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魔法練習2

 目蓋を開けた。その時には日が昇っていて、辺りが明るかった。

「あ、起きたんだ。おはよう、アンナちゃん」

 ワルトが声をかけてきた。その様子は病気を患っているように見えず、昨夜のことが夢だったと思うほど元気なように見えた。

 いや、夢だと信じたかった。病気のことも、余命が残り一か月なことも全部嘘でワルトがこれからもずっと元気に生きていけると思いたかった。

「昨日はごめんね、心配させて。でも症状は和らげることができるから安心して」

 でもワルトの言葉で現実を突きつけられた。昨夜のことはすべて本当におきたことで、ワルトには時間が残り少ししかないことが改めて理解させられた。

「……おはようございます、ワルトさん。いつ出発しますか?」

 一秒たりとも無駄にしたくなくてアンナは焦っていた。

 そんなアンナを様子を見てもワルトは落ち着いた様子だった。

「時間はまだあるからそんなに焦らなくてもいいよ、それに魔法の練習もあるから出発するのはもっと先だよ」

 その言葉を聞いてアンナは魔法を押しいてほしいといったことを後悔したが、すぐに魔法を使えるようになればいいと思い直した。

「すぐに魔法の練習をしましょう、どうせ他にすることがないんですから」

 そんな様子のアンナを見てワルトは優しく、そして悲しそうに笑った。

「そうだね、魔法の練習を始めようか。……体内の魔力の流れはできるようになったから、次は魔力を放出する練習をしようか」

「それは昨日、ワルトさんがシルバーウルフに使っていた技ですか?」

 魔力の放出と聞いて頭に浮かんだのはワルトが離れた位置にいる魔獣を切った技だった。その技は脳裏に焼き付いていて鮮明に思い出せた。

「それは応用だけどそのイメージであっているよ。今からするのはもっと簡単なことだよ」

 そう言ってワルトはその辺に落ちている葉っぱを拾って、信じられないことに手のひらの上で浮かばせた。

「えっ!」

 アンナは目を丸くして、驚きの声を上げていた。

「すごいでしょ、これは手の平から魔力を放出し続けることによって葉を浮かしているんだよ。アンナちゃんもやってみて」

 アンナも落ち葉を拾って手の平の上に魔力を放出してみると、一瞬で遠くに飛んで行ってしまった。

 そのことに驚いて言葉を失っていると、ワルトが声をかけてきた。

「この練習の難しいところは放出する魔力が多すぎると遠くに飛んで行って、少なすぎると少しも動かないことなんだよ」

 昨日の練習は魔力量は関係なく魔力の流れを意識するだけでよかったが、今日の練習は魔力の流れに加えて魔力量も意識しないといけなくて難易度がかなり上がっていた。

「……コツとかは」

「ないよ」

「ですよね……」

 予想通りの言葉にがっかりしたけれど、それでも時間をかけるわけにはいかなかったから、すぐに切り替えて練習を再開した。

 アンナは何度も取り組んでいたが、何度も落ち葉が遠くに飛んでいった。

「アンナちゃんは魔力量が多いから魔力の調節は難しいのかな」

 ワルトが途中でそんなことを言っていたけれど、そんなことは諦める理由にはならなくて、ずっと練習していた。

「アンナちゃん、そんな状態じゃ意味ないよ」

 しばらく時間がたった後、急にワルトが声をかけてきた。

「え?どういうことですか」

 その言葉の意味が理解できなくて、アンナは疑問を抱いた。

「それは今みたいに闇雲に練習していたら、何も上達しないよ」

 その言葉に腹が立って言い返したかったけれど、実際に上達している気がしなかったので黙って続きを聞こうとした。

「上達したいなら考えて練習しないとだめだよ。例えばこの方法で出来なかったから次はここを変えて試してみよう。こんな感じで練習しないと、ずっと同じ方法だと効果は薄いよ」

「でも、放出する魔力を少なくすればいいって改善点は明確に理解していて、そこを治すのに他に方法なんてないと思うんですけど」

 考えて練習するべきだと言われても、手から放出する魔力を少なくすればいいだけだから他に方法はないと思っていたからアンナは不満そうな顔をしていた。

「そうじゃないよ、確かに放出する魔力を制限するだけでいいと思っているかもしれないけど、その方法にも単純に放出する魔力量を減らす、体内の魔力を操作して手の方に向かっている魔力を制限することによって放出する魔力を少なくする、手の平の一部から魔力を放出することによって放出する魔力を少なくする、他にも方法はまだまだあって僕が言っているのはこういうことなんだよ」

 アンナはワルトが言っていたことが理解できた。目的を達成するだけでもその方法はたくさんあって、一つの方法だけじゃくていろんな方法を試した方がいいということだった。

 アンナは改めて練習を再開した。さきほどとは違いろんな方法を試していったがそれでも成功することはなかった。

「少し休憩しようか」

 アンナはまだ続けていたかったけれど、このまま続けても成功するイメージがわかなかったからその提案にのることにした。

「アンナちゃん、今はどんな感じ?」

「いろんな方法を試しましたけど、成功するイメージが湧きません」

「まだ時間はあるからゆっくり練習していいよ」

(時間があるって嘘をつかないでくださいよ、後一か月しかないんでしょう)

 成功する気配が全くしないことで自分の力不足を突きつけられているような気がして、アンナは悔しくて拳を握りしめていた。

「焦らないほうがいいよ、急がば回れって言うしね」

 焦っているアンナを見かねてワルトが冷静にさせようと声をかけてきたけれど、それでも冷静にはなれなかった。

(焦らないほうがいいって言われても、冷静になれないよ。時間がないのにこんなところで停滞してて…………停滞?)

 ふとアンナはあることを思いついて、実際に試してみようとした。

「……アンナちゃん?僕は焦らない方が言ったんだけど」

「ごめんなさい、でも良い案が思いついたんですよ」

 そう言ってアンナは手の平から出した魔力をその場で停滞させて落ち葉を浮かした。

 それは放出する魔力を減らすという考えとは全く違う解決方法で、勢いが良くて落ち葉が飛んでいってしまうのならその勢いを無くしてしまえばいいという力技だった。

「そんな方法で……それは放出する魔力を減らすことよりも難しいはずなんだけど……これは流石に僕でも予想できなかったよ」

 ワルトを驚かせるような方法で成功できてアンナは心の底から嬉しくなり、そしてやっと成功できたことで力が抜けて尻もちをつきそうになった。

 しかしこんなところで立ち止まる暇はなかったから必死に踏ん張って腰を下ろすことを防いだ。

「ワルトさん、これでいいんですよね?」

「うん。凄いよ、予想よりずっと早かった」

「なら、すぐに出発しましょう」

 練習が終わったからすぐに出発できると思って、急いでアンナは歩き出した。

 ワルトは何か言おうとした様子だったが、諦めてついていった。

「なんですか?」

「いや、なんでもないよ。アンナちゃんがが身体強化できるようになったから今日は結構進むけど、大丈夫?」

「問題ありません、急いでいきますよ」

 そんなやり取りをして二人は出発した。それは二人が最後に元気な状態で迎えた朝だった。



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