楽しい時
日が暮れてたりて二人は晩御飯を食べていた時、ふとアンナがワルトに尋ねた。
「そういえば寝るときってど二人で見張りを交代してつづけるんですか?」
「ああ、その必要はないからアンナちゃんはゆっくり寝ていいよ」
アンナは疑問を抱いた。夜も魔獣が襲ってくる可能性があるのに寝ていたら危ないと思ったからだ。
「もしかしてワルトさんがずっと起きて見張りをするんですか?そんなことはしないでいいですよ、というかそんなことをさせたら薬屋のお婆さんにおこられるじゃないですか」
ワルトに無茶をさせないって約束したのにそれを、破ることになりそうになってアンナは必死にワルトを止めようとした。
「違うよ、アンナちゃん。僕は寝ているときも聴覚を強化できてね、魔獣が近づいてきたらすぐに起きられるよ」
その言葉にアンナはとても驚いた。聴覚の強化なんてアンナにはまだできないし、寝ているときも強化できるなんて理解できないことだったからだ。
「そ、そんなことできるんですか?」
「寝ながら強化するのはかなり難しいけど、聴覚の強化は1日ぐらいでできるよ。やってみる?」
ワルトの提案に少し考えた後、アンナは試してみようと思った。もし自分もできるようになったら、ワルトに負担を少し減らせると思ったからだ。
「やってみたいです、教えてください」
「わかったよ、まず聴覚の強化は身体強化と違って魔力の流し方が少し異なるんだ。単純に流すだけだと何も強化されないから、そこは注意しないといけないかな。やり方は何て言おうかな……うまく言語化できないけれど優しく包み込むような感じで魔力を流すんだよ」
ワルトの教え方ではうまく理解できなくてアンナは少しワルトを睨みつけた。
「優しく包み込むような感じってどういう意味なんですか?もっと詳しくいってください」
「いや、言語化するのは難しくてできないよ。……あ、うまく音を吸収するために柔らかくするようなイメージでするといいかな」
それでもまだ十分に理解できなかったが、これ以上のアドバイスは得られないと思って実際に聴覚の強化に挑戦してみた。
最初のうちは何も変化がなく、少しも成功したように思えなかったが続けていくと一瞬、音が大きくなったような気がした。
(一瞬、音が大きくなったような。今のような感じですればいいのかな?)
アンナは何度も挑戦していった。すると一瞬だけ音が大きく聞こえることが何回かおきていった。
(一瞬だけだとできるんだけどな、どうすればずっと続くんだろう?)
「あ、耳の表面だけじゃなくて耳の奥の方も魔力を流した方がいいよ」
急にワルトがまともなアドバイスをしてきてアンナは驚いた。耳の奥の方にも魔力を流すことを意識してみるとさっきまでとは違い、10秒ぐらい音が大きく聞こえる時間が長くなった。
「なんでそれをもっと早く言わないんですか?」
「ごめんね、忘れてた」
「……ワルトさんは教師に向いてないですね」
「えっ?」
アンナの言葉にワルトはショックを受けていたように見えたが、それを無視して練習を続けていった。
しばらく時間があった後、変化が起きた。風によって木が揺らされ葉っぱ同士がこすれあう音、遠くから聞こえる鳥たちのさえずり、川で流れている水の音、山の中で聞こえる音がたくさん聞きとることができるようになっていた。
「あれ、アンナちゃんもうできるようになったの?」
「はい、まだ集中しないとできませんけど」
「それでもすごいよ、もっと時間がかかると思っていたけれどもうできるなんて」
そう言ってワルトは優しくアンナの頭を撫でてきた。それはとても恥ずかしくて顔を真っ赤にしたけれど、今まで褒められることはなかったから嬉しくてそれを受け入れていた。
「それじゃ、少し早いけれど寝ようか、疲れを取らないといけないしね。」
まだ寝る時間には少し早かったけれど、日が暮れてずいぶん時間がたっていていたので、二人は寝る準備をし始めた。
「よし、寝る用意も終わったかな。アンナちゃん、おやすみ」
「ワルトさんもおやすみなさい」
目蓋を閉じると案外疲れていたのか睡魔が襲ってきてアンナは一瞬で深い睡眠に入った。
この旅の中で楽しかったのはこの時までだったこの時より後ははワルトさんが隠していた事に気づいてそれどころじゃなかったから。
出来れば次の話までは読んでください