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お前に刺されて死ぬなら悔いはない  作者: 淡雪みさ
高校一年生編

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最後の勧誘




 宵宮は仄香の言葉にぱちりと瞬きし、やや納得がいっていないかのように眉を寄せて見つめてきた。


「……何それ、犬?」

「い、犬?」

「犬は飼い主に死に際を見せないって言い伝えあるでしょ。体力が落ちた状態で敵に見つからないためとか、静かな場所で体力を回復させるためとか、色々仮説はあるみたいだけど。昔の人は、飼い主を悲しませないために死ぬ前にいなくなるって捉えたみたいだよ?」

「じゃあ、私もそうします。宵宮先輩を悲しませないように、死にそうになったら野生の勘を働かせて全力で宵宮先輩の前から姿を消します」

「それできたら人間じゃねぇじゃん、もう」


 宵宮は仄香の腕を掴んでいた手を離し、調子が狂ったと言わんばかりに頭を掻く。


「そういうことじゃないんだけどなあ」

「そもそも死ぬなって言うなら無理ですよ。私は命をかけて市民を守る職業を目指してるので」

「嘘でも宵宮先輩のために死なないですって言えないの?」

「嘘ついても分かるじゃないですか、宵宮先輩は」

「……ほんっと可愛くないよね、ほのぴ」


 ひくりと口元をひくつかせて、おそらく今日久しぶりであろう煙草を取り出した宵宮は、仄香から視線を外してぽつりと聞いてきた。


「高秋が死ぬなって言ったら、死なないの」


 顔が別方向に向けられているため、その表情は見えない。


「それは……うーん……」

「高秋の言葉だったら迷うのかよ」

「だ、だって神のお言葉ですし……」


 それに、志波はきっと仄香に死ぬななんて言葉は吐かないだろう。

 むしろ自分が仄香を殺すと言っているような人間である。そう思った時、ハッと重大なことに気付いた。


「まさか宵宮先輩、私の命のことを大切に思ってくれてます?」

「何その驚愕したみたいな顔。普通の感覚なら命って大切がられるものじゃない?」

「いや、久しぶりにそんなこと思われた気がして……志波先輩には常に殺すとか死ぬところが見たいとか言われてるので……」


 嗚呼、何だか感動! と再び涙ぐんでいると、宵宮がふと何かに気付いたようにわずかに目を見開いた。


「……ああ、そっか。やられたな。これじゃほのぴの思い通りだ」


 そして、ぽつりと意味の分からない独り言を呟いた後、目だけで仄香を見下ろす。


「生きててほしいよ。だからこそ、お前には敵対してほしくない」

「…………」


 仄香は宵宮にそのようなことを言われると思っておらず面食らった。目の前で人が死にかけたことが余程堪えたのだろうか。

 宵宮は、珍しく真剣な表情をしている。


「僕らの側に来た方がほのぴの生存率は確実に上がると思う。それでも頑なに警察側に付く?」


 仄香は今度は躊躇いなくこくりと頷いた。

 すると宵宮はふっとどこか自嘲的に、悲しげに笑う。



「――……じゃあ、これが最後だね」



 静かなロビーに、宵宮のその言葉がやけに響いた。



「ほのぴを勧誘するのも、積極的に関わるのももうやめる。大事なものがあることは僕の目的にとっての足枷になるから」

「……え?」

「ほのぴの存在が僕にとってノイズになってきてる。今日ほのぴが死にかけた時に確信した。ほのぴは僕の生きる意味を揺らがせる存在になり得るって」


 〝最後〟の意味を理解した。

 宵宮は、仄香を仲間に引き入れることを諦めたのだ。


「ほのぴが知りたかったのはなおやんのことだよね? 先にオーナーと接触できた方が勝ちって約束だし、最後にそれだけは言っとこうかな」


 飄々とした態度で咥えていた煙草を口から離し、仄香が知りたかった尚弥についての情報を投下する。


「なおやんはM.Oのトップのお気に入り。それも超が付くほどの。ただ前も言ったけどなおやんは正しい側の人間だからさ。少なくとも高校生になるまでは、どんなに勧誘されても一度も靡かなかったって聞いてる。それが僕の知ってる全てかな。その後の動きは僕には共有されてない。なおやん、頑固って点ではほのぴと似た者同士なんじゃない?」


