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後悔

「……僕はね、本来なら少しも動けないような状態なんだよ」

「え?でも今まで動いていましたよね?」

 ワルトの言葉が信じられなかった。もし、その言葉が本当なら上位種と戦えていたことが説明できないからだ。

「昨日の夜にも言ったけど、内臓に魔力を流すことで病の症状を抑えているんだよ。ただ、少しでも魔力制御を間違えると一気に今までの負担が押し寄せてくるから僕はこんな状態になったんだよ」

 それは信じられないことでアンナは絶句した。少しのミスも許されない魔力制御を常に、寝ているですら行っているということだったからだ。

「……もしかして、上位種との戦いの時もそれを続けていたんですか?」

「そうだけど?」

 ワルトは首をかしげて言った。少しでも魔力制御を間違えると一気に負担が押し寄せてくるんだから上位種との戦いの間もそれを続けるなんて当たり前でしょ、とでも言いたそうな顔だった。

 しかし、まだ普通の戦いの間に続けるのなら理解できたがあの戦い、上位種との戦いは違う。

 あの戦いでワルトは他人の魔法を奪うという神技を行っていたのだ。それを病を抑えるために内臓を強化しながら行っていたならばそれは神技どころの話ではない、言葉では説明できないほどの難易度の技術だった。

 何故そこまでして依頼を受けて人助けをしているのか、少し前のアンナなら理解できなかっただろうが、上位種との戦いで成長したアンナには理解できた。

 英雄への憧れ

 英雄に憧れている理由は知らないが、ずっとワルトを見てこの旅を続けていたのだから青の気持ちがどれだけ強いのかはわかっている。

「休憩もこのくらいにして出発しようか」

 だからこそ、ワルトはまだ止まらず、死ぬまで歩き続けることが予想できていた。その言葉をワルトが言うことも覚悟していた。

「…………………………」

 本当なら今すぐここでワルトを止めて安静にさせたい。でも、ワルトはそんなことを望んでいないことを理解しているし、どれだけ言っても止まってくれないことも予想できる。

 おそらくワルトの望みは命が尽きるその時までアンナのことを守ることだということは理解している。

 でも、私の望みはワルトさんにできるだけ生きていてほしいということだ。ワルトさんが安静にせず、このまま出発した場合は明日まで命が持つかわからない、そんな状態だからアンナは素直にワルトの望みを受け入れようとは思えない。

(あの時、しっかり周りを注意していればこんなことにならなかったのに)

 ワルトは後一か月生きることができたはずなのに、今死にそうになっているのは斜面を転がり落ちていた時にアンナを庇っていたからだ。その時の衝撃がワルトにダメージを与え、身体強化でごまかせないくらい体の調子を悪化させ、今このような状態になっている。

 でも、後悔したところで何も変わらない。今はワルトさんの望みに従うか、従わないかについて考えるべきだ、後悔してる暇なんてない。

 ワルトの様子を見る。顔から血の気が引いていて、見るからに死にそうな様子で、安静にさせたとしても意味がないことが理解できる。もうどんな手段をとってもワルトが死ぬことは確定していた。

「……わかり、ました。……出発……しましょう」

 そんなことは言いたくない。だけど、安静にしたところで何も変わらないならワルトの望みを叶えたい。そう思ってアンナは何とか声を出した。その声はとても小さく、近くにいる人でさえ聞き取ることができないほどだったが、しっかりワルトには伝わっていた。

「ごめんね。でも、ありがとう。僕の我儘に付き合ってくれて」

 

 ワルトだって理解している。アンナがどれだけワルトに死んでほしくないと思っているのか。

 今までワルトは自分が死ぬことをあまり気にしていなかった。なぜなら、自分が死んでも悲しむ人なんていないと思っていたから。実際は武器屋の老爺や薬屋の老婆など悲しむ人はたくさんいるが、ワルトは気付いていなかった。いや、それに気づかないようにしていただけだ。

 ワルトには救えなかった命がたくさんある。どれだけ頑張っても実力が足らないことなんてたくさん経験してきた。自分は英雄なれない、ずっとそう思ってきた。

 だけど、アンナが教えてくれた、みんなの英雄になれなくても、誰かの英雄になっていることを。もしかしたら、アンナ以外にもワルトのことを英雄だと思っている人はいるかもしれない。いや、きっといるだろう。だって、ワルトはずっと人助けを続けていたんだから、救えなかった人もたくさんいるが、救えた人もたくさんいる。

 だから、自分が死ぬと悲しむ人がいることも理解した。でも、もうどうしようもない。街は遠くて、戻ろうとしても間に合わない、病のことを伝えたのは二人だけだから別れを言えない人もたくさんいる。

 後悔はしている、もっと自分のことを認めればよかった。そうしていれば別れを言えたかもしれないのに。でも、それはできなかったから、その代わりに最後の瞬間まで自分らしく生きようと思った。そうすれば、みんなは「ワルトらしいな」と言って笑ってくれるような気がしたから。だからワルトは歩き続ける。

「ああ、よかった。死ぬまでに気づいて。僕は十分救われた」

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