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星が瞬く空の下で  作者: 月星 星那
一日目
12/41

隠し事、そして決意

昨日、11話も投稿しましたので、もし読んでいなければそちらからお読みください

 ふと、アンナは目が覚めた。まだ太陽が昇っておらず辺りは真っ暗だったけれど、隣で寝ていたはずのワルトの姿がなかった。

 「あれ、ワルトさんがいない?魔獣が近くに来たのかな」

 アンナは不安になってワルトの姿を探し始めたが、見える範囲にはワルトの姿はなかった。

「そういえば聴覚の強化ができるようになったんだった」

 アンナは寝る前にできるようになったことを思い出してそれを試してみた。起きてすぐだったけれど、問題なく使えてたくさんの音を拾うことができるようになった。

 するとその音の中から荒い呼吸の音が聞こえて、アンナはその音が聞こえた方向にあるいていった。

 少し歩いていくとワルトの後ろ姿が見えて安心して声をかけようとしたが、口を押えている手のひらに赤い血がついていることに気が付いた。

「ワルトさん?」

 気が付くとアンナは後ろから声をかけていた。手についている血がワルトのものではないと信じたくて。

 その声に気づいたワルトが後ろを振り返ってアンナの方を見た時、その口にも真っ赤な血がついていることに気が付いた。ワルトの表情は病人の様に弱っていて今にも倒れそうだった。

「わ、ワルトさん大丈夫ですか⁉」

 それを見てアンナは慌てて走り寄った。ワルトが死んでしまいそうで、それがとても怖くて、その様子を見ていたワルトは諦めたように優しく笑っていた。

「ばれちゃったか、うまく隠せると思っていたんだけどね」

「ど、どういうことですか⁉ずっとこんな状態だったんですか⁉説明してください!」

 ワルトの言葉に愕然としてまくし立てた。もしそうならずっとワルトに負担をかけ続けていたことになり、自分のことを許せなくなりそうだった。

 そんなアンナの慌てている様子とは違い、ワルトは木を背もたれにして座ってアンナを落ち着かせるようして言った。その様子は自分のことを諦めているように見えてアンナはさらに不安を募らせていった。

「落ち着いてアンナちゃん、いつものことだから大丈夫だよ」

 ワルトは安心させようとしていたのかもしれないけれど、アンナにとってはそれはさらに不安にさせるだけで少しも安心できなかった。

 「落ち着きますから早く教えてください……本当に大丈夫なんですよね」

 アンナはワルトが大丈夫じゃない事なんて気づいていたけれど、それを否定して欲しくてすがるようにして言った。

 でも、現実はそう甘くはなかった。


「この旅の間は大丈夫だよ」


「……それはどういう意味ですか?」

 言っている意味が分からなかった。それはまるで旅が終わった後は大丈夫じゃないって言っているように聞こえたからだった。

「……僕はね、病気にかかっていて医者に余命があと一か月ぐらいだと言われているんだよ。だからこの旅は一か月もかからないでしょ、だから安心していいよ」

 理解できなかった、いや理解したくなかっただけだ。ワルトが、心の底から尊敬している人が、あと一か月で死ぬなんて信じたくなかったから。でもこれで腑に落ちることがたくさんあった。

 武器屋のお爺さんが泣いていた理由。

 薬屋のお婆さんが無茶をするのを止める様に頼んできた理由。

 ワルトが「人間は生きているなら変われるんだ、ここであきらめるのはまだ早いよ」と言った時に感じた違和感の正体。

ワルトが言ったことを否定したくても否定できない理由が次々と出てきた。

 しかもワルトが旅の間は死なないから安心していいよなんて言ってきて、それが許せなかった。

「安心していいよって、そんなことできるわけないに決まっているじゃないですか!それになんでそんな状態で依頼を受けたんですか⁉安静にしてくださいよ!」

 アンナはワルトに怒りをぶつけてはいけないと理解していながらもそうせざるを得なかった。病気に患っているワルトが安静にしないで依頼を受けて動き回っていることに、そしてそのことに気づかなかった自分に対して怒りが収まらなかったからだった。

「安静にしてても残り一か月しか持たないんだから、それならその間は好きなことをして死にたいよ。あと、アンナちゃんは悪くないよ、僕が勝手に依頼を受けて病気のことも隠していたから仕方ないよ」

 ワルトはアンナのことを慰めようとしていたがそれは意味をなさないどころか逆効果だった。そしてアンナは何を言っても安静にしないことを悟ったがそれでも安静にしてほしくて何度も止めようとしていた。

「でもそんな状態で護衛なんてできないですよね、街に戻って安静にしてください!」

「それは心配しないでいいよ、身体強化の応用でね内臓に魔力を流して強化することによって病気の症状を和らげることができるんだよ。今は魔力を回復させるために強化してないだけだから」

 それでも余命は変わらないんだけどね、と続けてワルトが言った。

 何を言っても、何度も言っても意見を変えるつもりがないワルトを見て、止められないことを完全に理解してしまった。

「……どうしてそんな状態で依頼を受けようと思えるんですか?」

 アンナは泣き出しそうになっていた。ワルトを止めらことができない自分の無力感で、余命一か月の状態でも依頼を受けることをやめないワルトのせいで。

「……それはね、僕は人助けが趣味なんだよ。だから僕は死ぬまで僕は人助けをするんだ」

 それは到底理解できないことだった。今まで自分が生きていることに精一杯だったアンナには他人のためにいきるワルトの生き方が理解できなくて、それでもそんな生き方をしているワルトに憧れた。

「どうしてそこまで他人のために生きられるんですか?そんなに人助けをしてもワルトさんに利益はないですよね」

「確かに利益は無いけどね。……僕には子供の時から夢があってね、それを諦めきれない……いや、諦めることができないだけなんだよ」

「夢?」

 それがどんな夢なのか予想できなかった。こんな状態になっても人助けをし続ける夢なんて、まだ夢を持ったことがないアンナには理解できないことだったから。

「そう、他人かたら笑われるようなつまらない夢だよ」

「どんな夢なんですか?それは」

「僕はね英雄になりたいんだよ。おとぎ話に出てくるようなみんなを助ける英雄に」

 その夢を追い求める理由は理解できなかったけれど、笑うこともできなかった。その時のワルトの目はとても真っすぐな目をしていて、どんなに努力してその夢を追い求めてきたのか理解できたからだ。

 そしてその目を見たらワルトのことを止めようとは思えなくなってしまっていた。

「すごいですね、ワルトさんは」

「まあ、その夢は叶わなかったんだけどね」

 アンナは何も言いえなかった。夢を追い求めていたワルトには才能がなくて、夢がないアンナには才能があったことが苦しかったら。

「いいよ、気にしなくて。僕はその事を受け入れているからアンナちゃんが悲しむ必要はないよ。時間はまだ有るから魔法の練習も予定通りに続けられるし、明日は早く起きないといけないからもう寝よう」

 ワルトは立ち上がって二人が寝ていた場所に戻っていった。アンナは何言言えずただついて行くことしかできなかった。

(どうしたらいいんだろう?ワルトさんにはずっと生きていて欲しい)

 ずっと悩んでいた。しかしどれだけ悩んでもまだ若くて力もないアンナにはどうすることもできなくて、何も解決策が思いつかなかった。

(それなら頑張ってすぐに魔法が使えるようになって、急いで山を越えて街の医者にどうかしてもらおう)

 そんな事をしても結果は変わらないと理解していてもそうするしかなかった、その決意をしてしまった。

「おやすみ、アンナちゃん」

「おやすみなさい、ワルトさん」







 


 私はその決意をしてしまった事を一生後悔している。



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