 色々と言いたいことはあるが、まずは尚弥のことを少しでも引き出さなければと思い口を開く。


「お気に入り……っていうのは、やっぱり異能が電気操作系統だからですか?」

「デジタル化が進んだ明和の日本で、どんなセキュリティでも突破できる異能は貴重だからね。なおやんがその気になれば首都機能を一日でダウンできる。味方にできるなら絶対に欲しいし、少なくとも敵に回すことは絶対に避けたい。……まぁ、僕は彼の性質を読んだ上で、そこまで彼には惹かれないけど。M.Oの主導者は喉から手が出る程欲しいみたいだね。なおやんのこと」


 ――尚弥のことを、M.Oのトップが欲しがっている。でも尚弥はその誘いを長い間断り続けてきた。

 宵宮から得られた確かな情報はそれだけだ。現在の尚弥が敵か味方かは分からない。けれど、少なくとも最初は断り続けていたという事実だけで仄香の心は少し軽くなった。

 つまり尚弥は、犯罪組織に加担することを避けようとしていたということだ。

 己の知る尚弥の本質が真実だったということに心底ほっとした。


「これでいい?」


 宵宮が話を切り上げようとするので、尚弥のことを考えていた頭が止まる。

 仄香は顔を上げ、恐る恐る宵宮に問いかけた。


「……宵宮先輩は、私とはもう関わるつもりないってことですか?」


 正直、それはまずいように思う。

 宵宮と今後一切接触できないとすれば、宵宮を説得する機会が消える。


「元々、仲間に引き入れられないならそれまでって予定だったしね」


 しかし、宵宮の意志はもう決まっているようだった。


「宵宮先輩が裏切り者だってこと、私が誰かにチクってもいいんですか」

「何それ、脅し?」


 宵宮が可笑しそうに目を細める。


「脅しです。私のこと見張っておかないと、私はいずれ宵宮先輩を窮地に陥れますよ」

「別に言ってもいいよ。ほのぴ、伊緒坂尚弥と紫雨華茜には既にバラしてるでしょ」

「――――……」


 仄香は咄嗟に否定できずに立ち尽くす。

 脅したつもりが、脅し返された。


(宵宮先輩と一緒にいる時、あの二人に相談したことに関しては思考しないようにしてたはず。何で……いや、それよりも、二人が情報を持ってることを宵宮先輩が把握してるってことは)


 尚弥と茜も宵宮の監視対象になっていると考えた方がいい。

 加えて、仄香の手元には志波と宵宮が裏切り者であるということを他人に証明できるものがない。仄香側の脅しは成立しない。

 動きを完全に封じられてしまった。


 仄香はぎゅっと拳を握り締め、顔を上げる。


「後輩への情が生まれたからって逃げるんですか」

「ほのぴの意志は変わらない。どうしたって味方にならないなら、関わり続ける理由がないでしょ」

「でも私は」


 言いかけて、言葉がうまく出てこなかった。

 すうっと息を吸い込んで、改めて口を開く。声が震えた。


「私は普通に、私が卒業した後、宵宮先輩と異能力犯罪対策警察として先輩後輩になれる未来のこと諦めたくないです」


 これまで関わってきて思ったことがある。いくらテロリスト予備軍とはいえ、異犯の裏切り者とはいえ、異能力を用いた犯罪組織と裏で繋がっているとはいえ。宵宮千遥は根っからの悪人ではない。

 悲しい過去のせいで壊れてしまっただけだ。





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