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お前に刺されて死ぬなら悔いはない  作者: 淡雪みさ
高校一年生編

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トレーニングジム



 さすが武塔峰の生徒用なだけあって最新の設備だ。どこを見ても高そうな機械が並んでいる。これが月一万以下と考えると安いものだろう。

 平日とはいえ人はぽつぽつといて、ランニングマシーンで走っている人や重たいダンベルを上げ下げしている人が見える。

 尚弥はどこだろうと捜しながら歩いていくと、彼は奥のマットがある広い空間に立っていた。一面ガラス張りで、最上階であるため眺めもいい。眺めといっても武塔峰の周辺は何もないので、遠くに都会の明かりが見えている程度だが。


「あ……あの、尚弥、お金ありがとう」


 無理やりではあったものの、尚弥のおかげでジムに来れているのでお礼を伝える。

 しかし尚弥からは〝どういたしまして〟の一言もなかった。


「まずはプッシュアップとクランチ、プランク、ヒップリフト、ドローイング、レッグランジを三セットずつだな」


 何語? と思ってぽかんとしていると、『筋トレ入門書』という本を投げつけられる。開いてみると初心者向けのトレーニングメニューについての説明が書かれていた。付箋や書き込みもある。おそらく尚弥が昔から使っていた本なのだ。

 尚弥の筋肉は同学年の男子の中では一番綺麗に付いている。いわゆる細マッチョというやつで、体育の時に女子から騒がれていた。その体になるまで、見えない場所で相当な努力を積み重ねてきたのだろう。改めて尚弥の凄さを思い知る。

 しかし、要求されていることはなかなかにハードな気がした。


「これ全部……今日帰るまでに?」

「しばき倒すって言っただろ」


 当然だと言わんばかりの顔をする尚弥。

 トレーニングジムは二十四時間営業だ。終わるまで帰してくれないなんてことも有り得る。

 仄香は急いで尚弥に指示されたメニューについて読み込み、トレーニングを開始した。



 ◆



 数時間後、案の定仄香はヘロヘロになっていた。

 尚弥に指示された内容はまだ終わらない。というか、終わってもまたメニューを追加されたため終わりが見えない。


「っはぁ、はぁっ……はぁぁあ……」


 既に筋肉が痛い。体の力が入らなくなってきた。

 時刻はもう二十三時を過ぎている。平日からジムに来ている熱心な生徒たちももう皆帰ってしまった。


(尚弥は何であんな、涼しい顔してられるんだろう)


 ちらりと少し離れた位置でずっとトレーニングを続けている尚弥を確認する。

 仄香と違って休みを挟んでいないはずの尚弥が、息一つ上げていないのが信じられない。ただ淡々と、息をするように動き続けているのが見える。


(敬意を込めてこれから尚弥のことは心の中で筋トレ王と呼ばせていただこう……)


