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お前に刺されて死ぬなら悔いはない  作者: 淡雪みさ
高校一年生編

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宵宮千遥の過去 ①



 僕が小さい頃、若年層の異能力発現割合は今よりずっと低かった。低いと言ってもそれは日本国内だけの話で、異能力者自体は世界全体で見ると着実に増え始めていた。警視庁は他国の状況を鑑みて早くから日本国内での異能力犯罪の増加を予測していて、異能力犯罪対策課の前身となる組織もこの頃には既にできていた。

 とはいえ異能力者は日本ではまだまだ少数派。人類の新たな進化だと讃える人間もいる一方で、異能力の法規制を求める声や、過激なところで言うと異能力者の隔離や殺害も一部では支持されていた。



 そんな時代に、僕の父親は戦後長く日本の政治を支配している日民党に所属する有名な政治家をしていた。

 政治家の間でも異能力に関する扱いや利用についての意見が割れる中、父さんの派閥は明確に異能力推進論を唱えていた。彼らは、これからの時代国力増強のためには異能力が不可欠であると訴え、国民からの理解を得られるよう努めていた。


 この頃まで、父さんの世論人気は高かった。


 その年、父さんが立候補した日民党総裁選は混戦を極めた。当時の総理が戦後初の不出馬を表明し、それを受けて比較的若い世代が次々と出馬を表明した。

 日民党の総裁選は基本的には首相を決める争いになる。その年の総裁選は派閥間だけでなく派閥内の争いもあり、誰が誰を支持するか見えてこない、どう転ぶか分からないという緊迫した状況ではあったが、父さんが本当に日本の首相になる可能性は十分あった。



 そんな中、有力候補であった父さんの立場が揺らぐ出来事が起こった。

 ――父さんの子供である僕が高レベルの異能力者、それも三種類の異能力持ちであることが世間に広まったのだ。



『自分の子供が異能力者だからといって異能力推進を支持してるのではありませんか? 公私混同なのでは?』

『息子を優遇し、国民のことは危険な目に遭わせるということでしょうか? そもそも異能力使用者自身の安全性についても証明されていないのですよ!』

『海外の異能力使用による事故率のデータはどう見ていますか?』


 テレビの中のマスコミは毎日毎日、執拗に父さんを追いかけ回していた。総裁選の真っ只中、話題性も申し分ない。どのニュース番組も飽きもせず父さんの映像を流していた。父さんは昼夜追い回され、意地の悪いマスコミの聞き方や煽りに負けた。

 「新しい技術を受け入れられない国民は頭が悪い」――それは大きな失言だった。政治家の人生は言葉一つで終わる。この発言によって父さんへの非難はますます燃え上がり、党員票も取ることができなかった。最初は最有力候補と呼ばれていた父さんは総裁選に負けた。


 その後、どこから嗅ぎつけたのか、自宅にも大量の落書きや罵詈雑言の書かれた紙が貼られた。殺害予告まで何度も届いた。

 僕は昔から他人の声など気にならないタイプの子供だった。家に貼られた紙に書かれた酷い言葉の羅列を見ても、大量に投げ捨てられた生ゴミを見ても、「またか」くらいの気持ちでいられた。


 ――でも、母さんは違ったらしい。


 中学一年生の冬、母さんが自宅で首を吊って自殺していた。

 塾帰りの僕は、縄に首をかけてぶら下がっている母さんの垂れ流しの糞尿を見ても、妙に冷静な気持ちでいた。


 こういう時ってどこに連絡していいか意外と分かんないもんだな、と思いながら〝 自宅に死体 どこに連絡 〟と検索した。

 明らかに亡くなっていると思われる場合も110番と書かれていたので、とりあえず警察に電話した。事務連絡のような感じで淡々と、状況を正しく伝えることができた。

 遺体は動かしてはいけないらしい。いつ回収されるのだろうと思った。これが回収されたら、母さんの姿を見るのはこれが最後になるのだろうか。

 僕は警察が来るのを待ちながら、ひとまずリビングの椅子に座り、吊られたままの母さんの死体を眺めた。


 父さんは一応、政治家を続けている。今も日々忙しい。だから家に帰ってくることも少ない。僕も中学でできた新しい友達と遊ぶのが楽しくて、友達の家に泊まってゲームをしてばかりだった。

