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お前に刺されて死ぬなら悔いはない  作者: 淡雪みさ
高校一年生編

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違法カジノ



「ちょ、ちょっと二人とも。茜ちゃん達の前でくだらない口喧嘩しないでよ、みっともない」


 尚弥の母親が慌てた様子で二人を宥める。

 それによって二人の口論は止まり、不意に尚弥がポケットに手を突っ込んだまま仄香の隣の茜を見下ろした。


「茜。……大丈夫か?」

「……え?」


 尚弥の問いに、茜が意外そうに目を見開く。


「何かあったら頼れよ。一人で抱え込むな」

「……何もないって言ったじゃん……。あの時」


 あの時というのがいつのことか仄香には分からないが、茜が気まずそうに俯くということは二人の間で何かあったのだろう。

 何だか二人の世界を構築している尚弥と茜の間に入っていけず、仄香はただじっと見守る。


「お前は何かあっても何もないって言うだろうが」

「……尚弥には関係ない」


 茜は突然不機嫌になって踵を返し、おみくじ結び所から立ち去っていった。

 仄香は慌ててその後を追いながら、尚弥と夏菜子たち伊緒坂一家を振り返る。


「あの! あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


 最初に言い忘れていた新年の挨拶だ。

 尚弥の両親は「よろしく~」とにこやかに手を振ってくれて、尚弥は無視してきて、夏菜子はちょっと不服そうに「ヨロシク」とカタコトで返してきた。




 ◆


 初詣が終わった翌日。

 正月気分は終わり、冬休み明けまでもう少しというところだ。仄香は冬休みの宿題をコツコツやるタイプなので特に焦りはない。

 対して茜は昔から頭が良すぎて周りの水準に合わせた宿題に意義を見出だせないタイプである。「やる意味ない……面白みもない……」とブツブツ物凄く嫌そうにしながら取り掛かっていた。

 仄香はそんな茜の隣で、春の飛び降り自殺目撃を食い止める方法を計画したりM.Oについての情報を集めたりしていた――が。


 そんな仄香の元に、夕方頃一本の電話がかかってくる。


『やっほーう、ほのぴ。あけおめぇ』


 電話に出るなりゆるゆるとした口調でそう言ってきたのは、宵宮だった。


「あけましておめでとうございます。……あの、一応志波先輩と宵宮先輩宛てに年賀状送ったんですけど見ましたか?」

『マジ? 律儀だね。届いてないよ』

「届いてない……!?」

『正確には届いてはいるんだろうけど、僕ら宛てのファンレターって一旦危険物ないか職員がチェックする決まりだからさ。年末年始休暇過ぎた営業日以降じゃないと僕らの元には届かないと思う。早くても今日かなー』

「そん……な……」


 仄香は衝撃を受け、慌てて志波に宛てて新年の挨拶をメッセージで送信した。誰よりも早く志波にあけましておめでとうを伝えたかったのに、忙しい志波にメッセージなんて気軽に送れない、と思って遠慮したことを後悔した。

 電話の向こうで宵宮が笑う気配がする。


『あいつ基本的に通知切ってるタイプだし、自分のタイミングで確認してるみたいだから送る側はそこまで遠慮しなくていいと思うよ』

「……宵宮先輩って電話越しでも心読めるんでしたっけ?」

『んーん? ほのぴならこう考えるかなって推測しただけ』


 エスパーすぎる、と少し怖くなった。


「それで、宵宮先輩の用件は何ですか?」

『新年早々悪いんだけど、僕の仕事手伝ってくんない? 今回はほのぴにピッタリの案件だよ』

「……私にピッタリ?」

『違法カジノに潜入すんの』


 ――違法カジノ。普通に生活をしていたらなかなか聞かない単語に一瞬、固まる。


「それ、私がギャンブラー向いてるからって意味で言ってます? 私、一応目指してるのは警察なんですけど……」

『警察として潜入するんだよ。それにはほのぴの異能が必要。手伝ってくれるよね?』

「…………」


 ごくりと唾を飲み込んだ。初めての潜入捜査だ。

 ドラマみたいでかっこいいと少しワクワクした仄香は、早速準備をするため茜の研究室を出た。



 ◆



 向かう先は、ドレスコードのある表向き合法の高級カジノ。

 そんなところに着ていける服を持っていないと宵宮に伝えると、『貸してくれる奴がいるから大丈夫』と言われてしまった。ドレスなんて汚したらいくら弁償させられるか……と心配して自分の預金を確認しながら宵宮の車を待つ。

