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お前に刺されて死ぬなら悔いはない  作者: 淡雪みさ
高校一年生編

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死の確信



(抑止力? 予言? トリガー? 一体何を言って……いや、考えるな。狂った人間の言葉になんて耳を貸すべきじゃない。それよりも今はまずこの男の異能の弱点を探さなきゃ)


 敵はもう、一人しかいない。

 ここで撤退すればもう二度と捕まえられないかもしれない。

 三十分以上前から宵宮からの通信は途絶えている。応援は呼べない。夏菜子が乗り込んでこないということは彼女も捕まったのだろう。


(――私がやるしかない)


 しかし、頭はそう言っていても体が痛みで動かない。血も止まらない。立てない。


(志波先輩が待ってるのに……)


 もう駄目かもしれない。

 ――――そう思った時、思わぬ方向から発砲音がして、銃弾がセルゲイの頭を貫いた。


 はっとして上を見ると、給気ダクトの蓋を蹴破るようにして宵宮が落ちてくる。

 その落下がまるでスローモーションのように見えた。

 落ちてきた蓋が勢いよく床にぶつかって跳ね返る。その横に着地した宵宮はあっさり立ち上がって五発、間髪入れずにセルゲイに銃弾を打ち込んだ。


「宵宮先輩……! ど、どこから出てきてるんですか! 映画かと思いました」

「遅くなってごめん。追われながらだったからなかなかこっちに来れなくて。この部屋、窓もないしね」


 宵宮は頬を伝う汗を拭いながら言った。


「だからってダクトから……」

「怪我は?」


 そして、横目に仄香を見下ろしてくる。


「動脈と内臓には届いてません」

「治癒班は外で待機させてる。夏菜っちもそのうちこっちに来る。来たらほのぴのことは最優先で運ばせる。それまで待てる?」

「はい。こんなの大したことないです、問題ありません」


 仄香は宵宮が来たことで安心し、強気な発言をすることができた。

 宵宮はその返事にふっと笑い、正面のセルゲイに視線を戻す。

 彼の体は五箇所共ぼこぼこと気味の悪い動きをした後、煙を発生させながら全て再生した。


 宵宮がちっと舌打ちする。


「瞬時に治癒できる箇所の数に上限はないのか。別々の急所を同時に狙っても意味なさそうだね。さすがは高秋と並ぶ異能力者って感じ」

「……ご存じなんですか? 彼のこと」

「ほのぴが色々情報引き出してくれたから、施設のことは調べさせてもらった。そのロシアの研究機関、異能力者の子供をⅠ群からⅣ群にクラス分けするみたいなんだけど、異能力がこの世に生まれてから今まで、一番危険なⅣ群として分類されたのは高秋とあの男だけみたい」