 誰も母さんを見ていなかった。僕も父さんも母さんを置き去りにした。家にずっと嫌がらせをされているような状態でだ。


 バカな奴らが、誹謗中傷ばかりしなければ。

 ……いや、違うな。


 その瞬間、ずっと目を逸らしていた事実と、明確に目を合わせてしまった。――僕が異能力者じゃなければよかったのか? と。

 僕が異能力者でなければ、父さんは内閣総理大臣になれて、母さんも自殺しなかった。


「っはは、全部僕のせいじゃん。おもしれー」


 不思議と涙は出なかった。むしろ変な笑いが漏れた。

 その時から、僕は自分のことが嫌いになった。




 僕は異能力を隠して生きるようになった。異能力を極力使わず、自分がそんな力を持っているということも忘れるようにして日々を過ごした。

 父さんは再婚を全く視野に入れていないようだった。父さんは言葉はきついが愛情深い人で、「俺は一生あいつだけだ」と涙を流していた。最初は僕に気を遣っているものと思って、「父さん忙しいし、支えてくれるパートナーは必要なんじゃない?」と明るく勧めてみたが、父さんは「千遥さえいればいい」と言ってくれた。

 正直、その方が有り難かった。父さんには父さんの精神面を支えるような人物がいた方がいいと思いつつ、まだ僕も、母さん以外の女性を家族にするような心持ちにはなれなかった。


 母さんが死んでから、父さんは家族との時間を大切にするようになった。家族と言ってももう僕しかいなかったけど、仕事で東京都外に行く時には必ず僕を連れて行くようになった。ホテルもわざわざ僕と同じ部屋を取ったり、朝食も豪華なところを選んだり、忙しいなりに僕との楽しい思い出を作ろうとしていた。



 そんな日々が続いた中三の冬、父さんが北の大地に演説に行くことが決まった。父さんが演説のために遠出することは珍しいことではなかった。

 僕は政治に全く興味がないので、聞いていて本当につまらなかったが。


 その冬も父さんの演説に付いていって、聴衆に混ざって遠くから父さんを見ていた。

 あの失言から二年。父さんは政治家として死んだかと思われたが、未だに根強い支持者もいて、地位を立て直しつつあった。何が面白いのか真剣に父さんの話を聞いている聴衆を眺めながら、僕は寒すぎて自販機で勝ったホットティーの缶で手を温めていた。



 ――――父さんの演説の半ば、クラッカーのような音が響いた。


 群衆が不思議そうに辺りを見回す。俯いて端末をいじっていた僕も、何の音かと思って顔を上げた。ふと壇上にいる父さんの方を見ると、父さんが喉を押さえて苦しい顔をしている。父さんの隣にいた人物が父さんを支えて父さんの顔を覗き込んでいた。


 次の瞬間、立て続けに発砲音が轟き、父さんの隣にいた人物も父さんと共に崩れ落ちる。「発砲だ!」と誰かが叫んだ。SPが既に動き出している。


 僕は思わず父さんの元へと走り出した。柵と警備の人間がいるせいで近付くことができず、「父さん!」と叫んだ。


 同時に、再度銃声が響く。



 目の前で父さんの頭が飛び散っていった。



 群衆が悲鳴や怒声を上げ、場はパニックに陥っている。

 僕は飛び散った父さんの頭部を必死にかき集めようとした。冷静に考えればそんなことをしても意味はないのに、その時は僕もパニックになっていて、父さんの頭部を集めてくっつけなければと思った。血飛沫で染まった雪の上、雪と一緒に父さんの一部を拾い集めていた僕は、その場にいた警備員に強引に取り押さえられた。

 後に聞けば、僕はその後必死に何か叫んでひたすら暴れていたようだが、その時の記憶はもうほとんどない。




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