 しばらくしてやってきた赤い車の助手席には――夏菜子が座っていた。


「げっ」


 夏菜子は窓を開けて仄香を見るなり嫌そうな声を出す。


「ちょっと千遥、助っ人ってコイツ? 未成年を捜査に付き合わせるとか正気?」


 夏菜子は豊満な体を黒いドレスに閉じ込めており、化粧もしっかりしていて、いつもよりかなりセクシーに見えた。大人の女性の色気とはこういうことを言うのだろう。


「ほのぴの異能は役に立つよ、今回」

「何かあって後で怒られても知らないわよぉ?」

「だいじょーぶだいじょーぶ。その時は僕が責任取るから」

「あなたいつもそうやって……まぁ、いいわ。今回は時間もないし」


 宵宮と会話のラリーを続けていた夏菜子は、今度は車の横で突っ立っている仄香に視線を向け、じとっと睨んできた。


「……後ろ乗りなさい。言っとくけど、泣き叫んでも途中じゃ返してやれないから。怖いなら今のうちに帰ってもいいわ」

「わ、分かりました!」


 急いで後部座席に乗り込むと、夏菜子が「いや乗るんかい」と小さくツッコミを入れてくる。運転席の宵宮がそれにぷっと噴き出した。


「ね、ほのぴ、面白いでしょ」

「まぁ、危険に自ら突っ込んでいく狂人の匂いは感じるわ。第一課に多いタイプ。あ~ヤダヤダ」


 夏菜子はうんざりした様子で首を横に振る。

 今回仄香にドレスを貸してくれるという人物は、おそらく彼女だろう。


 仄香は後ろで縮こまりながら、控えめに前の二人に聞いてみる。


「あの……それで、今回私がやることというのは」

「狙ってるカジノ、結構規模がデカいんだけど、表向きはお金を賭けてないただのゲーム会場で合法ってことになってるんだよね。違法なことやってる会場まで行き着くのが大変なわけ。合法ゾーンでは一部の常連と、連勝してオーナーに気に入られた奴だけがVIP待遇を受けることができるようになってて……その待遇の一つが、違法ゾーンへの招待だって言われてる」


 仄香はふむふむと宵宮の話を真剣に聞き続けた。

 これまで捜査が全く進行しなかったのは、徹底的に勝った人間しか上階に入れない仕組みになっているからだそうだ。

 さらに――イカサマを見抜く異能力者がいる。安易に大量に警察を潜り込ませてもすぐ見破られるらしい。

 違法カジノの現場を取り押さえるには、正々堂々勝利し続け、VIP待遇を狙うしかないのだ。


「僕は相手の心が読めるから勝つのは余裕で、ほのぴも未来視で試行ができるから勝てるでしょ。夏菜っちは僕らの護衛と、既にVIP待遇を受けている常連との接触を図る予定。当然一晩じゃオーナーの目に付かないだろうから、ほのぴはこれから定期的に来てもらうよ」

「……方向性は分かりました。でも、一ついいですか?」

「うん。何?」

「私、ゲームのルール全く知りません……」


 そこだけが心配だった。いくら未来視ができてもゲームのルールが分からなければどっちが勝ったのかすら理解できない。

 すると、夏菜子から乱暴にバインダーを渡された。


「それに今回向かうカジノで行われてるゲームの種類が全部記載されてるわぁ。着くまでにルール調べて覚えなさい。初心者丸出しの女が突然連勝したら不自然すぎて怪しまれるでしょ」

「こ、これ全部ですか……?」


 バインダーに挟まれた紙には、バカラ、ルーレット、ブラックジャック、ドラゴンタイガー、レッドドッグ、クラップス……など、見たこともない単語の羅列が並んでいる。





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