって」
「うるさい、魔獣がいるのに茫然としてたことはまだ許してないから」
「荷台から追い出されるっていう罰を受けたからもう許してよ」
「うるさい」
ミナはその二人の冒険者のうちの片方とそんなやり取りをしていた。そして、もう一人の冒険者がアンナの方にやってきて頭を下げた。
「本当にありがとう。あの時君が助けていなければ僕たちは死んでたかもしれない。君も危なかったのに助けてくれたことは感謝してもしきれない」
「えっ、あ、あのっ、顔を上げてください。私は感謝されるような人じゃ」
突然のことに混乱し、アンナはてんぱっていた。
「アンナちゃんは私たちを救たんだから胸を張ってて。ほら、ガイ、あんたもさっさと頭を下げろ」
「いてて、わかった、わかったから頭を引っ張るなって!」
そう言ってもう一人の冒険者がミナに頭を押さえつけられながらアンナの方に頭を下げていた。
「ありがとう、君のおかげで生き残れた」
突然感謝を伝えたてたことに混乱して頭が真っ白になる。でも、あの時、人助けができたからこんなことになっており、ワルトさんのような人に少しだけ近づけたことだけはわかる。
「アンナちゃん、これからどうするの?」
ミナが質問してくる。その問いの答えはまだ決めておらず、とりあえず祖父母のところに尋ねてみることだけを伝えた。
「そっか、良い人たちだといいね。何かあったら私たちに頼ってよ。力になれないかもしれないけれど、全力で助けるから!」
そんな約束をしてミナ達と別れていった。この後はどのように生きるのかは決めていない。貴族に戻るのかもしれないし、もしかしたら冒険者になるかもしれない。
だけど、一つだけ決めていることがある。それはワルトさんのような、他人のために頑張れる人になるっていうこと。その夢のために今後も全力で生き続ける。
「よし、行こう。夢のために」
これからどうなるかはわからない。嬉しいことも悲しいことも、挫折することだってあるかもしれない。だけど、夢は絶対に諦めない。そう決めて歩いていく。
これでこの作品は完結します。今まで読んでくださって本当にありがとうございました!