雨が降った日2
遅くなってすみません
それは二人が山の中腹に二人がたどりついた頃だった。雨の強さは変わらず、絶え間なく体に当たり続けて二人はかなり体を濡らしていた。
「アンナちゃん、大丈夫?」
まだ若く体が小さいアンナを気遣ってワルトが声をかけてきた。
ぬかるんでいる地面は今まで山を登ったことが無いアンナにはかなり負担になっていて、それに加えて聴覚の強化し続けて雨が降っている山の音を聞き分けることが負荷をかけているのはあきらかだった。
「……問題ありません」
でもアンナには急がなくてはならない理由があって、ここで休むわけにはいかなかった。さらに身体強化によってあまり体が疲れておらず、このまま進めることも本当だったのでここで止まる理由なんてなかった。
「それなら進み続けるからね、しんどくなったら何時でも言うんだよ」
二人がそんなやり取りをしていた時だった。
強化している聴覚がある音を聞き取った。
「この音は?」
「まずいね、上位種ではないけれど群れが近くに来ているね」
それは魔獣たちの足音だった。まだ聴覚の強化ができるようになってから少ししかたってないアンナには正確な数はわからなかったが、少なくとも十匹以上いることはわかった。
「で、でも上位種がいないんだったら問題ありませんよね?」
今までワルトが一瞬で戦いを終わらせていたから、十匹以上いても問題ないだろうと思って、ワルトに問いかけた。
しかしワルトの返答はアンナを安心させるものではなかった。
「確かに十匹以上いても倒すことはできるよ。でもね魔獣の数が増えるっていうことは群れの中心に近づいて行っているということなんだ。ごめんね、予想を外した。こっちの方向には上位種がいないと思っていたんだけどね」
段々音が近づいてきた。それは十匹以上の魔獣たちが二人がいるところへ歩いてきた音だった。
しかし真っ直ぐ向かってきてはおらず、まだ二人の正確な場所には気づいていないようだった。
「あれ?まだ気づいていない?」
「そうだね、雨が降っているから匂いを感じにくいんだよ。でも感じにくいだけだから、いずれ見つかるよ」
「でも戦闘になっても上位種がいないから問題ありませんよね?」
アンナはそう思っていた。ワルトが魔獣が十匹以上いても倒せると言っていたので、もし戦闘になっても問題ないと考えていたからだった。
「確かに倒せはするんだけど問題はあるんだよ。それの説明は後からするとして、今は近づいてくる魔獣を避けることに専念しようか」
しかしワルトの返事はその考えを否定するものだった。アンナはその理由を聞きたかったが、魔獣たちが近づいてきたので思考を切り替えて魔獣に集中した。
「避けるって言ってもどうやるんですか、においを感じにくいだけでいずれ見つかるんですよね。もしかして今から全力で逃げるんですか?」
どんな方法をとっても魔獣から身を隠せるとは思えなくて、アンナはその方法しか思いつかなかった。
「いや、その方法だと地面かこんなに抜かるんでいるからすぐに追いつかれるよ。今からとる方法は少し危険だけどそれでもいい?」
ワルトが真剣な顔をして言ってきた。その方法は信じられない提案で、かなり危険なものだった。
でもアンナは金級冒険者で、しかも今までの旅の中でワルトは大事な時には信用できると思っていたからその提案に乗った。
「いいですよ。ワルトさん、信じてますからね」
「うん。任せて、絶対に成功させるから」
アンナはワルトに背負われていた。アンナの小柄な体格がこんな時に役に立って、ワルトの背中で安定していた。
「ちょうどいいね、アンナちゃんの体格は背負いやすいよ」
ワルトにとってそれは褒めたつもりだったのかもしれないが、アンナは小さいと言われて腹が立っていた。
「そんなこと言ってないで早く始めますよ」
本当なら今すぐワルトを蹴っていたが、魔獣がかなり近づいてきていることに気づいていたのでそれを我慢してワルトを急がせた。
「わかったよ、今から始めるね。アンナちゃん、まずは僕に魔力を流していって」
アンナは言われた通りにワルトに魔力を流していった。今からすることには大量の魔力が必要だったからできるだけ多くの魔力を流していた。