 ふざけたことを考えるとバチッと尚弥と目が合う。


「おい。何休んでんだ」

「ご、ごめん」


 慌てて動きを再開する。水分補給以外で許可なく休んでいるとこのように怒られるので動き続けるしかない。

 しかし、そろそろ腕が限界だ。さっきからずっとプルプルしている。腕立て伏せしていた仄香はベチョッとマットの上に倒れた。

 武塔峰の生徒である以上、仄香には一般の高校生よりも体力がある。だが、さすがにここまで追い込められると疲れてきた。


「っはぁ~~~~……」


 大きく深呼吸してうつ伏せから仰向けになる。

 もう四時間以上もこうしているのだから、そろそろ尚弥も帰してくれるのではないだろうか。

 筋肉を鍛えたいと言い出したのは仄香自身だがもう動けない。一度寝てからもう一度再開した方が効率はいい気がしてきた。


「ん」


 その時、いつの間にか近くに来ていた尚弥がぴとっと冷えたスポーツドリンクのペットボトルを仄香の頬にくっつけてきた。

 一瞬驚いたが、火照っている顔にペットボトルの冷たさは心地よかった。


「きもち~……ありがとう」


 へらりと笑って受け取り、ハッとする。尚弥に対してまるで子供の頃のような笑顔を向けてしまった。

 疲れて気が緩んでいた。尚弥は散々いじめてきた相手であるということ、忘れてはならない。


 そう思った時、視界が暗くなった。尚弥の顔が近付いてきている。疲れているため咄嗟に避けられず、そのまま尚弥の唇を受け入れた。

 尚弥の汗はいい匂いがする。そんな変態のようなことを考えてしまった自分が嫌で、カァッと顔が熱くなった。


「……尚弥、何でこんなことするの?」


 小さな声で聞いてみる。

 尚弥は昨日もキスしてきた。仄香への嫌がらせにしても、尚弥自身は嫌ではないのだろうか。


 しかし、尚弥は仄香の問いには答えず仄香の首元に顔を埋める。


「……あ……汗かいてるから」


 尚弥が仄香を無視するのはいつものことだが、今回ばかりは無視されたら困る。


「は、離れて」

「……」

「ねぇ、尚弥ってば、っぎゃあ!」


 首に舌を這わされて高い悲鳴が出た。

 この時間帯で良かったと思った。もしこのフロアに他に人がいたら、聞かれていたかもしれない。


 いつの間にか尚弥に両手を頭上で重ねて押さえ付けられている。

 尚弥は仄香の首筋を噛みながら、一枚しかない仄香の服の中にもう片方の手を入れた。


 通常ならもう少し抵抗できたかもしれないが、ずっと体を動かしていたせいで腕にも足にも力が入らない。


「やだ、触んないで」

「何で嫌がってんだよ。子供の頃もしただろ。こういうこと」


 耳元で尚弥の低い声がしてゾクッと寒気のような感覚が走った。



 ――『やっぱり入らねーよ、こんなとこ』



 幼い頃、〝奴隷ごっこ〟でしていた最低な記憶が呼び起こされる。



 ――『うーん、大人にならないと無理なのかなあ』



 大人の雑誌に影響を受けて真似をして、お互い裸になって、触れ合っていた。



 ――『指なら入るのに……』

 ――『俺らがまだ幼すぎるってことだろ』



 何度やっても失敗するから、結局いつも互いを舐め合うだけで終わっていた。



 ――『大人って何歳くらいなんだろうな』

 ――『できる年齢になったら、またしようね』



 少年少女の秘密の約束。それが果たされることは今の今まで一度もなかった。



「や、やだ、だめ、だめだめだめっ」


 尚弥はもう子供じゃない。力でももう勝てない。声からも体格差からも、それを嫌という程思い知らされる。


 そこに先端があてがわれ、尚弥が腰を動かせば始まってしまう状態。

 子供の頃何度もした格好だ。あの頃、何故か憧れ、尚弥としたくてたまらなかった行為。しかし今となっては違う。仄香はそれが何を意味する行為なのかもう理解している。


「そこは、志波先輩とがいいっ……」


 ――仄香が悲痛な声を漏らすと同時に、圧倒的な存在感を放つ屹立が、苛立ったように仄香の中を貫いた。


 尚弥が低い声を出す。


「おい、今何つった」

「あ、う、しば、志波先輩がいい、って……」

「あーそうかよ。残念だったな」


 片側の口角を上げて笑われた。ざまあみろ、とでも言うように。


 尚弥が動き出す。

 痛い。それ以上に恥ずかしい。何故ただの幼なじみとこんなことをしているのだろう。

 お互い既に汗だくでベタベタしていて、心地良いとはとても言えない。昔雑誌で見たようなロマンチックなものじゃない。この行為はもっと生々しい何かだ。


 喪失感に襲われながら終わるのを待った。

 だんだん変な感覚がしてくる。幼い頃尚弥と散々指を入れ合った時以外では何も入れたことのないような場所だったのに、まるで自分の体ではないようにそこが反応し始めた。

 仄香はついに泣き出してしまった。


「……お前の泣き顔興奮する」

「酷い、最低、悪魔、だいきらい――……」


 泣きながら反発した後、それ以上言葉を紡げなくなった。


 尚弥があまりに愛しそうな目で見下ろしてくるから。

 きっと尚弥は自分を茜の代わりにしているのだと気付いた。



「俺の名前呼んで」



 ――私は茜ちゃんじゃないよ、という言葉を呑み込む。


「……な、おや」


 双子だけれど似ていない。声も性格も頭脳も。


 それなのに尚弥がこんなことをするのは――幼いあの頃、尚弥の純情を興味本位で奪い尽くした罰だろうか。





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