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お前に刺されて死ぬなら悔いはない  作者: 淡雪みさ
高校一年生編

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元カノ



 咲は仄香に予算を聞いた後、条件に合う洋服店に連れてきてくれた。ファッションに疎い仄香でも聞いたことのあるブランドだ。

 咲曰く、ここの服は高すぎない値段の割に細部まで拘られていて、都会的なスタイリッシュさもありつつ、女性らしさも程よく備えた魅力的なワンピースが揃っているとのことだ。

 マネキンが着ているものを見た感じ、着こなしやすい落ち着いた色のアイテムが多そうで、仄香も買うならここがいいと思った。


「気に入ったのあったらとりあえず試着してみましょ」


 咲に促されるまま店内を歩き回って色々な服を見た。

 しかし、どれも可愛く見えてしまって選べない。咲にはワンピースを強く薦められたのでとりあえずワンピースを買うというのは決めているのだが、ワンピースだけでも予想以上に沢山売られていて悩んでしまう。


(十二月は今より寒いだろうし、志波先輩の前で足は出したくないし……。できればロングで、デートに集中できるようなあったかそうなやつ……)


 自分の中で条件を絞り込みながら探していると、一つ良さそうなワンピースがあった。タートルネックのマーメイドワンピースだ。裏起毛と書かれているのでこれだけでも暖かそうであるし、上にコートを着れば更に防寒対策できるだろう。

 咲に意見を聞いてみると、手でグッドサインをされた。


「めっちゃいいじゃない! 一回試着してみて、シルエット良さそうだったらこれに決めましょ。仄香が試着してる間にこの服に合ったブーツもいくつか探しておくわ」

「えっ、靴も買うの?」

「当たり前よ。折角なら全身コーディネートしないと」


 確かに、仄香が持っているローファー以外の靴と言えば、学校用の運動靴と今履いているボロボロのスニーカーだけである。一つくらいお洒落用の靴があってもいいのではと思い、咲の提案を素直に受け入れた。



 服は試着したままタグだけ外してもらって着て帰ることにした。ブーツも咲が選んでくれたものが良さそうだったので即購入し、歩きすぎて少し疲れたのでカフェに入った。


(ちょっと、いやかなり、楽しいかも……)


 ミルクティーを飲みながら、〝友達と遊びに出かける〟ということの楽しさを実感する。

 咲はこの後化粧品コーナーに行ったり、アクセサリーを購入したりしに行くつもりのようだ。お洒落というのは大変である。


 午後の予定も楽しみにしていたその時、ふっと茜の存在が脳裏を過る。

 茜は今もきっと遊びもせずに研究していると思うと、途端に罪悪感が襲ってきた。


「……咲、もしよかったら妹へのお土産を買って帰りたいなって思うんだけど、時間ある?」

「時間ならあるわよ。テスト前でもないしね。妹って茜さんよね? 研究科にいる、あの天才研究者の」

「うん。やっぱり有名だよね」

「茜さんのこと知らない人、この学校にいないわよ。入学当初からあの天才が入ってきたって騒がれてたし。クラスメイトに聞いた話じゃ、研究科の中でも一目置かれるみたいよ?……まぁ、目立ってる分嫉妬の目も向けられてるみたいだけど。ほら、研究科内部って自然と派閥とかできてるでしょ。その派閥のどこにも属さずに単独で成果を上げてるからちょっと浮いてるみたい」

「茜ちゃんは昔から、私と尚弥以外の人とはあんまり関わってこなかったからなあ……人見知りだし」


 仄香が茜らしいと思いながら苦笑いしていると、急に咲の表情が真剣なものになった。


「……前から聞きたかったんだけど、茜さんってどんな子なの?」


 声音の低さから、それはただの好奇心から来る質問ではないように思われた。


「何で?」

「たまにあたしのことじぃっと見てる時あるから。……自意識過剰かもしれないけど」

「咲は異能力科の実力者だから興味持ってるのかもね。あの子、研究対象として興味を持つものがあると周りが見えなくなるから……」

「うーん、あの目は興味ってよりは――」


 咲が何か言いかけた時、バンッと仄香たちのテーブルを手で叩いた人物がいた。


 見上げるとそこには、見知らぬ金髪の美女が立っている。身長は高く足はすらっと細く、芸能人と言われても驚かないくらい小顔で、外ハネしているミディアムヘアがよく似合っている。はっきりとした顔立ちで、いわゆるギャルっぽい女性だ。

