運命の出会い
本日、二本投稿します、4時くらいに投稿しますのでもしよければ読んでください
二人が登っている時だった。
二人はかなり進んでいて、そこは木が少なくなり、地面は岩が多くなっていたが、それでもまだ雨は降っていて二人の体は雨粒にたたきつけられていった。
強化している聴覚が魔獣たちの足音を聞き取った。
「またですか?こんなに魔獣を巡回させていたら上位種の近くにいる魔獣ないていなくなりませんか?」
「うん、そうなるはずなんだけど。この群れは魔獣の数が多いのかな?」
魔獣の足音が聞こえる回数がとても多くて二人は疑問を抱いていた。それも山を登るのが初めてなアンナだけでなく、何回も経験しているワルトでさえも疑問を抱いていた。
「まあ、今のところは避けられているし、ここから先は少なくなると思うから大丈夫だよ」
二人がそんなことを話している時だった。
石が転がってくる音がした。
そこはもともと何も音がしていなくて、偶然石が転がってきただけだと思っていた。
でも違った。
ソコには3匹の魔獣がいて二人の方を血走った目で見ていた。
「え?」
信じられなかった。二人はしっかりと聴覚を強化していたはずなのに、魔獣が接近してきたことに少しも気づかなかった。
「――なんで」
そしてソレは上位種に見つかったことを示していた。今から魔獣を全滅させたとしてもそれは変わらない。
いくら一対一で勝ったことがあっても、上位種は群れを率いているから基本は多対一、それに悪天候による地面のぬかるみ、しまいにはアンナという足手まといがいる。こんな状況で上位種に勝てるわけない。
そのことを理解しているアンナは絶望した。
ワルト一人ならこの状況から生き延びることができるかもしれないのに、自分がいるから生き延びることができない、そんな自分の無力感に打ちのめされていた。
ズバッ
ワルトの行動は早かった。魔獣を見るとすぐに大剣を手に持って魔獣たちを切り裂いた。
だけど状況は変わらない、上位種に居場所が見つかること、魔獣の接近に気づかなかった理由、しかしそんなことを気にする暇はない。
「アンナちゃん、逃げるよ」
もう手遅れかもしれない、でも少しでも可能性があるなら諦めるわけにはいかなかった。ワルトの理想の英雄はそんな状況でも諦めたりしなかったから。
自分が英雄ではないことはとっくにわかっている。でもそんなことは関係ない。最後の最後まで足掻き続ける、絶対にアンナを守る。
ワルトは茫然としているアンナを抱きかかえて走り出した。
アンナは何もできなかった。ただワルトの抱きかかえられているだけ、自分にできることなんて何もない、そう理解していても悔しいかった。
あの時、ワルトが一瞬で行動していたけれど、自分は茫然としていて動けていなかった。
自分はずっと守られているだけで、何も変わっていない、ワルトの役に立つことなんて何もできていない。
そんな自罰的な考えに陥っていた。今はそんなことを考えている暇なんて無いのに、生き残るために必死で頭を使わなければいけないのに、アンナはそんなことを考えていた。
でもそんなことを考えている時間も終わる。
目の前の岩をワルトが乗り越えた時、目に映ったものは信じられないものだったから。
無数の魔獣が殺気立った目で二人を見ている。
それらは二人を逃がさないように取り囲んでいて、逃げられないことも理解できた。
そして奥の方にいる一匹の魔獣は次元が違った。
ソレは二階建ての建物くらいの大きさで漆黒の体毛を纏っていて、一目で上位種だと理解させてくる姿をしていた。
「――――っ!」
ソレと目が合うと死が目の前まで迫ってきているような気がして、アンナは尻もちをつ
いた。
「タンぺートウルフ」
ワルトがそう呟いていた。
タンぺート……嵐という意味の名を持つ上位種、ソレが上位種の正体だった。
「そうか、そういうことか。風を操ることによって居場所を気づかせなかったのか!」
今までの謎が全部解決した。足音を風に乗せることによって本来魔獣がいない場所に魔獣をいるように錯覚させ、逆に魔獣がいる場所からは風を操って音を届かせないようにすることによって二人はここに誘導されていたのだった。
ソレは人間と同等の知能なんかじゃない、そんなものは超えていた。
こんな罠を仕掛けるためには遥か遠くから魔法を完璧に制御する必要があり、そんなことは人間の頭脳ではできないからだ。
そして無数の魔獣たちが二人に襲ってくる。上位種が前に出てくることはなく、魔獣たちに戦わせることによって二人を弱らせて自分の身に危害が及ぶ可能性を極限まで減らそうとしているようだった。
ズバッ
それはワルトが魔獣たちを切り裂く音だった。大剣から放出された魔力が魔獣たちを切り裂いていく。
一気に複数の魔獣を切り裂いていて、魔獣をアンナに近づけなかった。
ズバッ
それは魔獣たちが切り裂かれた音ではない。ワルトの腕に切られたような傷ができて真っ赤な血が流れていた。
「わ、ワルトさん!」
それはタンぺートウルフの仕業だった。遠くから風の刃でワルトを切っていたのだった。それも魔獣たちを盾に使うことによって安全な位置から攻撃していた。
そして絶え間なく魔獣が襲ってくる、それをワルトは腕の傷を気にせず大剣を振って切り裂く、その時にできた隙にタンぺートウルフが風の刃でワルトを切る。
そんなサイクルができていて気付けばワルトは全身に傷を負っていた。
それをただアンナは見ていることしかできなかった。ワルトを死なせたくないのに、何もできず、ただ見ているだけ。
そんな自分に嫌気がさした時だった。
『利用価値がない、能無し、ゴミ』
そんな自分の声が聞こえた。