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お前に刺されて死ぬなら悔いはない  作者: 淡雪みさ
高校一年生編

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盗撮



「おめでとう」


 車の発進と共に、突然祝福の言葉を与えられた。


「あけましておめでとうを言いに来た」

「……そのために迎えに来てくださったってことですか?」

「ああ」


 年賀状だけでなくメッセージまで送ってしまったことで、返事を催促していると思わせてしまったのかもしれない。仄香は申し訳無さを感じて縮こまる。


「お忙しいのにすみません……。お返事なら電話とかでもよかったんですが」

「会いたかった」


 さらりと爆弾発言を落とされて、バッと顔を上げる。


「直接君に会いたかった」


 淡々と発されるその言葉の内容は、どうやら聞き間違いではないらしい。

 きゅぅぅぅぅんと胸が締め付けられるような心地がした。


「し……しぬ」

「死なれたら困る」

「私のことは志波先輩が殺すからですか?」

「ああ」

「えへへ、嬉しいです」

「君も大分毒されてきたな」


 車が右に曲がり、武塔峰の方向へと走っていく。

 深夜の車道は人気がなく、ひっそりと静かだった。


 そこで仄香ははっとある大事なことを思い出し、隣で運転する志波に話しかけた。


「あの、志波先輩、我が儘言っちゃだめですか」

「聞くだけ聞こう」


 志波は仄香の方を見ずに答える。


「三月の最終週……ずっと私と一緒にいてくれませんか?」


 初詣が終わった後、茜と一緒にもう一度、志波が飛び降り自殺を目撃する未来の映像を閲覧した。近くに立っていたイベントを知らせる旗は、三月の下旬に一週間だけ行われるイベントのものだった。

 その一週間だけは、どうしても志波をあの場所から引き離しておきたい。幸運にも仄香は三月の最終週は春休み期間なので、学校を休まずとも志波の傍にいられる。


 志波がようやく横目で仄香を見た。


「それだけか?」

「も、勿論お仕事もあると思うので、難しいとは思うのですが……」

「なら、その期間だけは休みを取る」

「え、嘘、一週間ですよ?」


 社会人は一週間の休みもなかなか取れないと聞いている。

 忙しい異能力犯罪対策警察なら尚更だろう。無理なことを言わせていないか心配になって覗き込むが、志波は涼しい顔をしていた。


「俺はこれまでほとんど休暇を申請していない。上から文句を言われているくらいだ。この機会に取るのも悪くない。――君が本当に四六時中、ずっと俺と一緒にいる気ならだが」

「は、はい! 勿論です。ずっと一緒にいます」


 仄香は咄嗟にその言葉に食いつく。志波が自分のために休みを取ろうとしてくれている――それだけでも幸せすぎて昇天しそうだ。

 とにかく志波をあの現場から引き離して、どこか屋内にいればいい。壁のある屋内であれば飛び降り自殺を見ることもできないだろう。姑息な手段ではあるが、何もしないよりはマシだ。


 志波が了承してくれたことに内心ほっとしているうちに、車は武塔峰の駐車場に到着した。

 離れるのを名残惜しく思っていると、志波の手が仄香の背中に回り、ゆっくりとした動きでその体を引き寄せる。


「おやすみ、仄香」


 抱きしめられ、耳元でそう囁かれた。

 仄香が放心している間に後ろで車のドアが開き、外の冷えた空気が車内に入ってくる。早く閉めなければ志波が寒いだろうと思い、急いで飛び出る。


「お……おおっ、おやすみなさい! 大好きです」


 仄香のその言葉に返事はなかった。志波を乗せた車が静かに走り去っていく。

 夜風に吹かれながら、仄香の顔は火照っていた。


(あ……甘すぎる……!!)