その魔力は普通の冒険者が扱える魔力量をはるかに超えていて、ワルトが無事なのは魔力制御が神技の域に達していたことに他ならないからだった。
そしてワルトに流れている魔力はそのまま手に持っている大剣に集まり、圧縮されていた。その魔力は少し衝撃を加えられただけで爆発してしまいそうだったが、ワルトがうまく抑え込んでいてどんどん圧縮されていった。
「アンナちゃん、もうできたから魔力をながさない舌をかんだらいけないからけないからしっかり口を閉じててね」
そう言ってワルトは圧縮された魔力を地面に向かって放出した。魔力が放出された反動で二人の体は浮かび上がり、上に飛んで行った。
それはかなり速いスピードで飛んでいて、少し間違えただけですぐに墜落しそうなくらい安定していなかった。
「――っ、―――――っ!」
風と雨粒のせいで目を開けられない状況で自分がどこを飛んでいるのかがわからなかった。
今、自分たちが上に向かって飛んでいるのか、それとも地面に向かって降りて行っているのか、そんなこともわからなくてアンナは頑張って目蓋を開いた。
目を開くと地面に向かっておりてこるところだった。しかしかなりスピードがでていて墜落といった方が正しかった。
このまま地面にぶつかると二人が死ぬことが簡単に予想できた。
(――やばい!このままじゃぶつかる。でも防げない)
空中に飛んでるアンナは身動きができず地面にぶつかることを避ける方法などなかった。
「――着陸するよ」
ふと、ワルトが言った。その声は決して焦っておらず、冷静さを感じられた。
そして地面にぶつかりそうになった時、ワルトはまだ残してあった圧縮した魔力を地面にい向けて放出することによって勢いを殺した。
それでも完全に勢いを殺しきれたわけではなかったけれど、地面にぶつかるときにワルトが庇ってくれたおかげでアンナは無事に着陸できた。
「……い、生きてる……あっ、ワルトさん無事ですか⁉」
ただでさえ病に侵されていているのに、落下の衝撃からアンナを庇っていたのでアンナは不安になっていた。
「いてて、体中が痛いけれど怪我はないよ」
そう言ってワルトが立ち上がってきた。
アンナはワルトが病気であることを隠していたことがあるから、また怪我をしていることを隠しているかもしれないと思って注意深く観察したけれど怪我をしているようには見えず一息ついて安心した。
「大丈夫そうですね、また隠していたらどうしようかと思いましたけど」
「ごめんって、もう隠し事はしていないから」
「ところでここはどこなんですか?私は目をつぶっていたからどんなに飛んでいたのかわからなくて」
かなりの速さので飛んでいたのもあって、どのくらい飛んでいあのか予想できなかった。
「結構飛んでたよ、ここからだと木のせいで見えないけれど山の上の方だよ。4分の3くらいは登ったかな」
「えっ!さっきまで中腹くらいにいましたよね、そんなに飛んだんですか⁉」
アンナはかなり驚いていた。飛んでいる時間は短かったのに、かなり登っていたからだった。
その距離は普通の方法で登っていたら、地面がぬかるんでいることもあって一日はかかっていたからだった。
「……そんなに飛んでいたんですか」
「うん、もう一度飛んでみる?」
ワルトが笑いながら言ってきた。
「絶対に嫌です‼冗談でもやめてください!」
それは冗談だとわかっていてけれど、もう一度飛ぶなんて考えられなくてアンナは必死に拒否した。
なぜならさっきの体験はもう二度と味わいたくないほど体験は怖かったからだ。
「ごめん、でもこれで魔獣たちに見つからなかったよ」
確かにこの方法は匂いが残らずに移動ができて、大きな音がするという欠点はあるけれど、それも音の発生地からかなり離れるから実質欠点はない移動方法だった……危険なことを無視すると。
「そういえば戦闘になえると問題があると言っていましたけてど、それってどんな問題なんですか?ここら辺には魔獣がいなくて安全なんですから教えてくださいよ」
飛ぶ前にワルトが言っていたことを思い出してアンナは訪ねていた。
その疑問を聞くと、ワルトが少し考えた後言ってきた。
「いいよ、歩きながら教えるから」