「再生するから……ですか? 何なんでしょうあの異能。あんなの聞いたことありませんよ」

「データを独り占めしたくて隠蔽してるんでしょ。高秋の異能についても詳しいことは出てこなかったし。あーあ、めんどくさ」


 宵宮は弾を入れ替えながら怠そうに言った。


「宵宮千遥。君も異能力対策警察の人間だろう。大人しくその子を引き渡しなさい」

「お前が欲しいのって高秋なんじゃなかったっけー? 浮気はよくないんじゃない?」


 体を再生させたセルゲイがにっこりと不気味な笑顔で命じるが、宵宮はからかうような声音で返す。


「欲しいものが二つに増えることだってあるだろう。今はその子も欲しい。志波高秋を真の化け物に戻すために」

「何でもかんでも欲しいなんて傲慢だね。この子も高秋も、僕のお気に入りだから渡せないな」


 こんな得体の知れない異能力者を相手にしてよくそんな軽い態度が取れるなと仄香は隣で感心した。

 その奥、ギャンブルをしていた客達が怯えた顔でこちらを見ているのに気付く。何とか立ち上がって宵宮に小さな声で伝えた。


「宵宮先輩、私、ここにいる一般人を部屋の端まで避難させます」

「動けるわけ?」

「それくらいなら。人がいると宵宮先輩も動きにくいですよね?」

「……まぁ、ほのぴも別の場所にいた方が安全か。あいつらと一緒に移動しといて。逃さないでね。クスリやってたわけだし、あいつらも後で全員逮捕するから」


 仄香はこくりと頷く。

 そして、宵宮の合図と同時に二手に別れた。

 後ろでセルゲイの骨が折れる音がする。宵宮が武器を使わずに体で攻撃を始めたようだ。それが効くとも思えないが、時間稼ぎにはなるだろう。


「警察です。ここは危ないので、私の指示に従ってください」


 正確に言うと仄香は警察志望というだけで警察でも何でもないのだが、今はそう伝えた方が動いてもらいやすいだろうと判断してそう言った。

 客達は怯えた顔で仄香に従い、部屋の奥にある余興用の舞台の袖まで付いてきた。宵宮は逃がすなと言ったが、この部屋の出入り口は真逆の方向にある一つだけ。逃げたくても逃げられない状況だ。


「ここから一歩も動かないでください。すぐ終わりますから」

「だ……大丈夫なんですか? 本当に……?」


 血の匂いで余計に怯えさせてしまったのか、目の前に蹲る女性が仄香の腹を凝視して青い顔をしている。


「オーナーは……オーナーは、化け物なんです……。あの人を敵に回したら、貴女だって……っ」

「命に変えても、必ず貴女方をお守りします。それが私の見てきた警察の仕事ですから」


 顔だけを出して部屋の中央の様子を窺う。

 宵宮がセルゲイの顔を鷲掴みして喉元に銃弾を撃ち込むのが見えた。しかしセルゲイの体は瞬時に再生し、笑いながら宵宮の体を振り払う。

 ゼロ距離で打っても無理らしい。それに、あれだけ鍛えている宵宮を片腕で振り払えるということは、腕の力も見た目通りのそれではない。


(一つは、あの不死身みたいな再生能力。もう一つは身体能力強化系かな。異能力は二種類あるだけでも異能力者人口のうちの0.0001%だって言われてるくらいだから、もっとあるとは考えにくいけど……最悪の場合は想定しておいた方がいい)


 宵宮の行動は一つ一つ、セルゲイの〝できること〟と〝できないこと〟を探ろうとしている。例えばさっきなら、ゼロ距離攻撃で再生することはできるのかの試行だ。

 どんな異能力にも弱点はある。それを探っていくしかない。


 仄香に今できるのは観察である。宵宮とセルゲイの戦闘を見て、仮説を立てるしかない。

 拳銃の弾がもうないせいで援護もできない。


 仄香は必死に目を細め、薄暗い部屋の中央を見た。

 その時、ザザッと視界にノイズが入る。



 ――――宵宮千遥がセルゲイの腕で心臓を貫かれ、死ぬ未来が視えた。



 仄香は瞬時に走り出し、セルゲイの背後から襲いかかる。


 そして、使い道のなくなった拳銃でセルゲイのこめかみを強打した。

 こうすれば大抵の人は平衡感覚が失われ意識不明になる。しかし、セルゲイはバランスを崩して横に倒れたものの意識はしっかりしているようだった。

 拳銃で叩かれた時の挙動も、硬さもおかしい。

 それに、さっき視た未来では腕一本で人間一人の体を貫いていた。


 ――この男は自分の体の硬度や形を自在に変えられる。


「宵宮先輩! 撤退しましょう! こいつは今は絶対に無理です!」


 叫ぶようにして言った。

 刹那、視界にノイズが走る。


 流れたのはさっきの映像ではない。別の角度、別のタイミングで宵宮の心臓が貫かれている。さっきと微妙に違うだけで、宵宮の死自体は回避できていない。

 ――未来は、三秒後。


「……ッ宵宮先輩、退いてください!」


 倒れたセルゲイが起き上がり、腕を伸ばす瞬間に、宵宮の体に横から勢いよく体当たりした。

 さすがに味方から攻撃を受けるのは予想外だったようでよろけた宵宮が床に倒れ込み、――宵宮を貫くはずだったセルゲイの腕は、仄香の体を貫いた。


(終わった)


 心臓がやられた。治癒班が今来たとしても間に合わない。


 仄香は初めて、自らの死を確信した。






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