 仄香はこれまで出会ってきた中で咲ほどの美人はそういないと思っていたが、この女性も別系統の美形である。思わず見惚れていると、美女は冷たい目で仄香を睨みつける。


「高秋を誑かしてるっていうのは、あなた?」


 明らかに敵意を持っていると感じられるその態度に、仄香は黙り込んだ。

 怯んで何も答えられずにいるうちに、美女は仄香たちが座っているテーブルのもう一つの席に勝手に腰をかけると、足を組んで自己紹介してきた。


「はじめましてぇ。異能力犯罪対策警察第一課、伊緒坂いおさか夏菜子かなこです」


 伊緒坂という名字。しかも、異犯所属。

 思い当たる節があった。――尚弥の姉だ。


 幼なじみの姉とはいえ、夏菜子は幼い頃から他国に留学していてほとんど関わる機会がなかった。夏菜子の姿を最後に尚弥の家で見たのはたった一度。彼女が一時的に日本に帰国していた夏くらいである。

 大人になってから会うのは初めてだ。別人かと思う程女性的な色気を放つようになっていることもあり、ぱっと見て思い出せなかった。

 相手も一度見ただけの仄香のことなど忘れているようである。


「あの高秋がわたしのことをフってまでかまけてるって言うからどんな子かと思ったけど……ちんちくりんのガキじゃなぁい」


 はっと鼻で笑われた。

 点と点が繋がるような心地がした。宵宮が異犯に志波の元恋人がいると言っていたのを思い出したのだ。本人の発言からしても、夏菜子が最近まで志波と交際していた元恋人であると推測できる。

 ということは、宵宮から仄香のことを聞いて怒りに来たと考えるのが妥当だ。

 仄香はぎゅっと膝の上で手を握って聞いた。


「私を捜してここまで来たんですか? 一体どうやって……」

「異犯の権限で監視カメラの人物検索機能をハックしただけよ」

「…………」


 どうしてこう、異犯には権限を不正利用する職員が多いのだろう。


「ちょっとあんた、いきなり来て何なワケ? あたしと仄香、今二人で遊んでる最中なんだけど」


 横から咲が不機嫌そうに夏菜子を睨み付ける。年上相手でも失礼な相手には毅然とした態度を取れるあたり、さすが咲だ。


「あら、邪魔してごめんなさいね? でも、それより先にわたしの方が恋人との仲を邪魔されて困ってるから。いくら子供相手でも、売られた喧嘩は買わないとねぇ?」


 薄く笑って目を細める夏菜子にゾクリと寒気が走る。

 その表情からは本気で怒っていることが感じ取れる。考えてみれば当たり前だ。ぽっと出の女子高生がデートをしたいと軽い気持ちで要求したせいでフラれたのだから。夏菜子から見れば仄香は突然現れた害虫だろう。


 一体何を言われるのだろうと内心怯えていたその時――後ろから、聞き慣れた声がした。


「おい、姉貴。自分の荷物くらい自分で持てや」

「姉貴って何よぉ。お姉様、でしょ?」

「お前をそんな敬う気ねぇよ」

「はァ~? あなたいつの間にそんな生意気なガキに育ったわけぇ? 昔は可愛かったのに」


 後からやってきたのは尚弥だ。その手には大量の紙袋があり、夏菜子の購入したものを持たされているであろうことが窺える。どうやら休日に姉弟仲良く二人で買い物に来た最中だったらしい。





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