魔法練習1
「これから魔法を教えていくけど、いいんだね?厳しいよ」
「はい、覚悟は決めています」
「まずは魔法についての知識を身に着けようか、アンナちゃんはどれぐらい魔法のことを知っているの?」
「えっと、魔法名を唱えると魔法が発動するってことぐらいしか」
アンナは予想外のことに少し驚いた。それはワルトが厳しく教えると言っていたからてっきり魔法をどんどん発動していって体で覚えると思っていたからだった。
しかもアンナは魔法の知識なんてものは必要ないと思っていたので、ワルトの真帆王の知識を身に着けるという考え方は理解できていなかった。
「……あーなるほどね、アンナちゃんはそういう認識だったんだ。よくその状態で魔法を発動できたね、それはそれですごいことだよ」
「え、違うんですか⁉」
ワルトの言葉にアンナは驚愕した。今まで魔法は唱えたら勝手に発動するものだと思っていたのでワルトの言葉はアンナに衝撃を与えるものだった。
「違うよ、魔法ってのは体内の魔力の流れ、放出する魔力の量、そして正確な魔法のイメージが必要なんだ。この中のどれか1つでもなかったら発動しないし、最悪の場合魔法が暴発するんだよ」
アンナは言葉を失った。今までとても危ないことをしていたことを理解して血の気がひいた。
「も、もしかして本当は私、魔法を暴発させていたんじゃ」
「それはない、アンナちゃんの魔力量で魔法を暴発させたら死んでいると思うよ」
「……それだとなんで魔法が暴発しなかったんですか?」
「…………才能だね」
「…………そんなをとより次はなんですか?」
才能があったから今自分が生きていることがわかったけれど、アンナはその事実から目を逸らすように話題を変えた。
「そうだね、まずは体内の魔力の流れの練習からしようか。……さすがに魔力を体内で操作できるよね?」
ワルトが心配そうな顔をしていた。アンナは自分が何もできないと思われていると思って言い返そうとしたが、自分が何も知らなかったことを思い出して何も言えなかった。
「……さすがにそれはできますよ。でもこれをどうしたら魔法に生かせるんですか?」
魔力を体内で動かしてもそれがどのようのに魔法に影響を与えるのかアンナには予想できなくてワルトに疑問を呈した。
「確かにあまり関係ないと思うかもしれないけど結構重要なことでね、体内の魔力の流れがうまく操作できないと次に言う放出する魔力の量が調節しにくくなるんだよ」
「そうなんですね、でもどうやって練習すればいいんですか?魔力を動かすだけなら今でもできますよ」
実際に体内の魔力を動かそうとしてみたら簡単に操れて練習する必要が感じられなかった。
「それを歩きながらできる?」
「……え?」
「動きながら体内で魔力を操作するんだよ。それくらい自由に魔力を扱えてやっと次の段階に行けるからね」
アンナは言われた通り歩きながら魔力を操作しようとすると、すぐに魔力を操ることができなくなった。
「あ、それにコツなんてないからね。何度も試行錯誤をしてみてやっとできるようになることなんだよ」
何度も試しても全く魔力を操作できる気がしなくてワルトに助けを求めようとしたが、そのときアンナが練習している姿を眺めていたワルトが言ってきた。
その言葉にアンナは唖然として開いた口がふさがらなかった。
「……全くできるような気がしないんですけど」
「そういうものだから仕方がないよ。それができるようになったら次は走りながら魔力を操作するから頑張ってね」
「……本当に?」
「うん」
アンナは気が遠くなったが、それでも気を引き締めて練習を再開した。ここで諦めたらまた昔の自分に後戻りするような気がしたから、意地でも途中で辞めたくなかったからだった。
アンナは何度も何度も魔力を操作しようと挑戦し続けた。途中で集中しすぎたことにより躓いてこけたり、木にぶつかって鼻を打ったりしたけれど、それでも諦めなかった。
三時間ぐらいたって夕暮れが近づいた頃、アンナはやっと動きながら魔力が制御できるようになった。
「ぜぇ……ぜぇ……やっと……できるように……なりましたよ」
「頑張ったね、アンナちゃん。なんかぼろぼろになっているけどそれぐらい頑張ったっていうことかな」
こけたり、鼻を打ったりしてぼろぼろになっているアンナを見て、ワルトは水を渡しながら言った。
アンナはその言葉を聞くと力が抜けて仰向きに倒れた。そんなアンナを見てワルトは笑いながら声をかけてきた。
「アンナちゃん、そんなに疲れたの?」
「疲れるに決まっていますよ……どんなに集中して練習したと思っているんですか……今はあまり意識しないでもできますけど……すっごく大変だったんですよ……」
アンナは腹が立って大声を出そうとしたけれど、疲れ果てていたので大きな声は出せなかった。
「あ、まだ終わりじゃないからね。もうちょっとで日が暮れるし急いで練習するよ」
その言葉にアンナは絶望しながら力を振り絞って立ち上がった。
「何を……すれば……いいんですか」
「それはね、体全体に魔力を流し続けることによって身体強化をするんだよ。そうすると力が強くなるし、それに疲れにくくなるから山を越えるのに役に立つよ僕もそれを使っているからこの大剣を使えるんだよ」
そう言ってワルトは背負っている大剣を持ち上げてアンナに見せた。力が強くないように見えるワルトが大剣を使うことができる理由を聞いてアンナは身体強化の凄さを理解できた。
「これもコツは無いんですか?」
「うん、でもこれは結構簡単だからすぐにできると思うよ」
そのように言われて試してみると案外簡単にできた。力が強くなったことにより体が軽くなったように感じられ、さらに疲れが取れたような気がした。
「あれ、これでいいんですか?」
すぐにできたことが信じられなくてワルトに確認を取った。
「もうできたんだ、すごいね。でもそれだけじゃダメなんだよ」
そう言ってワルトはアンナの目の前で急に手をたたいた。
「わっ!」
そのことに驚いたアンナは身体強化をといて尻もちをついた。急に驚かせてきたワルトに腹が立ってワルトを睨みつけた。
「なんですか、急に。驚いたじゃないですか」
「ごめんね。でも今、身体強化を解いたでしょ、それではダメなんだよ。今ので身体強化を解かなくてやっと習得したって言えるからね」
「……どうやったらできるんですか?」
できる気はしなくてアンナは心が折れかけていた。何があっても身体強化を解かないのはとても難しく、しかも練習方法が思いつかなかったからだ。
「ずっと身体強化していたらそのうちできるようになるよ、アンナちゃんは魔力量がかなり多いから長い間使えると思うし。よし、今から寝るまでの間ずっと身体強化をし続けようか」
「……本気で言っているんですか?」
「そうだけど?時間は貴重だから早く練習を始めようよ」
アンナは半ばやけくそになって練習を再開した。