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お前に刺されて死ぬなら悔いはない  作者: 淡雪みさ
高校一年生編

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「んー。まずサッキーはダメでしょ。そもそもM.Oへの復讐心で生きてるような人間だし、自分の信念を曲げて僕らに協力できるような柔軟性があると思えない。なおやんも、見た感じダメかな。ああ見えて正しい側の人間だよ。それ以外の武塔峰の異能力科一年に興味をそそられる人材はいない」

「後輩のことそこまで品定めしてたんですか……?」

「うん。品定めした上で、僕はほのぴだけが欲しいって思ったんだけど、僕のものになってくれる気ほんとにない?」

「…………」


 宵宮がその茶色っぽい瞳で誘うようにじぃっと見つめてくる。

 近くで見ても文句の付け所のない美形だ。こんなイケメンにこのような目で見られたら、大抵の女性はドキドキして恋に落ちてしまうのではないかと思う。加えて夜景の見えるシチュエーションと甘い言葉。まるでドラマのワンシーンのよう。

 しかしだからこそ――できすぎているように感じる。


「なんか胡散臭い……」


 ぼそっと本音を呟いてしまい、ハッとして口を押さえる。

 しまった、声に出ていた。


 すると宵宮が笑いながら仄香から手を離し、煙草を吸い込んでつまらなそうに言った。


「やっぱほのぴみたいな変わり者にはこれも効果なしかー」

「効果とは……」

「女の子って、〝君じゃなきゃダメ〟っていうのを演出されるのに弱いじゃん」


 その作戦には見切りを付けたのか、あっさりと手の内を明かしてくる宵宮にぞぞっと寒気を覚えた。

 宵宮は読心能力者である分、人が何を求めているのかの分析もしやすい人生を送ってきたのだろう。そしてその過程で得た知識を手当たり次第に仄香に試してこようとしている。


「勿論、どんな人間であれ代わりがいないなんてことは有り得ないから、薄っぺらい方便なんだけどねぇ」


 宵宮がけらけらと笑うので、少し考え込んでしまった。

 確かに、君でなくてはいけないと言われたら、普通なら認められた気がして嬉しいはずだ。誰かにとっての特別であるというのは多かれ少なかれ人を喜ばせる状況だろう。

 しかし仄香は少しもそうは思わなかった。何故かと考えた時に、一つ思い当たる答えがある。


「それが効かないのって、私が宵宮先輩に何も求めてないからじゃないでしょうか」

「……うん?」

「私、宵宮先輩のことは尊敬してますけど、宵宮先輩に気に入られたいとか認められたいとか求められたいとか、そういうこと全く思ってなくて。宵宮先輩の人間性をある程度理解してるから、私は宵宮先輩には人間的な繋がりを何も期待してないんだと思います。宵宮先輩が全ての人間のこと目的のための道具として認識してるの分かってるから何を言われても嬉しくならない。いやちょっとは嬉しくはあるんですけど、心の奥底までは響いてこないというか、届いてこないというか」

「…………」


 自分なりに導き出した感想を伝えると、宵宮の口角がひくりと動いた。


「……それってさ」


 オレンジ色の外灯のみが照らす暗闇なのでよく見えないが、宵宮が怖い顔をしていることは分かる。


「僕のことまーーーったく、微塵も男として意識してないって意味?」

「いや、男としてというよりは、もっと幅広く、人間としての繋がりを求めてなくて……」

「同じような意味だろーが。お前、たまに自覚なくトゲのあること言うよね」

「痛ッ! いたたたた痛いです宵宮先輩!」


 宵宮が頬を容赦なく抓ってくるので呻いた。

 そしてまた大きな溜め息を吐く。


「ほのぴを寝返らせるのなんて簡単と思ってたけど、僕今人生で初めて女の子相手に苦戦してるかも。高秋が誘ってもだめだったんでしょ? ったく、どーしたらいいのかな~どうしてもほのぴのこと欲しいんだけど」

「……私からは、潔く諦めてくださいとしか言えないです」

「めんどくせぇから抱こうかな」

「抱ッ……!?」

「男も単純だと思うけど、女も案外単純だからさ。肉体関係持った相手のこと好きになるようにできてるんだよ。ほのぴを仲間に引き入れるための最終手段としてはアリだよね」


 宵宮はにこりと笑って恐ろしいことを言ってくる。


 確かに、以前そのような話を茜からも聞いたことがある。

 子孫を残すという生物の本能に従うならば、性交した時点で男側の種をばら撒くという目的は果たされ男の女への熱は冷める一方で、女側はむしろ男への執着が深まるらしい。女性からすれば性交の後の出産が本番で、男を逃がすわけにはいかないからだとか何とか聞いた気がするが、詳しくは覚えていない。


「僕の経験則で行くと女ってヤって放置したら百発百中で依存してくるし」

「……それって女だからとかじゃなくて宵宮先輩の夜が特別凄いってことでは?」


 淡々と聞き返せば、悪戯っ子のような笑みを向けられた。


「何想像してんの。えっち」

「す、すみません。他人の性事情を憶測で」

「その憶測、確信に変えてやってもいいけど?」

「遠慮しときます……」


 苦笑いを返した仄香は、ふと尚弥のことを思い出して否定した。


「でもその本能的な話は私には当てはまらないと思いますよ」


 仄香は尚弥と散々性交している。最後まででなくとも、触れ合うことだけなら子供の頃から何度もやってきた。

 けれど尚弥に対して執着や恋愛感情は生まれていない。志波への一途さは他の男に体を奪われたくらいでなくなるものではなかった。


「多分、相手が誰であろうと同じだと思います。私は志波先輩にしか執着しません」


 そう言うと、宵宮が「へえ」と目を細めた。


「それってつまり、高秋とならヤったら愛がもっと深まって気が変わるかもってこと?」

「え」


 志波の裸を想像してしまい、カァーッと顔に熱が帯びる。酒でも飲んだのかと思ってしまうくらい一気に熱くなったので仄香自身も驚いた。


「恐れ多い……そんなこと、考えたこともありません……」

「ほのぴのドスケベ」

「ち、ちが、ちがちがちが違いますっ! 志波先輩と私がそんな、薔薇の咲くロマンチックなホテルでお互い裸で愛し合うなんてそんな……!」

「ガッツリ妄想してんじゃねーか」


 盛大なチョップを入れられ少し落ち着いた。


「ほのぴの理想通りのシチュエーションと高秋を用意して無理やり閉じ込めてやってもいいけど、本物の薔薇咲いてるホテルなんてあったかなぁ……」

「でもそれ以前に、志波先輩って不能なんですよね……?」


 真剣に聞くと、宵宮はぶっと噴き出した。


「神妙な面持ちでそれ聞くのやめてくれる? 面白いから」

「いやでも、そこ重要じゃないですか」

「もしかしてずっとそれ気にしてたの?」


 仄香はこくりと頷く。

 志波の機能がどうであれ、それによって愛情が左右されるなどということは全くないが、好きな人のことなので一応知っておきたい。

 百が一、億が一、そのような状況になったとして、相手のそれがどのような状態なのかを知っていて損はない――というか、普通に気になる。

 このようなことを本人以外から聞こうとするのも憚られるが、感情のない志波なら知られても別に何とも思わないだろう。




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