 志波の甘い声がまだ耳に残っている気がする。

 突然何のご褒美なのか。ああすることで仄香が喜ぶと分かっていてやっているとしか思えない。

 もう何かの策略だったとしてもそれでいい。一生志波に騙されて生きていくのもそれはそれで幸せだ、などと考えてぽうっとしていると、ポケットの中の端末が震えた。

 取り出して画面を見る。


『尚弥にメモリー渡すの忘れるんじゃないわよ』


 夏菜子からの短いメッセージだった。


(ヤバい、うっかり忘れるところだった……!)


 志波に抱き寄せられたことで全ての記憶が飛んでしまっていた。

 慌てて鞄からメモリーを取り出し、カードキーをかざして寮の門を潜る。



 消灯時間はとっくに過ぎているため、寮の廊下は真っ暗だった。

 靴を履き替えて中に入り、エレベーターに乗り込む。


 尚弥とは男子寮と女子寮の間の共用フロアで待ち合わせしている。

 夏菜子も連絡してくれたとのことなのでおそらくもう着いているだろう。待たせていたらまた何か文句を言われるかも……と怖気づきながら共用フロアで降りた。


 フロアの一角、生徒たちが休憩や勉強に使う机があるフリースペースの電気が付いている。仄香はそこに向かって歩いた。

 予想通り、広いテーブルを囲む椅子の一つに尚弥が座っている。


 ――しかし、様子がおかしい。


 寝ているのか、テーブルに突っ伏したまま動いていない。

 恐る恐る近付き顔を覗き込むと何だか苦しそうだった。

 不自然に汗ばんでいるようにも感じてその頬に手を当てる。


「あ、熱……っ!」


 かなりの高熱だ。そういえば、初詣で会った時から風邪疑惑はあった。

 どうしようと焦って周囲を見回す。深夜なので他の生徒はいない。仄香がどうにかするしかない。


(こんなところで寝かせるのはちょっとな……)


 尚弥の体を弄って学生証の入った財布を取り出し、学籍番号を確認する。

 学籍番号を用いて学内検索システムで検索すると寮の部屋番号が出てきた。ルームメイトを呼べたらよかったのだが、多くの生徒は今、帰省中で不在だ。

 何とか尚弥を担ぎ上げ、男子寮の方へ歩を進めた。

 エレベーターで尚弥の部屋の階へ向かい、財布と一緒にポケットに入っていたキーケースから寮のルームキーを取る。

 部屋のロックが解除された。何とか中に運び込み、ベッドの上に尚弥を乗せる。


「重かった~……」


 仄香はふうと大きく息を吐き、床にへたり込んだ。

 自分よりも大きい体の男性を運ぶのはなかなか骨が折れる。しかし今後異能力犯罪対策警察を目指すなら、人命救助の場面でそういったことも必要となってくるだろう。もっと軽々持ち上げられるようにならねばと思った。


 ベッドの上のかなり苦しそうな尚弥に視線を向ける。

 ただの風邪であれば放っておいても治るだろうが、水分補給はさせておいた方がいいかもしれない。


 キョロキョロと辺りを見回すと、勉強机の下のダンボールに常温のペットボトルらしきものが置いてあったのでそこに手を伸ばした。買い溜めしているのか、水や栄養補助食品がいくつも入っている。


 水のペットボトルを一本を取って取り出そうとした時、机の裏側から何かが剥がれて床に落ちた。バサッと音を立てて広がったのは、大量の写真だ。



 最初は暗くてよく見えなかった。

 どうしてこんなところに写真が貼られているのだろうと不思議に思って拾い上げる。その写真に映るものを理解した時、仄香の思考が一瞬止まった。


(……何で?)




 ――――映っているのは、全て仄香の盗撮写真だった。



 背景の写真を撮っていてたまたま映ったという説明では片付けられない、部屋にカメラを仕込んでいるとしか思えない写真の数々。部屋だけではなく、学校にいる時の写真もある。廊下、教室、グラウンド、中庭、女子更衣室まで、至るところにいる仄香を映した写真だ。


 机の裏を見ると、まだ貼られている。

 震える指で他の写真にも手を伸ばした。


(これは高校の入学式……こっちは中学? 時系列順に重ねられてる)




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